21 / 115
Mission1 前世を思い出せ!
21.第一モブと遭遇
しおりを挟む
あたしが用意されたものを完飲したら、部屋の緊張した空気が、少し和らいだような気がした。
あたしは何度かまばたきを繰り返す。
すると、ぼんやりとした視界が徐々にくっきりとしてきた。
まずは、フサフサした白髪に、立派な白いひげを蓄え、金縁のモノクルをかけた皺だらけのお爺さんと目があった。
このヒトが、あたしに飲み物を飲ませてくれたのだ。
「フレーシアお嬢様、わたくしが何者か、おわかりでしょうか?」
穏やかな老人の声に、あたしはコクリと小さくうなずく。
「デイラル先生……お医者様」
白髪の老人――デイラル先生――はニッコリと笑うと「よくできました」と大きくうなずく。
六歳の病人が相手なら、こんなかんじだろうか。
ほのぼのとした空気が漂う。
デイラル先生は、お祖母様の専属医師として仕えていたが、数ヶ月前からはあたしの担当医でもあった。
病気ばかりしているあたしを心配して、お父様は、デイラル先生がいるこの地で、お祖母様と一緒に静養できるよう、手配したのである。
デイラル先生のお薬は、ものすごく苦くて飲むのは辛かったけど、王国でも五本の指に入ると云われた名医だけあって、よく効いた。
だから、がんばって飲んだ。
あたしは、デイラル先生の診療のおかげで、こちらで暮らしはじめてからは、病気で寝込む回数も減った。
病気をしなくなると、体力が消耗することもなくなり、失った体力もゆっくりとではあったが、取り戻しつつあった。
身体が丈夫になれば、それだけ病気にもなりにくくなる。
と、こちらで静養をはじめてからは、症状がとてもよくなっていた。
そして、少しの時間なら、リハビリもかねて外で散歩をしてもいいでしょう……という許可が、デイラル先生からでたとたん、あたしは……池ポチャをやらかしてしまった……という流れだ。
やっちゃった……としかいいようがない。
この世界の六歳児の会話能力、思考レベルはどの程度のものだろうか?
徹底した身分差があるので、教育に関しても、前世以上に差がありそうだ。
上流貴族ならば、優秀な家庭教師がついており、平民の子どもよりは利発であってもおかしくはない。
「デイラル先生……おこってる?」
白ひげの老医師は、あたしの言葉に驚いたように目を細める。
デイラル先生とは、数年前まではアドルミデーラ家の専属医として家長であるお父様とともに、王都と領地を忙しく行き来していた老医師だ。先代だったか、先々代だったからか、アドルミデーラ家に仕えている。
先生の医師としての腕も確かだが、お父様やお祖母様の支援もあって、王都にも領地にも先生の弟子がたくさんいる。
領内にはデイラル先生が校長を務める私設の本格的な医学学校もあるくらいだ。
つまり、アドルミデーラ領の医学の発展に貢献してきた偉いヒトだ。
お祖母様が体調を崩して静養を決めたとき、デイラル先生も引退を決めて、お祖母様の専属医師として、今はこの地に滞在している。
これは、今世におけるあたしの知識。
ゲーム会社が発表した公式設定ではない。
お祖母様や使用人たちが話していたことを、今世のあたしは、なんとなく覚えていたようである。
デイラル先生の顔を見て思い出したが、ゲームでは、アドルミデーラ家の誰かが怪我をしたときとかの背景に登場している人物だ。
名前はなく、いわゆる背景モブだった。
第一モブ遭遇だ。
あたしは何度かまばたきを繰り返す。
すると、ぼんやりとした視界が徐々にくっきりとしてきた。
まずは、フサフサした白髪に、立派な白いひげを蓄え、金縁のモノクルをかけた皺だらけのお爺さんと目があった。
このヒトが、あたしに飲み物を飲ませてくれたのだ。
「フレーシアお嬢様、わたくしが何者か、おわかりでしょうか?」
穏やかな老人の声に、あたしはコクリと小さくうなずく。
「デイラル先生……お医者様」
白髪の老人――デイラル先生――はニッコリと笑うと「よくできました」と大きくうなずく。
六歳の病人が相手なら、こんなかんじだろうか。
ほのぼのとした空気が漂う。
デイラル先生は、お祖母様の専属医師として仕えていたが、数ヶ月前からはあたしの担当医でもあった。
病気ばかりしているあたしを心配して、お父様は、デイラル先生がいるこの地で、お祖母様と一緒に静養できるよう、手配したのである。
デイラル先生のお薬は、ものすごく苦くて飲むのは辛かったけど、王国でも五本の指に入ると云われた名医だけあって、よく効いた。
だから、がんばって飲んだ。
あたしは、デイラル先生の診療のおかげで、こちらで暮らしはじめてからは、病気で寝込む回数も減った。
病気をしなくなると、体力が消耗することもなくなり、失った体力もゆっくりとではあったが、取り戻しつつあった。
身体が丈夫になれば、それだけ病気にもなりにくくなる。
と、こちらで静養をはじめてからは、症状がとてもよくなっていた。
そして、少しの時間なら、リハビリもかねて外で散歩をしてもいいでしょう……という許可が、デイラル先生からでたとたん、あたしは……池ポチャをやらかしてしまった……という流れだ。
やっちゃった……としかいいようがない。
この世界の六歳児の会話能力、思考レベルはどの程度のものだろうか?
徹底した身分差があるので、教育に関しても、前世以上に差がありそうだ。
上流貴族ならば、優秀な家庭教師がついており、平民の子どもよりは利発であってもおかしくはない。
「デイラル先生……おこってる?」
白ひげの老医師は、あたしの言葉に驚いたように目を細める。
デイラル先生とは、数年前まではアドルミデーラ家の専属医として家長であるお父様とともに、王都と領地を忙しく行き来していた老医師だ。先代だったか、先々代だったからか、アドルミデーラ家に仕えている。
先生の医師としての腕も確かだが、お父様やお祖母様の支援もあって、王都にも領地にも先生の弟子がたくさんいる。
領内にはデイラル先生が校長を務める私設の本格的な医学学校もあるくらいだ。
つまり、アドルミデーラ領の医学の発展に貢献してきた偉いヒトだ。
お祖母様が体調を崩して静養を決めたとき、デイラル先生も引退を決めて、お祖母様の専属医師として、今はこの地に滞在している。
これは、今世におけるあたしの知識。
ゲーム会社が発表した公式設定ではない。
お祖母様や使用人たちが話していたことを、今世のあたしは、なんとなく覚えていたようである。
デイラル先生の顔を見て思い出したが、ゲームでは、アドルミデーラ家の誰かが怪我をしたときとかの背景に登場している人物だ。
名前はなく、いわゆる背景モブだった。
第一モブ遭遇だ。
1
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる