生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

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深淵編(4)

4.謝罪なんて不要よ

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 コクランは反応のないフィリアの顔をまじまじと眺めた。

「あら? フィリアちゃん、もしかしたら、ちょっと緊張してる?」
「違うでしょう。魔力漏洩の限界に近づいているのでしょう。立っているのがやっとだと思いますよ。特別な訓練も受けていないのに、大した精神力です」

 リョクランがカウンターの中に入りながら、フィリアの状態をコクランに説明する。無言で「早く連れて行け」とコクランを促す。

「……ホントは、色々と手続きが必要なんだけどね。特別にあたしたちのボスのところに連れて行ってあげる。言っとくけど、これは異例中の異例よ。対価は高くつくから、そのつもりで覚悟なさい」

 コクランの言葉に、フィリアはなんとか頷く。
 少しでも気を抜いたら、意識を失い、倒れてしまいそうだった。

 ただ、このままここで意識を失ったら、もうなにもかもが終わってしまうような気がして、懸命にフィリアは耐える。

 緊張で硬くなったフィリアの手を、コクランが優しく包み込むように握る。
 細くてしなやかなエルフの手は、意外と温かかった。

「じゃ、『深淵』の怒れる獅子と、その無邪気な仔の棲家に案内してあげるわ」

 ぱちん、と音がなるようなコクランの見事なウィンクと共に、フィリアは再び【移動跳躍】の渦に飲み込まれていた。

「フィリアちゃん大丈夫?」

 一瞬の眩暈の後、気がつけば、心配そうなコクランの顔が目の前にあった。
 くらくらする頭を懸命に振りながら、フィリアは周囲を見渡す。

 転移に転移を重ねた先は、どこかの部屋の扉の前だった。

 重々しいデザインの片開きの扉である。
 移動中にいくつもの結界をすり抜けた感覚がしたが、この部屋にも強固な結界が張られている。

「なんとか……。それに、さっきより少し、楽になったかも?」
「……でしょうね。あたしの護符、貴方が一つ残らず全部、ことごとく壊してくれちゃったから、溢れていた魔力が適度に減って、気分がよくなったでしょ?」
「それは……すみませんでした」
「いいのよ、気にしないでね」

 コクランはにっこりと微笑む。

「国宝級のけっこうイイやつばかりだったんだけどねー。神宝級のものもいくつかあったのよ。それらが全部、一瞬で壊れちゃったけど、全然、気にしなくていいのよ」
「…………」
「国宝級と神宝級の護符をいっぱい消滅させたんだから、楽になってもらわないと困るわー。なんてったって、とっても貴重な国宝級と神宝級の護符なんですからね。あ、国宝級と神宝級の護符をたくさん破壊したことについては、気にしないでね」
「……申し訳ございません……」

 これは……間違いなく、思いっきり気にしろということだろう。

「謝罪は必要ないわ。無意識とはいえ、今回、貴方は生存本能から、冒険者ギルドのギルド長が管理している貴重な魔道具やら、わたしたちの護符を魔力漏洩で散々壊しまくったわよね?」
「…………」
「相当な借金ができちゃったわけよ? その立派な身体と能力で、きっちりと返してもらわないといけないから、そこんとこよろしくね。謝罪はいいのよ。返済してもらえば、謝罪なんて不要よ」
 
 青ざめるフィリアの背中を、コクランは遠慮なくバシバシ叩く。

 情報伝達の速さにも驚いたが、明るくサラリと恐ろしいことを言われてしまったことに慄く。

(魔窟だ。ここは魔窟だ。間違いない。ここが魔窟なんだ。魔王の棲み処だ……)

 背中の痛みに耐えながら、ルースにも弁償しろと言われていたことをフィリアは思い出していた。

「ま、その損害を誰がどこでどう補填するかは、ボスが決めることだから……。フィリアちゃんは、情状酌量を認めてもらうためにも、ボスに好かれるように、せいぜいがんばりなさいな」

(なにをがんばるっていうんだ……)
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