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深淵編(4)
17.庇護を求めてきた者を手に入れてなにが悪い?
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熱風、いや、魔力の圧が防御壁を突き破りそうだったので、フィリアは慌てて多重防御に切り替える。
(こ、この威力なら、ゴブリン王国も【火球】で間違いなく消滅してしまう!)
凝縮された熱と火力は、【火球】という初心者に優しい攻撃魔法ではなく、小国を焼け野原にできるという【煉獄の劫火】も軽く超えるレベルだ。
炎は一瞬で結界内全体に広がる。
全てを燃やしつくすのかと思われたが、それは一陣の冷たい風によって、跡形もなくかき消された。
「ここで攻撃魔法を使うなと言っただろうがあッ! ばかもんっ!」
消え去った炎の中から無傷なギンフウが姿を現し、エルト――セイラン――に向かって右手を突き出す。
「ぎゃうっぅ!」
少年が宙を舞うが、結界の天井に背中をぶつける直前で軽く回転すると、近くの足場に降り立つ。
だが、全くの無傷というわけではなく、腹の辺りを抑えてゲホゲホと苦しそうに咳き込んでいる。
(え? いまの……魔法? ……風が動いたけど、なにもかもが速すぎて、なにが起こったのか全く見えなかった)
「とうさんだって魔法を使ったじゃないか!」
「黙れ! オレはなにをやっても許されるんだ。セイランは今すぐにでていけ! オレの邪魔をするな!」
「いやだ!」
セイランの声も怒りに震えていた。
「フィリアはボクのだ! ボクがみつけたんだ! とうさんだからって、勝手なことするな!」
「いや、最初に見つけたのはランフウだぞ」
「ちがう! ボクが最初にフィリアを見つけるんだ! フィリアはボクのだ! ボクだけのものだ!」
「お、落ち着けセイラン! 自分がなにを言っているのかわかってないだろ!」
「フィリアから離れろ! フィリアをいじめるな!」
再び結界内が炎の海と化す。
気のせいではなく、さきほどよりも数倍熱く、密度の高い炎が吹き荒れる。
ギンフウは顔を顰めながら、冷気をはらんだ風を呼び出して炎を消滅させる。
しかし、消しても消してもセイランによる炎の連続攻撃は止まらない。
「こら、やめろ! こんなに連続で魔法を使えば結界が消耗する。こんなことなら、もっとキツめの【睡眠】をかけるんだった」
「やっぱり! 【睡眠】でボクを眠らせたんだね。ボクが眠っている間に、フィリアを自分のモノにしようとしたんでしょ!」
「庇護を求めてきた者を手に入れてなにが悪い?」
「え?」
セイランの顔が驚愕に染まる。
「わからないのか? フィリアはすでにココにいる。それは、フィリアがオレのモノになったからに決まっているだろうが」
「嘘だ! ずるい! とうさんでも許さない! ボクのものなのに! フィリアはボクのものだったのにぃ」
そう叫ぶと、セイランはわあわあと大声で泣き始めた。
「ちょ、ちょっと。なぜ泣くんだ? 落ち着け」
「とうさんのバカ! フィリアを返せ!」
再び炎の渦が結界内に充満する。
「セイラン! やめるんだ!」
なにごとにも動じず、悠然と構えているように見える獅子が、キャンキャン吠える子犬を前にして、戸惑っている幻影が見えたような気がした。
子犬は思いっきり毛を逆立て、牙をむき出している。
空間の隅に追いやられたフィリアは、自分の所有権を巡って言い争う親子を呆然と眺めていた。
(エルト……)
大声で「フィリアを返せ」と訴え、泣き続ける少年を前に、なんと言葉をかけてよいのかわからない。
エルトと呼ぶべきなのか、それともセイランと呼ばなければならないのかすら、フィリアにはわからなかった。
ギンフウの方へと探るような視線を向ける。少年の養父は燃え盛る炎の中で腕を組み、難しい顔で泣き叫ぶ息子を睨んでいる。
(こ、この威力なら、ゴブリン王国も【火球】で間違いなく消滅してしまう!)
