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第1章
異世界の勇者は魔王です(3)
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正直、三十五回も『勇者対魔王の最終決戦』を体験をしていると、テンプレ展開は安定していて、安心できるんだけど、どうにも飽きてくるんだ。いわゆる、マンネリ化……というやつだよね。
決して、手を抜いているわけじゃないんだけど、緊張感がなくなるというか……。
すみません。油断してました。
でもね、テンプレ展開がつづくとね、目新しい刺激がなくて、単調になってくるんだ。
設定とかちょっとひねったところがあっても、けっきょく、大筋は同じで、刺激がない。
そう。刺激だ。
オレは刺激に飢えていたんだ!
漫然と魔王として、魔族たちの頂点に立って魔王担当エリアを統括し、きたるべき勇者対決に向けて、討伐される準備をコツコツと積み重ねる。
このルーティーンが確立されればされるほど、コトはスムーズにすすむのだが、楽しさがなくなってくる。
愚かにも、オレは新たな刺激を、こともあろうか、女神に欲してしまったのだ。
****
実は、ここだけの話……。
毎回、勇者召喚が行われる前に、聖なる女神ミスティアナが、オレのところに『召喚される勇者の希望』を聞きにくるのだ。
女神ってよっぽどヒマなのか、律儀な性格なのかはわからない。
とにもかくにも、女神ミスティアナはリサーチが大好きな女神だった。
「魔王ちゃん、そろそろ勇者を召喚する時期になっちゃったんだけど……魔王ちゃんからは、なにか召喚する勇者に希望がある?」
と、聖なる女神ミスティアナが、魔王城に降臨して、質問してくる。
希望は聞かれても、オレの望みどおりにはならないことが多い。
なので、そのとき、オレは「ああ……またなんか、女神が言ってきたよ……」という軽い気持ちで「刺激が欲しい」とミスティアナに申告した。
それを聞いたミスティアナはというと、まな板のようなペッタンコな胸を思いっきり反らし、「おーっほっほっほっ」と、高笑いを響かせた。
どっちが悪者なのか、わからないくらい、悪女っぽい見事な高笑いだった。
女神ミスティアナの高笑いを手本として、練習を重ねたくらいだもんな。
今日の高笑いも、ミスティアナのものをオマージュした。
そういう意味では、女神ミスティアナは、オレの師匠でもあるわけだ。
このポンコツ女神のきまぐれで勇者が選ばれ、ある日突然、問答無用で異世界に誘拐拉致されるのだから、ホント、勇者は気の毒である。
「魔王ちゃんの可愛いらしいお願いは、この聖なる女神ミスティアナにお任せあれ!」
パチン、とオレにむかって派手にウィンクして、なにやら「キャピッ」とか言いながらポーズを決める。
本人は、「バッチリ決まった」とか思っているんだろうね。
可愛いか、可愛くないのか、って聞かれたら、可愛いと答えてしまう。
女神様としての品位がないのは間違いないけどね。
勇者世界の魔女っ子変身の決めポーズのまんまコピーだから……。
ふざけているのか、と怒りたいところだけど、本人はすごく真剣だし、めちゃくちゃ再現度が高いから、妙に腹立たしくもある。
オレにしてみれば、聖なる女神とか呼ばれているミスティアナの方が、邪悪で、悪魔のような存在だからね。
はっきり言おう。あの女神が諸悪の根源だ。
というか、自分で自分のことを『聖なる女神』とか言っている時点で、もう、終わってるとおもうよ。
「魔王ちゃん! いいこと? ヘーセーは終わりを告げたのよ! 今からレーワが始まるから覚悟しなさいっ!」
「…………」
一体全体、なにを覚悟したらよいのだろうか? オレの冷ややかな反応にも、女神はめげない。
うふふん。とか言いながら、笑っている。
なんだか、ものすごく、不吉な未来を予感させる展開だった……。
別名、勇者の守護神ともいわれる女神ミスティアナだが、魔王であるオレにも――こんな調子ではあったが――ことあるごとに顔をだしてきては、なにかと理由をつけてからんでくる。
