上 下
76 / 115
Mission2 げきまじゅおくちゅりを克服せよ!

76.ライースの眼差し★

しおりを挟む
 ライース兄様は膝を折り、あたしの目をじっとのぞきこむ。

 だめですよ!
 無駄ですよ!

 そんな、『必殺! ライースの眼差し』でコロッと騙されるようなチョロいあたしではありませんよ!

 断固、抵抗してみせます!

 あたしは、馬らしい馬に乗りたいのです!

 馬っぽい生き物はいやです!

 前世で遊園地にあった、硬貨を入れてういーんと動く『子供用乗馬式ジャイアントパンダ型電気自動車』に乗りたいわけではないんです!

「レーシア……子どもが練習で乗るには、ポニーで慣れてからの方がいいんだよ? ずっと、ミリガンに乗り続けるわけではないんだよ?」

 聞き分けの悪いワガママな子どもに向かって言い聞かせるような、ライース兄様の口調にちょっとイラッとくる。

「ライース兄様は……」
「ん?」
「ライース兄様は、ポニーに乗って、じょーばを習ったのですか? カルティは?」
「…………」
「…………」

 ふたりは押し黙ってしまった。

 あたしは手を腰にやり、ふんぬっと目に力を込めて、ふたりをにらみつける。

「いや、おれたちは先に武術の鍛錬を行っていて、筋力や体幹を鍛えていたから……」
「ポニーじゃありませんよね?」

 あたしの反論に、ライース兄様の視線が頼りなく彷徨う。
 カルティは、あらぬ方向を眺めていたが、逃げ出さなかったことは褒めてやろう。

「あたしは馬に乗りたいのです!」
「ポニーも馬だよ?」
「みんなが乗る馬に乗りたいのです!」
「ダメだ」

 ライース兄様の気持ちにゆらぎはない。
 妹のウルウルお願いは通じないようだ。
 いや……もしかしたら……。

「あ、あたしは、ライース兄様が乗られるおうまさんに乗ってみたいのです! ライース兄様といっしょがいいです!」
「――――!」

 ライース兄様は目を大きく見開き、雷の直撃を受けたかのように硬直する。

「お、おれと一緒……がいいのか?」
「はい。あたしは、だいすきなライース兄様と同じようなことがしたいのです!」
「――――っ!」

 ライース兄様の顔が朱に染まり、口元が満足そうにほころぶ。
 蕩けるような笑顔を間近にとらえ、あたしは焦る。

(え? なに? この反応……)

「レーシア!」

 体をふるふる震わせながら、ライース兄様はあたしを思いっきり抱きしめる。

(え? え? え? なにがおこっているの?)

 息が止まるかと思うほど、ライース兄様にギュッと抱きしめられ、本当に息が止まりそうになる。

 日向の香り……太陽のような温もりに、あたしはすっぽりと包まれる。
 ら、ライース兄様の鼓動が……ドキドキが伝わってくる!

「あ、あ、お、おにい……ライース兄様」

 そ、そんなに力を入れられたら、あたしのちっこくてひ弱な身体はぺちゃんこになってしまいますぅ!

「うま ! うまですっ!」
「やだ! やっぱりやめよう。レーシアがミリガンから落ちて怪我でもしたら、おれは……生きていけない」

 ちょ、ちょっとまってください!
 ライース兄様の口走っていることがヘンです!

 あのちっこいミリガンから落ちてもせいぜい、打ち身か、かすり傷です。

 それに、ライース兄様は、あたしが溺れ死んでも立派に生きてました!
 ゲーム内ではよく死にましたが、ライース兄様は『巻き戻しの砂時計』でしっかり蘇ります!

 カルティ!

 カルティ!

 今すぐあたしを助けなさい!

 ライース兄様の胸の中でじたばたともがきながら、あたしはすみっこの方に退避しているカルティを睨みつける。

 無表情だったカルティの顔に、怯えの色が浮かんだ。

「わ、わ、若様……。お力を緩めてください。それ以上強くされると、お嬢様が潰れてしまいます」

 カルティの声に、あたしを拘束する力が不意に緩む。

 ぼんやりとしているライース兄様に、カルティが慌てて言葉を続ける。

「若様、今日は……まずは、馬に乗るというのはどういうことなのかを、お嬢様に知って頂く日にしませんか?」
「どういう……こどだ?」
「若様とお嬢様が一緒にローマンに乗ってみてはいかがでしょうか?」
「ローマンに……レーシアと一緒?」
「はい。遠乗りでも、早駆けでも……。今日は初めてですから、乗馬の楽しさをお嬢様に知って頂くだけにとどめて、訓練は明日からされるというのは、どうでしょうか?」

 カルティが見事な折衷案を提示してきた。
 問題の先送りともいう。
 ビジネスシーンではよくやる手段だ。
 
 さすが、逃げのカルティだ!
 トラブル回避スキルが半端ない。

「よし。そうしよう!」

 ライース兄様がすくっと立ち上がる。

 切り替えはやっ!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

処理中です...