勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです〜喚ばれた先は多夫多妻のトンデモない異世界でした〜

のりのりの

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第5章

異世界のセキュリティは優秀です(3)

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「ステイ!」

 オレが覚悟を決めたとき、エルドリア王太子の鋭い声が、温室に響き渡った。

 その声に、巨大花の動きがピタリと止まる。
 動く花はオレの眼前まで迫っていた。

(ヨダレ。ヨダレ!)

 頭上からヨダレが滝のようにダラダラと流れ落ち、オレは瞬く間にぐちょぐちょになっていった。

(オレって、そんなに美味そうなのか?)

 巨大花は、ヨダレを垂れ流しながらの状態で、ぱっくりと口を開いたまま、お利口なことに、動きを止めている。

 口はわかるが、目や鼻はないようだ。
 いや、口に対するインパクトが大きすぎるから、目や鼻の存在に気づかないだけかもしれない。

 びっしりと生えているとても鋭い歯を間近に見て、オレはさらに腰を抜かす。

 魔族の中には凶悪な種族もいるにはいるが、こんなんじゃない……。
 もう少しマイルドだ。

 これは……アレだ。
 歴代勇者の中にSFX好きという奴がいたが、そいつが好んで何度も見ていたエイリア……なんとかとかいう寄生生命体の口だ!

(異世界の造形レベル高すぎる……)

「ハウス!」

 再び、エルドリア王太子の凛とした声が、温室内に響く。

 その言葉を理解した巨大花は、大きな口をゆっくりと閉じた。
 よたよたしながらも回れ右をし、オレに後ろをみせる。そのままずりずりと茎を左右に揺らし、葉をゆらゆらとさせながら、ずりずりと奥の方へと戻っていった。

「マオ、大丈夫か? 怪我はないか?」

 青い顔をした王太子が、オレの方に駆け寄ってくる。

「ドリア……大丈夫だ。ちょ、ちょっと、驚いただけだから……」

 顔面蒼白な王太子の顔にも、オレは驚いていた。
 オレ、もしかしたら、かなり危ない状況だったのかもしれない。
 じわじわと恐怖が蘇ってくる。

「本当に、大丈夫なのか?」
 ちょっとどころではなく、腰が抜けて動けない……なんて、恥ずかしくて言えないので、懸命に笑顔を浮かべ、オレは平静を装う。

 王太子はかがみ込むと、オレの顔をまじまじと覗き込んだ。

(そんなに、じっくりと見ないでくれ……)

 本当は、恐怖で心臓がドクドクいっている。もう、口から心臓が飛び出てくるのではないか、というくらい、心臓が暴れまくっていた。
 このままだと王太子にオレの虚勢を見抜かれそうで、慌てて視線を反らした。

「い、今のはなんだったんだ?」
「申し訳ない。あの肉食花は……」
「に、にっ、にくしょくうっうっうっうっ!」

 驚くくらい、すっとんきょうな声があがる。

 あの花は肉を喰うのか?
 いや、そもそも、アレは花なのか?
 肉を喰って育つのか?

(……怖すぎる)

 あんな鋭い歯だったら、肉でも骨ごとバリバリいくよ。まちがいなく、いっちゃうよ?
 それこそ、ニンゲンなら、頭からバリバリいってそうだ。

「そうだ。肉食花だ。ここからもう少し先に進んだエリアでは、セキュリティのため……この部屋を利用する来賓を護るために、肉食花を栽培している」
「せっ、セキュリティ……だと?」
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