上 下
112 / 115
Mission3 お祖母様を救え!

112.花を捜すひとたち

しおりを挟む
 馬の世話を終えたカルティも、花探しに加わった。
 あたしたちとは反対方向の場所を捜すよう、ライース兄様が命令する。

 どれだけの時間を捜しただろうか。

 そろそろ真夜中になるのではないだろうか。
 三つある月が真上に移動している。

 ふわふわ漂う光はさらに数を増し、泉は月光を浴びて銀色に光り輝いている。

 花探しがなければ、じっくりとこの光景を楽しみたいところだが、そんなことをしている暇はない。

 今晩中に青い『バーニラーヌ』の花を見つけないと。
 きっと、ライース兄様はもう一日ここに留まって花探しをするとは言わないだろう。
 夜が明けたら屋敷に戻ると言いだすに決まっている。

 白い花の陰に青い花が隠れていないか、必死になって捜す。
 蕾の状態の『バーニラーヌ』もあったが、それも白い蕾だった。

「レーシア、疲れていないか?」
「ライース兄様、あたしはダイジョウブです!」
「レーシア、眠くはないか?」
「ライース兄様、あたしはダイジョウブです!」
「レーシア、お腹は空いていないか?」
「ライース兄様、あたしはダイジョウブです!」
「レーシア……」
「ダイジョウブですっ!」

 という調子で花探しが続く。

 あたしは立ち上がると、軽く伸びをする。そして腰をトントンする。
 ホントウは、とっても疲れているし、すごく眠い。
 良い子な六歳児は、そろそろお休みの時間だ。
 だけど、頑張る。

 あたしは再び地面にしゃがみ込むと、今度は別の方角を向く。
 じりじりと前進しながら、周囲の花をチェックする。

 目に見えているのは、白い花。
 白い花。
 白い花。
 白い花。
 白い花。
 青い花。
 白い花。
 白い花。
 白い花。

(え…………?)

 目を擦って、もう一度、同じ場所を見る。

 白い花。
 白い花。
 白い花。
 白い花。
 青い花。
 白い花。
 白い花。
 白い花。

(あ、あ……っ!)

「あった――! ありました――!」

 あたしは両手を天に掲げる。
 万歳!
 腐女子の神様! あたしはやりましたよ!
 これでお祖母様の死亡を回避できます!
 ありがとう! 腐女子の神様!

「え? レーシア?」
「お、お嬢様?」

 あたしの目の前には、青い『バーニラーヌ』の花がひっそりと咲いている。

「あ、あっちにも青い『バーニラーヌ』の花がさいています! やりました! ありました! お祖母様! これでお祖母様のゴビョウキは、絵本のとおりにキレイサッパリなおりますっ!」

 あたしは嬉しくなって、目の前に咲いている青い『バーニラーヌ』の花に手を伸ばす。

 六歳児の視界は狭い。
 夢中になるとそれだけしか目に入らない。

「バカ! レーシア! いつの間にそんなところにぃっ! 動くな! それ以上は動くな! 動くんじゃないっ!」
「おじょうさま――! だめですっ!」
「カルティ! レーシアを止めるんだぁっ!」
「おじょうさま――――!」

 ふたりの叫び声を聞き流しながら、あたしは青い『バーニラーヌ』の花を引っこ抜く……が、抜けない。

 六歳児はあまりにも非力だ。

 ので、もう一度、力と気合いを込めて強く引き抜く。
 腐女子の煩悩は全てを制する!

 ぶちっっ!

 抜けた!
 青い『バーニラーヌ』の花が抜けた!

「やったぁ!」

 芋ほり大成功な気分である。

 あたしの手には、青い『バーニラーヌ』の花!

 ものすごい勢いで駆け寄ってくるライース兄様とカルティに、あたしが採取した花を見てもらおうと立ち上がる。

 と、不意に左の足がずるりと滑った。

「え――?」

 身体が大きく左側に傾く。

「え――!」
「レーシアぁぁっ!」
「おじょうさまぁぁぁぁぁっ!」

 ライース兄様とカルティがあたしに向かって手を伸ばす。

 が、全く手が届かない。

 あたしはそのまま大きくバランスを崩し……。

 ずるっ。
 ドボン!
 ブクブクブクブク……。

「またかぁっ! レーシアがぁっ!」
「あああっづ! またっ!」
「レーシアが落ちたぁっ!」
「お嬢様が落ちてしまわれたぁぁぁっ!」

 ふたりの悲痛な叫びは、泉に落ちたあたしには届かない。

 あたしは、再び、冷たい水の中に落下してしまったのである。

 森の中の……初秋の泉の水はとても冷たかった。
 身体が一瞬で硬直し、心臓がびくりと震えあがる。

 冷たい水が、鼻や口の中に入ってくる。
 呼吸ができない。
 身体が重い。

 ガバガバ。
 ゴボゴボ。

 今度は猫でも四葉のクローバーでもない。
 青い『バーニラーヌ』の花をしっかりと握ったまま、モブにすらなれなかったモブ、フレーシア・アドルミデーラは、再び溺れる人となってしまったのである。

 ブクブクブクブク……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

処理中です...