生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

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深淵編(3)

それじゃな――い!

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 顎に手をやり少し思案した後、ギンフウの手が伸び、ランフウの頭に置かれる。

(…………?)

「ランフウはよくやってくれている」

 と、ゆっくりと頭を撫でられた。
 まるで、子どもを褒めるかのような撫でかただ。

(それじゃな――い!)

 ギンフウに褒めてもらえて、ちょっぴり嬉しかったのだが、ランフウが欲しい『ご褒美』はこれではない。

「これじゃなかったか?」

 ランフウの反応を見て、ギンフウは思案顔になる。

「欲しい褒美はなんなんだ?」

 緊張で震えながらも、ランフウは己の望みを口にする。

「あ、あのハーフエルフとアレを、わたしの側に置く許可を頂きたいです」
「ふむ……」

 ギンフウの表情に変化はみられない。思案するかのように視線を天井に彷徨わせた。

「とはいうが……おまえが目をつけているお人好しのハーフエルフは、堕ちたのか?」
「ハーフエルフは……堕としました」

 今日のあの一押しは、手ごたえがあった。
 間違いなく、トレスはランフウの『犬』になるだろう。

「あのハーフエルフは、育てるのに時間と手間がかかると思うぞ? 養父はエルフの聖者だ。育ちが違いすぎる。時間と手間をかけた割には、たいして使えないが、それでもいいのか?」
「気長にやります。……早急に魔道具代わりが欲しいので」
「そうか。道具が欲しいのなら、ランフウの好きに使うがいい。……今回のご褒美だ」

 魔道具代わり、と言われれば、ギンフウも強く反対できない。
 本音を言うと、今の段階では許可したくないのだが、ここはギンフウが折れるところだった。

 エルフの聖者という、浮世離れした存在に育てられた者が、帝国の闇の中で生き抜くことができるのか、馴染めることができるのか、疑問が残る。

 だた、ランフウの身体が限界にきている。これ以上、ランフウに魔法を使わせるのはよくない、ということはギンフウもわかっていた。

 しかし、いくらランフウが追い詰められているとはいえ、焦りや妥協でギンフウが折れる……という展開はあまりよろしくない。

 それに、ランフウに与えているヤマセが、そのハーフエルフを迎え入れることを渋っているのも一因となっている。

 もっと時間をかけて見極めて、ハーフエルフにゆさぶりをかけ続けたかったが、子どもたちがあのようなことをしでかしたことで、計画が大幅に狂ってしまった。

 コクランやリョクランからも、ランフウをなんとかしろという、相当な圧がかかっている。

 ランフウが壊れてしまうことと、ハーフエルフを受け入れることのリスクを天秤にかけてみる。

 となると、ギンフウの選択に迷いはなくなる。

(今はまだランフウを失うわけにはいかない)

 という結論にギンフウは行き着いた。

「アレの方はどうでしょうか?」

 ギンフウの許可を得たと判断したランフウは、次の人物に話題を変えた。この勢いで、彼の問題も片付けてしまいたい。

「……一度、断られたな?」
「はい」

 ハーフエルフのときよりも、慎重な姿勢をギンフウは見せる。

 長椅子の背もたれに背中を預け、ギンフウは傷のない方の目を閉じた。

 ランフウが『アレ』と呼んでいる男についての情報を、記憶の底から手繰り寄せているのだろう。

 目を閉じ、顰められた眉間に右の人差し指をあてたまま、ギンフウが口を開く。

「確かに、報告書どおりだったら、能力は魅力的だ。伸びしろもあるから、ランフウが諦められないのもわかる。だが、アレには適性がない」
「ですが……」
「堕ちなかったモノは、何度やっても堕ちない。諦めろ」
「いやです。わたしでは堕とせませんでしたが、アレは近いうちに、自ら堕ちてきます」
「…………」

 予想していなかったランフウの反論に、ギンフウは目を見開く。
 言葉を続けようとギンフウは口を開いたが、不意にふたりの身体がこわばった。
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