勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです〜喚ばれた先は多夫多妻のトンデモない異世界でした〜

第31章

異世界のオマケはてんこ盛りです（４）

　問題のドリアは、建物の入り口前で、神官風の衣装を着ている男となにやら話し込んでいる。

　神官服の男が院長先生なんだろうね。
　少し、男性にしては線が細い、ひょろっとした感じがするが、理知的で穏やかな表情の人物だったよ。

　もっと年をとった人かと思ったが、子どもを相手にするからだろうか、想像していたよりも若いのでびっくりしたよ。中年くらいかな。

　オレはもう、年齢不詳というか、何歳と名乗ってよいのかわからない存在になってしまっているから、あまり偉そうなことは言えないけどねぇ。

　ふたりのやりとりを邪魔するのも悪いと思い、オレは少し離れた場所で立ち止まる。

　手持ち無沙汰で、キョロキョロと周囲を見渡しているオレを、少年は不安そうな目で見上げていた。挙動不審者に見えてしまったのかな。

　オレは少年を安心させるために、もう一度、がんばって笑顔っぽいものを浮かべる。……成功しただろうか？
　少年がふるふる震えているから、……失敗したんだろう。

「ここは、落ち着いていて、すてきな場所だね。広場も、転んで怪我するような小石は落ちていないし、足にからまる雑草も生えていない」
「……毎日、みんなで……ちゃんと、掃除を……しているから」
「えらいね。きみたちが普段、どんなところで、院長先生とどんな生活をしているのか教えてほしいんだけど……今日は時間がないんだ。だから、あまりウロウロできないんだよ」
「そうなんだ……」

　オレの言葉に、少年はほっとしたような、残念そうな表情を浮かべる。
　と、そのときちょっぴり、悪戯心がオレの中に芽生える。

「それにね……」

　と言いながら、オレは身を屈め、少年の耳元でいたずらっぽく囁く。

「あの怖い、お姉さんと、お兄さんが見張っているから、ウロウロしたら怒られちゃうんだよ」

　少年はつぶらな瞳をパチクリさせながら、エリーさんとフレドリックくんを見比べ、それもそうか、と納得したようにうなずいた。

　こちらを探るようなエリーさんとフレドリックくんの視線が痛いが、子どもはコロコロと表情がかわって微笑ましい。

　そうこうしているうちに、ドリアは院長先生に焼菓子の入った袋を手渡していた。

　大きな袋を受け取ると同時に、院長先生は頭を下げる。「いつもありがとうございます」という院長先生の穏やかな声が聞こえた。

「ドリア待たせたな。用事は済んだから、大神殿に行こう！」

　院長先生に一礼してから、ドリアはオレの隣に駆け寄ると、手をつなごうとして、そこに先約がいたことに驚く。

「ナルクル……おまえ、誰の手を握ってるんだ？」

　ナルクルと呼ばれた少年は、ドリアの冷え冷えとした声に驚き、オレの手をぱっと離す。

　と、すぐさま、ドリアがオレの手を握る。

「おい、子ども相手に、凄んでどうするつもりだ？　大人気ないぞ」
「マオはわたしのものだ。誰にも渡さない」
「コラ、子どもに向かって威嚇するな」

　敵意むき出しのドリアをオレは叱りつけた。