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Mission2 げきまじゅおくちゅりを克服せよ!

78.お兄様の大爆走

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 ローマンとセンチュリーは砂煙をあげながら馬場をぐるりと二周する。
 きっと全力疾走だ。

 柵の外で、ぽかんと大口を開けたまま直立している厩番がちらりと見えた。

「若様! 若様! 待ってください!」

 と言いつつも、カルティはローマンとちゃっかり並走している。

「怖いか?」
「い――え! ぜんぜん!」

 西急アイランドの絶叫マシーンと比べたら、こんなもの、へのかっぱだ!
 新幹線の方がもっと速い!

「……わかった、だったら……」

 あたしを支えるライース兄様の体がぐっと前方に移動する。

 ヒヒーン。

 ローマンの鳴き声が馬場に響き、カルティの悲鳴が聞こえた。ローマンのスピードがさらにあがる。

(うそ! うそ! うそ! うそでしょっ!)

 あたしの乗馬イメージは「ぱっぱか、ぱっぱか」もしくは「ぱからん、ぱからん」だったが、これは「ドドドッ……」という地響きだ。

 振動で地味にお尻が痛い。
 振り落とされないようにという意識から、変に力が入ってしまって、脚がぷるぷるしてきた。

 ただ馬に跨っているだけなのに。
 フレーシア・アドルミデーラが虚弱すぎる!

 隠れて体幹と筋力アップのトレーニングをしておいてよかった……。
 そういえば、乗馬ダイエットという言葉もあるくらいだ。
 実際にひとりで馬に乗るには、かなりの体力と筋力を必要としそうだ。

(ら、ライース兄様!)

 そんなことを考えていると、眼前に柵がぐんぐんと迫ってくる。
 ローマンの疾走スピードは緩まない。

(嘘! ぶ、ぶつかるうっ!)

「はいやっ!」

 ライース兄様の掛け声とともに、ローマンがひらりと飛び上がる。

 ローマンは前方の柵を軽々と飛び越えていた。

(け、競馬じゃなくて、障害馬術ですかっ!)

 しかも、ローマンの速度は少しも緩まず、そのまま小道を駆け抜けていく。

(しかも、コースアウト!)

「わ、若様! お、お待ちください!」

 あたしも慌てたが、カルティはもっと驚いている。
 センチュリーもローマンを追って、柵を飛び越えたようである。

 気づけば、ライース兄様の隣に馬を近づけ並走していた。

 やるな! 八歳児!
 十六歳のライース兄様にぴたりとついてきている。

「若様、どちらに向かわれるおつもりですかっ!」
「ちょっとそこまで……ぐるりと一周……かな?」

 カ、カルティ……そこで絶句してないで、ライース兄様を止めて!

 ライース兄様も、計画的に行動してください!

「わかりました!」

 いやいや、カルティ! わからなくていいからさ! 激走しているライース兄様を止めて!

 センチュリーのスピードがゆっくりと落ちていき、ローマンの後ろへと下がっていく。

 ものすごい勢いで景色が後方に流れるなか、二頭分の疾走する蹄の音が聞こえる。

 ふたりともこの辺りの地理、地形は把握済みなので、馬が走りやすい道を全力疾走で駆け抜けていく。

 敷地内の散歩しかしたことがないあたしは、ここが敷地外である、ということしかわからない。
 どこを走っているのか、どこへ向かっているのか、全くの謎だ。

 途中、小川や木の根といった障害物が行く手を阻むが、ライース兄様もカルティも軽々と飛び越えていく。障害ですらない。

 馬に翼が生えているのではないかと思うくらい、軽々とだ!

 しかも、一向にスピードが衰えない。
 さほど馬には詳しくはないが、人間だって、全力疾走の場合、そんなに長い時間、走り続けることはできない。

 なのに、ローマンもセンチュリーも息切れしている気配が全くない。

 さすが、ご都合主義が横行している、リアル無視のゲーム世界!

 これぞファンタジー!

 なんと、ライース兄様は一時間も馬を走らせつづけ、別荘の馬場へと戻ったのである。
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