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Mission2 げきまじゅおくちゅりを克服せよ!

49.糸の切れた凧

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 ライース兄様の実母も、フレーシアの実母も、幼い頃に亡くなっている。

 周囲の者たちは、ふたりとも病気で死んだと思っているようだが、ゲームの設定では、正妻が人を使って暗殺――毒殺――したことになっている。
 ジェルバ・アドルミデーラ侯爵の正妻になるほどの人物が、証拠を残すようなヘマをやらかすはずがない。

 ライース兄様に同母の兄弟姉妹はいないが、あたしには双子の弟がいた。

 弟は今年の年明け早々に、大量に血を吐いて亡くなってしまった。
 これもまた、風邪をこじらせて肺の病気で……と、みなは思っているが、ゲームの設定では、正妻が殺害を命じたことになっている。

 双子の弟、妹、そして祖母をつぎつぎと亡くしたことで、ゲーム中のライース・アドルミデーラは深い悲しみに支配されてしまった。

 これは、公式のサイトに書かれたたった数行の情報だ。
 母親たち、そして双子の弟にも名前はなかった。
 名前すらつけてもらえなかったキャラだけど、ライース兄様にとっては、大切なヒト……家族だった。

 亡くなった母親たちや弟は毒を盛られて生命を落とした。それだけではなく、あたしが病気がちだったのも、弟と一緒におなじものを口にしていたから……。
 そのことに、ライースは薄々感じていたのだ。
 そして、お父様も気づいている。

 だけど、正妻は糾弾されることなく、アドルミデーラ侯爵夫人として今もなお君臨している。
 お祖母様が病気療養で領地の奥に引っ込んでしまってからは、遠慮がなくなった。
 そして、お祖母様がこの世を去ると、正妻の勢いはさらに強くなる。

 一族内の殺し合いに嫌気がさし、また、己自身の身の危機を感じたライースは、正妻の毒牙から逃れるかのように、成人するまで放浪の旅にでてしまうのだ。

 …………。

 あれ?

 …………。

 なんで、ここにライース兄様がいるんだろう……?

 さっさと王都に戻れ、とライース兄様はお父様に言っているけど、ライース兄様こそ、さっさと放浪の旅にでないといけない頃じゃないでしょうか?

 お父様とライース兄様が言い争う声を聞き流しながら、あたしは頭をひねる。

 『ライース・アドルミデーラ 真夏の静養地編』で妹が池で溺れ死んだのをきっかけに、ライース兄様の放浪癖に一段と磨きがかかるのだ。
 もともと、糸の切れた凧のように、フラフラと領内、領外を流れ歩いていたが、妹が死んだその日の夜に、ライース・アドルミデーラは衝動的に家をでていく……で、ストーリーイベントが終了する。

 あれ?

 終了……してない?

 あたしが池で溺れてからもう一週間以上過ぎているよね?

 エンディングはどうなった……?

 今までは護衛を連れて放浪の旅を楽しんでいたライース兄様だが、ここから先は監視の目をふりきって、行方不明、音信不通になってしまう。
 あたしの記憶が正しければ、お祖母様の葬儀にも出席しなかった……と、ファンブックには書いてあったよ?
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