上 下
55 / 115
Mission2 げきまじゅおくちゅりを克服せよ!

55.優秀すぎる教育係

しおりを挟む
 お父様の言葉が脳内で木霊して、くわんくわんと鳴り出す。だんだん頭がくらくらしてきた。

 ごめんなさい、お父様。そろそろあたしは……限界です。

「レーシア! 大丈夫か!」

 上体が左右にぐらんぐらんと揺れだしたあたしに気づいたライース兄様が、慌てて側に寄ってくる。

「父上、このあたりで許してやってください。レーシアはまだ完全に回復しておりません」

 あたしをきゅうっと胸の中に抱き寄せながら、ライース兄様は椅子に座っているお父様を睨みつける。

 ライース兄様……そんな……ぬいぐるみを抱きしめるような、ぎゅうぎゅうな抱き方をされると、息ができなくて苦しいです……。

 それに、どちらかというと、あたしは抱きしめられるよりも、他の攻略キャラをぎゅうぎゅう抱きしめているライース兄様を陰からコッソリ観察したい方なんですが……。

「でも……なあ……」

 酸欠になりながらも、困り果てたようなお父様の声が聞こえた。

「父上、でも……ではありません。そんなにレーシアの行動が心配で安心できないのなら、レーシアが回復するまで、わたくしが側について見張っておきます」
「いやしかし……それだけでは……」
「では、お祖母様と相談して、レーシアにふさわしい教育係を手配いたします。教育係が決定するまでは、わたくしがレーシアを教育します」
「ライースが教育だと?」

 ライース兄様の発言に、お父様は驚いたような声をあげる。
 あたしを抱きしめるライース兄様の手がゆるみ、その隙間からお父様の顔が見えた。

「はい。レーシアがどこにでても恥ずかしくないよう、貴族の子女としての常識、品格と教養を、わたしくがしっかりと叩き込みます」

 その言葉が終わるやいなや、お父様の目がすっと細まり、顔に満面の笑みが浮かんだ。

「言ったな! 聞いたぞ! 確かに聞いたぞ!」
「はぁ、はい?」

 小躍りしそうなくらい喜んでいるお父様の豹変ぶりに、ライース兄様だけでなく、あたしも呆然とする。

(ライース兄様があたしを教育?)

 なんで、こうなるの?

 ライース兄様は家出するんじゃなかったの?

 予想外の展開にオロオロする。
 こ、こういうときは……どうするんだろう?

 ゲームで行き詰まったら、ネットで公開されている『同士』たちの情報をかき集めたり、その過程で仲良くなったヘビーユーザーに直接相談したりするんだけど……ここにはスマホもパソコンもないので、アクセス手段がない。
 自力で解決しなければならない。

 『キミツバ』では、ライース兄様は二年後、王太子の八人目の教育係になるのだから、年少者の教育スキルに関しては、全く問題ない。
 というか、優秀すぎる教育係だった。
 ヒロインとの親密度にもよるのだが、ライース兄様は高スペックぶりを遺憾なく発揮して、王太子をみっちり教育してしまう。

 だけど……。

 だけど……。

 妹を教育したという設定はないよ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

処理中です...