「おい、女神! いいか? オレの望みは『刺激』だ。『トラブル』じゃないぞ。そこのところ、わかってるだろうな? 『トラブル』の意味はわかっているだろうな?」
「モチのロンよ!」
「なんだ、ソレはっ!」
「ようは、サイコーのアバンチュールを演出したらいいんでしょっ!」
「そ、……それは違うぞ!」
オレは、女神の勘違いを訂正しようとしたのだが、時間切れだとかなんだとか言いながら、迷惑女神はオレの前から慌ただしく姿を消した。
それからしばらくして、女神の予告どおり、異世界から勇者が召喚された。
聖なる女神ミスティアナによって召喚された三十六番目の勇者は、近年の勇者にしては、珍しくやる気のある子だった。
ピアス穴もなく、服装の乱れもない。真面目な優等生タイプ。
もしかしたら、異世界では眼鏡をかけていたかもしれない。
こちらに召喚される段階で、勇者補正がデフォルトでついてくるからね。
どこか身体に悪いところがあれば、それが解消された都合の良い状態で、こちらの世界にやってくるんだ。
視力矯正が一番わかりやすいだろうね。
あと、虫歯とか。
チュウネンリーマン勇者が、肩こり、腰痛、水虫が治ったとか、髪の毛が増えたとかで、とても喜んでいたのはナイショにしておこう。
最悪、召喚された者が『遺体』であったとしても、異世界に呼ばれれば、欠損部分は治療され、補完された状態になっているらしいからすごいものである。
なので、シンゴウムシした子どもや子犬を助けようとして、トラックとやらにはねられて異世界に召喚された勇者も、ピンピンしていた。
それくらいは召喚サービスだ。
でないと、魔王討伐なんて、面倒な仕事を任せるのは気の毒だろう。
さて、今回の三十六番目の勇者だけど、けっこう、残虐な性格なのかもしれない……。
だって、立ちはだかるオレの部下たちを、サクサクと躊躇なく倒し、他の誘惑や突発イベントには脇目も振らず、最短ルートでココにやってきたんだ。
へーセー勇者に実装されている、初期からチート無双設定を有効活用したんだろうが、到着があまりにも早すぎる。
近年、チートなるものが大流行しだし、勇者はあっさりと、最短距離でここまでやってきて、サクッとオレを倒してしまう……ようにはなってきた。
それこそ、魔王と対峙した恐怖も、苦難の道程の情緒もあったものじゃない。
恐るべし、チートだ。
過去、えらく方向音痴な勇者が召喚された。その勇者は度々、同行者とはぐれ、迷子になった。
迷子度合いも、ちょっとはぐれる……というものではなく、とんでもない場所に迷いこんだり、予想外の場所に行き着いたりと……大変だった。
魔族も巻き込んでの大規模な捜索隊も結成されるくらいの大騒ぎも、一度や二度ではなかった。
どこに行くにも、迷ってばかりだったので、魔王討伐も難航した。
あのときは、世界中が、方向音痴の勇者に翻弄されて疲弊した。
その教訓を活かし、それ以降、オレたちは『魔王城はこちら』という看板を要所となる箇所に設置するようになった。
親切丁寧なわかりやすい看板があり、女神の加護があって、チート無双状態であったとしても、この日数でここにたどり着くのは、なかなかの強行軍だ。
『召喚されてから、魔王城に到達するまでのかかった日数』の最短記録も更新された。
同行者たちもよくがんばったものだ。
三十六番目の勇者の手際の良さと、効率的なルート選択に、オレとオレの部下だけでなく、女神ミスティアナも慌てふためいた。
っていうか、勇者の性格くらい事前にリサーチしないのかなぁ……。
オレはマンネリ化に対して女神にクレームをだしたが、早く片付いたらいいというものでもない。
ここまで頑張れる、ということは、元の世界にやり残した大事なことがあって、一刻も早く戻りたいのだろう……。
ある意味、健気な勇者だ。
決して、手を抜いているわけじゃないんだけど、緊張感がなくなるというか……。
すみません。油断してました。
でもね、テンプレ展開がつづくとね、目新しい刺激がなくて、単調になってくるんだ。
設定とかちょっとひねったところがあっても、けっきょく、大筋は同じで、刺激がない。
そう。刺激だ。
オレは刺激に飢えていたんだ!
