195 / 222
フィリア編(3)
10.エルトとなにをやってたんだ?
しおりを挟む
スライムのように壁に密着している職員たちを不思議そうに眺めながら、フィリアはトレスによって非常階段の方へと追い立てられる。
「フィリアさんは、これで五階に上がってください。できるだけ急いでくださいね」
恐ろしいことを宣言される。なにかのトレーニングか罰ゲームだろうか。
螺旋状に天に向って延々と続いている階段を、フィリアは呆然と見上げる。
「トレスは?」
「わたしは垂直移動装置を使います」
「なぜ、ぼくだけ階段なの?」
「今のあなたに垂直移動装置を使われたら、垂直移動装置が壊れてしまいます!」
「え? それって、どういう意味ですか?」
「今、自覚がない人にここで説明している時間はありません。いいですか? 身体強化とか、移動系魔法とか、一切、使わないでくださいよ。魔法はどんな小さなものでも、禁止です! キ・ン・シ!」
「禁止?」
「そうです。禁止です!」
トレスは何度も「魔法禁止」を繰り返し、垂直移動装置の方に歩いていった。
仕方がないので、フィリアはひとり、とぼとぼと階段を登っていく。
五階でギルド長の専属秘書と合流し、そのままルースの執務室に放り込まれた。
トレスはフィリアを執務室に案内すると、逃げるように退出していった。
乱暴な扱いを受けたが、最短でルースとの面会がかなったことにフィリアはひとまずほっとする。
ルースは執務室のデスクにいた。
いつもはなにかしら書類仕事をしていて、きりがよいところまで待たされるのだが、今日は違っていた。
決済前の書類は机の隅に積み上げられ、ルースはなにもしていなかった。
暗い顔で腕を組み、置物のようにじっとしている。
一週間ぶりのルースギルド長は、少しやつれ、元気がないような気がする。そして、目の下にはくまができていた。
ルースと目があったとたんに、大きなため息をつかれた。
「どういうことだ? 何故、たった一週間でこんなにもなるんだ……」
帝都冒険者ギルドのギルドマスターは、ものすごく、ものすごく、深刻な顔で吐き出すように言うと、頭を抱えて机につっぷした。
勢い余って額を机にぶつけたのか、ゴンという鈍い音が聞こえた。
フィリアとふたりっきりだと、ルースの態度と言葉はとたんに砕けたものになる。
「エルトとなにをやってたんだ?」
「え……」
一瞬、予想していなかった質問に、フィリアは返事に詰まってしまう。
一週間もひたすらなにもせずにぐうぐう寝ていました……なんて恥ずかしすぎる。
恥ずかしさのあまり、一気に体温が上昇し、顔が赤らむのが自分でもわかった。
なんと答えてよいのかわからず、フィリアの視線があらぬところを彷徨う。
「……いや、具体的な説明をおまえに求めたわけではない。単なる独り言だ」
ルースはひらひらと手を振る。
随分と大きな独り言である。
「ちびっ子たちの次は、おまえかよ……」
ルースの責めるような視線が痛い。
「あの……ぼくがなにかをしましたか?」
「おまえ、自覚がないのか?」
「自覚……ですか?」
フィリアの返事に「これは重症だ」と言って、ルースは呆れたように首を振る。
「おまえの冒険者カードは、どうなっている?」
「あ、それなんですが……」
フィリアはドッグタグをとりだし、【テータスオープン】と唱える。
「今朝、冒険者カードを見てみたら、表示がなんだかおかしくて……」
ドッグタグからカード型に戻すと、フィリアは自分の冒険者カードをルースに手渡した。
「やっぱりな……文字化けしているか」
フィリアの冒険者カードを一瞥すると、カードを元に戻すように指示する。
ルースの手の中にあるまま、冒険者カードがドックタグに戻る。
「これは暫くの間、オレが預かっておく」
「破損……でしょうか?」
「いや、壊れてはいない。むしろ、正常な状態だから安心しろ」
「はぁ……?」
もう少し詳しく説明して欲しいところなのだが、顔色の悪いルースギルド長を見ていると、口がどうしても重くなってしまう。
「この一週間、おまえはエルトと魔力交換をやっただろう? しかも、かなりの時間……」
「魔力交換……? いえ。その……寝てました」
「なにいっ! 寝たのか! 一週間もッ! 一週間も寝たのか!」
「フィリアさんは、これで五階に上がってください。できるだけ急いでくださいね」
恐ろしいことを宣言される。なにかのトレーニングか罰ゲームだろうか。
螺旋状に天に向って延々と続いている階段を、フィリアは呆然と見上げる。
「トレスは?」
「わたしは垂直移動装置を使います」
「なぜ、ぼくだけ階段なの?」
「今のあなたに垂直移動装置を使われたら、垂直移動装置が壊れてしまいます!」
「え? それって、どういう意味ですか?」
「今、自覚がない人にここで説明している時間はありません。いいですか? 身体強化とか、移動系魔法とか、一切、使わないでくださいよ。魔法はどんな小さなものでも、禁止です! キ・ン・シ!」
「禁止?」
「そうです。禁止です!」
トレスは何度も「魔法禁止」を繰り返し、垂直移動装置の方に歩いていった。
