転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす

のりのりの

文字の大きさ
上 下
38 / 127
Mission1 前世を思い出せ!

38.鏡の中少女

しおりを挟む
 あたしはそろそろと天蓋つきのベッドから抜け出すと、目覚めたときに目にしたあの大きな鏡の前に向かう。

 みんなが心配していただけあって、数歩歩いただけで、足ががくがく震えて、足取りがおぼつかない。
 寝室からはでない方がよいだろう。
 屋敷内をウロウロすると、息切れして倒れてしまいそうだ。

 池に落ちた時に頭を打った傷みも、そして、この疲れも、とてもリアルだった。

 この世界の月はずっと満月で、しかも月が三つもあるので、夜はそこそこ明るい。

 窓のカーテンは開けたままになっているので、明かりがなくても、安心して室内を歩き回れる。

 夜にヒロインが攻略キャラとイチャイチャするために、夜の闇は少し明るめな設定になっている……というわけだ。

 あたしは大きな鏡の前で腕を組むと、鏡に映った亜麻色の髪の少女を見つめた。

「さて……」

 少女のあどけない声が、小さな口から漏れる。

「あたしは……誰なんだろう?」

 鏡の中のあたしは、不思議そうに首をかしげている。

 前世のあたし。

 辛うじて、二十代。
 女性。
 地方の田舎から、大学進学のために上京。
 現在は、都内のアパートに一人暮らし。

 仕事は……う――ん、広告代理店の企画営業……だったかな?
 会社名は思い出せない。

 後輩と新任の上司には足を引っ張られていたけど、クライアントとの関係は良好で、仕事が普通にできる女子だった。

 趣味は……あれ。
 イケメン二次元をこよなく愛し、イケボキャラに金を注ぎ込み、アニメを見て、ゲームをプレイして……BがLoveするお話が大好物で、それにどっぷりと浸っている立派な腐女子だ。

 学生時代は陸上部で、走るのが好きだったんだけど、働きだして、なんか、お金とストレスが溜まったら、変な方向に走っちゃった……ってパターンね。

 思い出せないのは会社名や、あたしを困らす後輩や上司の名前だけではない。
 あたし自身の名前もよく思い出せないでいた。

 若干、趣味への振り幅が極端だったかもしれないけれど、ごくごく普通な……警察の前では背筋がぴしっと伸びる善良な一般市民だったと記憶している。

 鏡の中のあたしは、現在、眉間にしわを寄せて考え込んでいる。

(……前世の名前を忘れてしまっていても、今世で生きていくにはなんら問題ないから……ま、いっか)

 名前が思い出せないのなら、がんばって前世での最後の記憶とやらを探ってみる。

 あたしは、明日の企画会議に使うプレゼン資料を、終電間際まで作業していて、なんとか完成させた。

(うん、なんか、ぼんやりとだけど、思い出してきた。上司とか、後輩の顔はうっすら……へのへのもへじでしかないけど)

 プリントアウトするのは忘れたけど、帰宅するために、駅の構内に駆けこんで……なんとか電車に乗ることができた。

 そして、乗り換えのためにホームの階段を登ってたら、目の前にいた酔っ払いが、バランスを崩して、あたしの方に倒れてきたのだ。
しおりを挟む
数々の作品あるなか、ご訪問ありがとうございます。
これもなにかの『縁』でございます!
お気に入り、ブクマありがとうございます。
まだの方はぜひ、ポチッとしていただき、更新時もよろしくお願いします。
ポチっで、モチベーションがめっちゃあがります。
↓別のお話もアップしています。そちらも応援よろしくお願いします。↓
勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです
生贄奴隷の成り上がり〜魂の片割れとの巡り合い〜
感想 2

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

処理中です...