漫然と魔王として、魔族たちの頂点に立って魔王担当エリアを統括し、きたるべき勇者対決に向けて、討伐される準備をコツコツと積み重ねる。
このルーティーンが確立されればされるほど、コトはスムーズにすすむのだが、楽しさがなくなってくる。
愚かにも、オレは新たな刺激を、こともあろうか、女神に欲してしまったのだ。
****
実は、ここだけの話……。
毎回、勇者召喚が行われる前に、聖なる女神ミスティアナが、オレのところに『召喚される勇者の希望』を聞きにくるのだ。
女神ってよっぽどヒマなのか、律儀な性格なのかはわからない。
とにもかくにも、女神ミスティアナはリサーチが大好きな女神だった。
「魔王ちゃん、そろそろ勇者を召喚する時期になっちゃったんだけど……魔王ちゃんからは、なにか召喚する勇者に希望がある?」
と、聖なる女神ミスティアナが、魔王城に降臨して、質問してくる。
希望は聞かれても、オレの望みどおりにはならないことが多い。
なので、そのとき、オレは「ああ……またなんか、女神が言ってきたよ……」という軽い気持ちで「刺激が欲しい」とミスティアナに申告した。
それを聞いたミスティアナはというと、まな板のようなペッタンコな胸を思いっきり反らし、「おーっほっほっほっ」と、高笑いを響かせた。
どっちが悪者なのか、わからないくらい、悪女っぽい見事な高笑いだった。
女神ミスティアナの高笑いを手本として、練習を重ねたくらいだもんな。
今日の高笑いも、ミスティアナのものをオマージュした。
そういう意味では、女神ミスティアナは、オレの師匠でもあるわけだ。
このポンコツ女神のきまぐれで勇者が選ばれ、ある日突然、問答無用で異世界に誘拐拉致されるのだから、ホント、勇者は気の毒である。
「魔王ちゃんの可愛いらしいお願いは、この聖なる女神ミスティアナにお任せあれ!」
パチン、とオレにむかって派手にウィンクして、なにやら「キャピッ」とか言いながらポーズを決める。
本人は、「バッチリ決まった」とか思っているんだろうね。
可愛いか、可愛くないのか、って聞かれたら、可愛いと答えてしまう。
女神様としての品位がないのは間違いないけどね。
勇者世界の魔女っ子変身の決めポーズのまんまコピーだから……。
ふざけているのか、と怒りたいところだけど、本人はすごく真剣だし、めちゃくちゃ再現度が高いから、妙に腹立たしくもある。
オレにしてみれば、聖なる女神とか呼ばれているミスティアナの方が、邪悪で、悪魔のような存在だからね。
はっきり言おう。あの女神が諸悪の根源だ。
というか、自分で自分のことを『聖なる女神』とか言っている時点で、もう、終わってるとおもうよ。
「魔王ちゃん! いいこと? ヘーセーは終わりを告げたのよ! 今からレーワが始まるから覚悟しなさいっ!」
「…………」
一体全体、なにを覚悟したらよいのだろうか? オレの冷ややかな反応にも、女神はめげない。
うふふん。とか言いながら、笑っている。
なんだか、ものすごく、不吉な未来を予感させる展開だった……。
別名、勇者の守護神ともいわれる女神ミスティアナだが、魔王であるオレにも――こんな調子ではあったが――ことあるごとに顔をだしてきては、なにかと理由をつけてからんでくる。
「おい、女神! いいか? オレの望みは『刺激』だ。『トラブル』じゃないぞ。そこのところ、わかってるだろうな? 『トラブル』の意味はわかっているだろうな?」
「モチのロンよ!」
「なんだ、ソレはっ!」
「ようは、サイコーのアバンチュールを演出したらいいんでしょっ!」
「そ、……それは違うぞ!」
オレは、女神の勘違いを訂正しようとしたのだが、時間切れだとかなんだとか言いながら、迷惑女神はオレの前から慌ただしく姿を消した。
それからしばらくして、女神の予告どおり、異世界から勇者が召喚された。