仕方がないので、フィリアはひとり、とぼとぼと階段を登っていく。
五階でギルド長の専属秘書と合流し、そのままルースの執務室に放り込まれた。
トレスはフィリアを執務室に案内すると、逃げるように退出していった。
乱暴な扱いを受けたが、最短でルースとの面会がかなったことにフィリアはひとまずほっとする。
ルースは執務室のデスクにいた。
いつもはなにかしら書類仕事をしていて、きりがよいところまで待たされるのだが、今日は違っていた。
決済前の書類は机の隅に積み上げられ、ルースはなにもしていなかった。
暗い顔で腕を組み、置物のようにじっとしている。
一週間ぶりのルースギルド長は、少しやつれ、元気がないような気がする。そして、目の下にはくまができていた。
ルースと目があったとたんに、大きなため息をつかれた。
「どういうことだ? 何故、たった一週間でこんなにもなるんだ……」
帝都冒険者ギルドのギルドマスターは、ものすごく、ものすごく、深刻な顔で吐き出すように言うと、頭を抱えて机につっぷした。
勢い余って額を机にぶつけたのか、ゴンという鈍い音が聞こえた。
フィリアとふたりっきりだと、ルースの態度と言葉はとたんに砕けたものになる。
「エルトとなにをやってたんだ?」
「え……」
一瞬、予想していなかった質問に、フィリアは返事に詰まってしまう。
一週間もひたすらなにもせずにぐうぐう寝ていました……なんて恥ずかしすぎる。
恥ずかしさのあまり、一気に体温が上昇し、顔が赤らむのが自分でもわかった。
なんと答えてよいのかわからず、フィリアの視線があらぬところを彷徨う。
「……いや、具体的な説明をおまえに求めたわけではない。単なる独り言だ」
ルースはひらひらと手を振る。
随分と大きな独り言である。
「ちびっ子たちの次は、おまえかよ……」
ルースの責めるような視線が痛い。
「あの……ぼくがなにかをしましたか?」
「おまえ、自覚がないのか?」
「自覚……ですか?」
フィリアの返事に「これは重症だ」と言って、ルースは呆れたように首を振る。
「おまえの冒険者カードは、どうなっている?」
「あ、それなんですが……」
フィリアはドッグタグをとりだし、【テータスオープン】と唱える。
「今朝、冒険者カードを見てみたら、表示がなんだかおかしくて……」
ドッグタグからカード型に戻すと、フィリアは自分の冒険者カードをルースに手渡した。
「やっぱりな……文字化けしているか」
フィリアの冒険者カードを一瞥すると、カードを元に戻すように指示する。
ルースの手の中にあるまま、冒険者カードがドックタグに戻る。
「これは暫くの間、オレが預かっておく」
「破損……でしょうか?」
「いや、壊れてはいない。むしろ、正常な状態だから安心しろ」
「はぁ……?」
もう少し詳しく説明して欲しいところなのだが、顔色の悪いルースギルド長を見ていると、口がどうしても重くなってしまう。
「この一週間、おまえはエルトと魔力交換をやっただろう? しかも、かなりの時間……」
「魔力交換……? いえ。その……寝てました」
「なにいっ! 寝たのか! 一週間もッ! 一週間も寝たのか!」
0
数々の作品あるなか、ご訪問ありがとうございます。
これもなにかの『縁』でございます!
お気に入り、ブクマありがとうございます。
まだの方はぜひ、ポチッとしていただき、更新時もよろしくお願いします。
ポチっで、モチベーションがめっちゃあがります。
↓別のお話もアップしています。そちらも応援よろしくお願いします。↓
転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす
勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです
これもなにかの『縁』でございます!
お気に入り、ブクマありがとうございます。
まだの方はぜひ、ポチッとしていただき、更新時もよろしくお願いします。
ポチっで、モチベーションがめっちゃあがります。
↓別のお話もアップしています。そちらも応援よろしくお願いします。↓
転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす
勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。毎日19:00に更新します。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。

サイデュームの宝石 転生したら悪役令嬢でした
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった人達のお話です。
せつない話を書きたくて書きました。
以前かいた短編をまとめた短編集です。
更に続きの番外編をこちらで連載中です。
ルビーの憂鬱で出てくるパイロープ王国の国王は『断罪される前に婚約破棄しようとしたら、手籠にされました』の王太子殿下です。

悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる