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Mission3 お祖母様を救え!
109.六歳児の暴挙
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森の中の整備された街道を二頭の馬が駆け抜ける。
と、不意に前方を走っていたセンチュリーのスピードが落ちてくる。
そして止まった。
「若様、ここになります」
「そうか」
目の前には、分かれ道。
真新しい道標が立っていた。
「道標が老朽化で倒れてしまっていて、本来は右の道だったのを、間違えて左の旧道に進んでしまいました」
「歩いたのか?」
「いえ。馬です。新しい街道ができたので、こちらの旧道は使用されなくなったようで、道が途切れている箇所もありました」
「そうか。それで迷ってしまったのだな。レーシア、疲れていないか?」
ライース兄様たちは疲れていないのだろう。
ローマンとセンチュリーも元気そうだ。というか、まだ走り足りませんとでもいいたげに、脚を踏み鳴らしている。
あたしが「疲れた」と言えば休憩をとるのだろう。
「ライース兄様、あたしは大丈夫です! 眠くもありません!」
あたしの元気満々な返事に「普通は眠くなるはずなのだが」と苦笑するライース兄様。
夜に秘密のトレーニングとマル秘ノートを作成しているあたしは、まだ大丈夫だ。起きている時間です。
「では、それぞれ明かりを用意して、慎重に進んでいこう」
「わかりました。用意します」
帯で固定されているあたしたちにかわって、カルティが荷物の中から魔道具の携帯ランプをふたつとりだす。
「あ! ライース兄様!」
「どうした? レーシア?」
「あたし、メイキュウコウリャクのアイテムをじさんしました!」
「めいきゅうこうりゃくのあいてむ?」
ライース兄様とカルティは顔を見合わせ、首をかしげる。
若いライース兄様と幼いカルティ!
はふぅ! ふたりの間に、見えない強固な絆が見えたような気がする。
あたしはポシェットの中をがさごそとひっかきまわす。
ハンカチにティッシュ。
そして……。
「じゃじゃじゃじゃーん! くらくてもピカピカ光るヌノキレです!」
前世の感覚でいうところの、三十センチ定規くらいの幅、長さに切った布の束をむずっと掴み上げる。
「……レーシア?」
あたしは振り返ってライース兄様を……身体が動かないので、頭を後ろに倒して、ライース兄様を見上げる。
ライース兄様の顔が固まっている。
「この、くらくなると光るヌノキレを、ワカレミチとなる場所の木のエダにくくりつけて、メジルシにするのです!」
「なんだと……」
カルティがあたしを驚きの眼差しで見ているよ。
なにもできない六歳児と思っていたんだろうけど、違うからね!
「ライース兄様! こうれをメジルシにしておけば、いちどとおった道がわかります。ヌノをたどれば、帰りはまよわずにもどれます」
「レーシア……」
「はい?」
感動のあまりライース兄様がプルプルと震えている。
「その布……どこで、その布を……その布の元の形は覚えているか? 」
魔道具の明かりがライース兄様を不気味に照らしている。
「はい。あたしの衣裳部屋でみつけました。まっくらなのに、イッチャクだけ、ピカピカと光っているドレスがあったのです!」
前世でいうところの、蓄光布で作ったドレスなのだろう。
これを着て夜道を歩いたら、めっちゃ安全そうだ。
まあ、光加減は、蓄光布よりもとても上品で、ケバケバしたものではなかったが、蓄光布よりもキラキラと星屑のように光り輝いている。
エレクトリカルパレードの衣裳のようだった。
あたしはそのドレスをハサミで切り刻んだのだ。
「れ、れ、レーシア、あのドレスはだな……」
「はい?」
「レーシアのお披露目会のときに着るようにと、王都の父上がわざわざ手配したものだ」
「そうだったのですね。でも、ドレスはまだたくさんありますよ?」
「バカ! あのドレスは、カッシミーヤ国産の貴重な布で作ったドレスだ! 一着の値段がどれだけすると思っているんだ!」
ライース兄様の反応に、カルティが一歩、二歩と後退していく。
「え? かっしみーやこく?」