聖なる女神ミスティアナによって召喚された三十六番目の勇者は、近年の勇者にしては、珍しくやる気のある子だった。
ピアス穴もなく、服装の乱れもない。真面目な優等生タイプ。
もしかしたら、異世界では眼鏡をかけていたかもしれない。
こちらに召喚される段階で、勇者補正がデフォルトでついてくるからね。
どこか身体に悪いところがあれば、それが解消された都合の良い状態で、こちらの世界にやってくるんだ。
視力矯正が一番わかりやすいだろうね。
あと、虫歯とか。
チュウネンリーマン勇者が、肩こり、腰痛、水虫が治ったとか、髪の毛が増えたとかで、とても喜んでいたのはナイショにしておこう。
最悪、召喚された者が『遺体』であったとしても、異世界に呼ばれれば、欠損部分は治療され、補完された状態になっているらしいからすごいものである。
なので、シンゴウムシした子どもや子犬を助けようとして、トラックとやらにはねられて異世界に召喚された勇者も、ピンピンしていた。
それくらいは召喚サービスだ。
でないと、魔王討伐なんて、面倒な仕事を任せるのは気の毒だろう。
さて、今回の三十六番目の勇者だけど、けっこう、残虐な性格なのかもしれない……。
だって、立ちはだかるオレの部下たちを、サクサクと躊躇なく倒し、他の誘惑や突発イベントには脇目も振らず、最短ルートでココにやってきたんだ。
へーセー勇者に実装されている、初期からチート無双設定を有効活用したんだろうが、到着があまりにも早すぎる。
近年、チートなるものが大流行しだし、勇者はあっさりと、最短距離でここまでやってきて、サクッとオレを倒してしまう……ようにはなってきた。
それこそ、魔王と対峙した恐怖も、苦難の道程の情緒もあったものじゃない。
恐るべし、チートだ。
過去、えらく方向音痴な勇者が召喚された。その勇者は度々、同行者とはぐれ、迷子になった。
迷子度合いも、ちょっとはぐれる……というものではなく、とんでもない場所に迷いこんだり、予想外の場所に行き着いたりと……大変だった。
魔族も巻き込んでの大規模な捜索隊も結成されるくらいの大騒ぎも、一度や二度ではなかった。
どこに行くにも、迷ってばかりだったので、魔王討伐も難航した。
あのときは、世界中が、方向音痴の勇者に翻弄されて疲弊した。
その教訓を活かし、それ以降、オレたちは『魔王城はこちら』という看板を要所となる箇所に設置するようになった。
親切丁寧なわかりやすい看板があり、女神の加護があって、チート無双状態であったとしても、この日数でここにたどり着くのは、なかなかの強行軍だ。
『召喚されてから、魔王城に到達するまでのかかった日数』の最短記録も更新された。
同行者たちもよくがんばったものだ。
三十六番目の勇者の手際の良さと、効率的なルート選択に、オレとオレの部下だけでなく、女神ミスティアナも慌てふためいた。
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オレはマンネリ化に対して女神にクレームをだしたが、早く片付いたらいいというものでもない。
ここまで頑張れる、ということは、元の世界にやり残した大事なことがあって、一刻も早く戻りたいのだろう……。
ある意味、健気な勇者だ。
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数々の作品あるなか、ご訪問ありがとうございます。
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お気に入り、ブクマありがとうございます。
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