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Mission3 お祖母様を救え!

86.宙に舞うじゃじゃ馬

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 蹄の音とともに、柵がぐんぐん近づいてくる。

「えっ! レーシア! 止まれ! 危ない!」

 ライース兄様のうろたえた声が……いや、絶叫が聞こえた。

 うん。
 ライース兄様もびっくりするくらい、いい感じにスピードがでている。
 いける!
 止まるな! ミリガン!
 このまま突撃だ――っ!

「いくよ! ミリガン!」

(ライース兄様! よそ見なんかしないで、あたしの勇姿をしっかりと目に焼きつけてくださいね!)

「わ――――っっ! レーシアぁぁっ!」
「お、おじょうさまぁぁぁぁっ! なっ、なにをぉっ――」

 ふたりの静止の声を振り切って、あたしの合図とともに、ミリガンは軽やかにジャンプする。

 タイミングはばっちりだ!

 重力から開放され、風とともに、独特の浮遊感が加わった。
 この「ふわん」とした浮遊感……癖になりそうだ。

 ローマンに比べると若干、高さが足りないが、それでも馬場の柵を越えるには十分な高さがある。

 楽しい!
 めちゃくちゃ楽しい!
 乗馬って、こんなに楽しいものだったんだ!

 なにやら背後でライース兄様とカルティが意味不明な言葉を叫んでいるけど、よく聞こえないも――ん。

 ミリガンはあっさりと柵を飛び越えてしまった。
 ちっこい馬もなかなかやるじゃん。

「やった――! ミリガン! すごい!」

 あたしの言葉がわかるのか、ミリガンは嬉しそうに嘶くと、そのまま目の前の道をパカパカと走りつづける。

 道はよくわからないが、とりあえず、目の前の平坦な道を進んでいく。
 獣道ならやばいだろうけど、人が作った道なら大丈夫だろう。

 死亡イベントが発生しないように、念のために、少しだけスピードを緩める。

 落馬による死亡ケースを防ぐためにも、乗馬スキルは早々にカンストまで極めておいた方がいいだろう。

 となると、ひたすら実践あるのみだ。
 数をこなせばなんとかなる。

 楽しい。楽しい。とっても楽しい。
 このまま遠乗りコースに突入だ。

 ……と、背後から「ドドドドドっ」という、ものすごい地響きが聞こえてきた。

「え?」

 驚いて後ろを振り向いてみると、ものすごく怖い顔をしたライース兄様と、ものすごく青い顔になっているカルティが、ローマンとセンチュリーに乗ってあたしを追いかけてくる。

「やばい……」

 あたしの回復具合をお披露目するはずが、よくわからないけど、ふたりを怒らせてしまったようだ。

 どうして、ふたりはあたしの乗馬の上達を喜んでくれないのっ!

 ローマンとセンチュリーは、砂埃をまきあげながら、猛然とした勢いであたしを追いかけてくる。

「み、ミリガン! 逃げるよ!」

 ミリガンの腹を軽く蹴って合図をだす。
 あたしの合図に、ミリガンのスピードがぐいぐいあがる。

 すぐに追いつかれるかと思ったけど、なぜかローマンとセンチュリーのスピードが徐々に落ちてきて、あたしとライース兄様の距離がまた広がっていく。

(よし、このまま……)

 逃げ切れる……と思った瞬間、ライース兄様の厳しい声が周囲に響き渡った。

「止まれ! ミリガン!」

(こわっ!)

 迫力のあるライース兄様の怒声に、思わず止まりそうになってしまった……ってあれ?

 かぱっ……ぱか……かぱ……ぱか……。

「ぶるるるう……っ」

 急にミリガンのスピードが落ち、最後には一歩も動かなくなってしまった。

「ちょ、ちょっと! ミリガン!」

(どーしちゃったの?)

 腹を蹴ったり、手綱を操ってみたりしたけど、ミリガンはピクリとも動かない。

(な、なに? なぜ?)

 石のように……公園にあるスプリング遊具のように、ミリガンはその場から動かなくなってしまった。

 ちょっと、ライース兄様! あなたは動物にも命令できるというのですか! 特技ありすぎです!
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