「そうだ。カッシミーヤ国産の夜光石を砕いて糸に混ぜこみ、織りあげた貴重な布だ! 平均的な平民の一家の生活費五十年分相当のドレスだぞ!」
「え? ええええっ!」
と、不意に前方を走っていたセンチュリーのスピードが落ちてくる。
そして止まった。
「若様、ここになります」
「そうか」
目の前には、分かれ道。
真新しい道標が立っていた。
「道標が老朽化で倒れてしまっていて、本来は右の道だったのを、間違えて左の旧道に進んでしまいました」
「歩いたのか?」
「いえ。馬です。新しい街道ができたので、こちらの旧道は使用されなくなったようで、道が途切れている箇所もありました」
「そうか。それで迷ってしまったのだな。レーシア、疲れていないか?」
ライース兄様たちは疲れていないのだろう。
ローマンとセンチュリーも元気そうだ。というか、まだ走り足りませんとでもいいたげに、脚を踏み鳴らしている。
あたしが「疲れた」と言えば休憩をとるのだろう。
「ライース兄様、あたしは大丈夫です! 眠くもありません!」
あたしの元気満々な返事に「普通は眠くなるはずなのだが」と苦笑するライース兄様。
夜に秘密のトレーニングとマル秘ノートを作成しているあたしは、まだ大丈夫だ。起きている時間です。
「では、それぞれ明かりを用意して、慎重に進んでいこう」
「わかりました。用意します」
帯で固定されているあたしたちにかわって、カルティが荷物の中から魔道具の携帯ランプをふたつとりだす。
「あ! ライース兄様!」
「どうした? レーシア?」
「あたし、メイキュウコウリャクのアイテムをじさんしました!」
「めいきゅうこうりゃくのあいてむ?」
ライース兄様とカルティは顔を見合わせ、首をかしげる。
若いライース兄様と幼いカルティ!
はふぅ! ふたりの間に、見えない強固な絆が見えたような気がする。
あたしはポシェットの中をがさごそとひっかきまわす。
ハンカチにティッシュ。
そして……。
「じゃじゃじゃじゃーん! くらくてもピカピカ光るヌノキレです!」
前世の感覚でいうところの、三十センチ定規くらいの幅、長さに切った布の束をむずっと掴み上げる。
「……レーシア?」
あたしは振り返ってライース兄様を……身体が動かないので、頭を後ろに倒して、ライース兄様を見上げる。
ライース兄様の顔が固まっている。
「この、くらくなると光るヌノキレを、ワカレミチとなる場所の木のエダにくくりつけて、メジルシにするのです!」
「なんだと……」
カルティがあたしを驚きの眼差しで見ているよ。
なにもできない六歳児と思っていたんだろうけど、違うからね!
「ライース兄様! こうれをメジルシにしておけば、いちどとおった道がわかります。ヌノをたどれば、帰りはまよわずにもどれます」
「レーシア……」
「はい?」
感動のあまりライース兄様がプルプルと震えている。
「その布……どこで、その布を……その布の元の形は覚えているか? 」
魔道具の明かりがライース兄様を不気味に照らしている。
「はい。あたしの衣裳部屋でみつけました。まっくらなのに、イッチャクだけ、ピカピカと光っているドレスがあったのです!」
前世でいうところの、蓄光布で作ったドレスなのだろう。
これを着て夜道を歩いたら、めっちゃ安全そうだ。
まあ、光加減は、蓄光布よりもとても上品で、ケバケバしたものではなかったが、蓄光布よりもキラキラと星屑のように光り輝いている。
エレクトリカルパレードの衣裳のようだった。
あたしはそのドレスをハサミで切り刻んだのだ。
「れ、れ、レーシア、あのドレスはだな……」
「はい?」
「レーシアのお披露目会のときに着るようにと、王都の父上がわざわざ手配したものだ」
「そうだったのですね。でも、ドレスはまだたくさんありますよ?」
「バカ! あのドレスは、カッシミーヤ国産の貴重な布で作ったドレスだ! 一着の値段がどれだけすると思っているんだ!」
ライース兄様の反応に、カルティが一歩、二歩と後退していく。
「え? かっしみーやこく?」
「そうだ。カッシミーヤ国産の夜光石を砕いて糸に混ぜこみ、織りあげた貴重な布だ! 平均的な平民の一家の生活費五十年分相当のドレスだぞ!」
「え? ええええっ!」
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