凝縮された熱と火力は、【火球】という初心者に優しい攻撃魔法ではなく、小国を焼け野原にできるという【煉獄の劫火】も軽く超えるレベルだ。
炎は一瞬で結界内全体に広がる。
全てを燃やしつくすのかと思われたが、それは一陣の冷たい風によって、跡形もなくかき消された。
「ここで攻撃魔法を使うなと言っただろうがあッ! ばかもんっ!」
消え去った炎の中から無傷なギンフウが姿を現し、エルト――セイラン――に向かって右手を突き出す。
「ぎゃうっぅ!」
少年が宙を舞うが、結界の天井に背中をぶつける直前で軽く回転すると、近くの足場に降り立つ。
だが、全くの無傷というわけではなく、腹の辺りを抑えてゲホゲホと苦しそうに咳き込んでいる。
(え? いまの……魔法? ……風が動いたけど、なにもかもが速すぎて、なにが起こったのか全く見えなかった)
「とうさんだって魔法を使ったじゃないか!」
「黙れ! オレはなにをやっても許されるんだ。セイランは今すぐにでていけ! オレの邪魔をするな!」
「いやだ!」
セイランの声も怒りに震えていた。
「フィリアはボクのだ! ボクがみつけたんだ! とうさんだからって、勝手なことするな!」
「いや、最初に見つけたのはランフウだぞ」
「ちがう! ボクが最初にフィリアを見つけるんだ! フィリアはボクのだ! ボクだけのものだ!」
「お、落ち着けセイラン! 自分がなにを言っているのかわかってないだろ!」
「フィリアから離れろ! フィリアをいじめるな!」
再び結界内が炎の海と化す。
気のせいではなく、さきほどよりも数倍熱く、密度の高い炎が吹き荒れる。
ギンフウは顔を顰めながら、冷気をはらんだ風を呼び出して炎を消滅させる。
しかし、消しても消してもセイランによる炎の連続攻撃は止まらない。
「こら、やめろ! こんなに連続で魔法を使えば結界が消耗する。こんなことなら、もっとキツめの【睡眠】をかけるんだった」
「やっぱり! 【睡眠】でボクを眠らせたんだね。ボクが眠っている間に、フィリアを自分のモノにしようとしたんでしょ!」
「庇護を求めてきた者を手に入れてなにが悪い?」
「え?」
セイランの顔が驚愕に染まる。
「わからないのか? フィリアはすでにココにいる。それは、フィリアがオレのモノになったからに決まっているだろうが」
「嘘だ! ずるい! とうさんでも許さない! ボクのものなのに! フィリアはボクのものだったのにぃ」
そう叫ぶと、セイランはわあわあと大声で泣き始めた。
「ちょ、ちょっと。なぜ泣くんだ? 落ち着け」
「とうさんのバカ! フィリアを返せ!」
再び炎の渦が結界内に充満する。
「セイラン! やめるんだ!」
なにごとにも動じず、悠然と構えているように見える獅子が、キャンキャン吠える子犬を前にして、戸惑っている幻影が見えたような気がした。
子犬は思いっきり毛を逆立て、牙をむき出している。
空間の隅に追いやられたフィリアは、自分の所有権を巡って言い争う親子を呆然と眺めていた。
(エルト……)
大声で「フィリアを返せ」と訴え、泣き続ける少年を前に、なんと言葉をかけてよいのかわからない。
エルトと呼ぶべきなのか、それともセイランと呼ばなければならないのかすら、フィリアにはわからなかった。
ギンフウの方へと探るような視線を向ける。少年の養父は燃え盛る炎の中で腕を組み、難しい顔で泣き叫ぶ息子を睨んでいる。
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