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フィリア編(2)
魔力相性が抜群にいいみたいだな?
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「困ったなぁ……」
考えることなどさっさと放棄して、ずっと、こうしてエルトを眺めていたい。とフィリアは思うが、やらねばならぬことは考えるまでもなく、最初からわかっていた。
エルトを無理矢理起こして、彼の保護者の所在を聞き出す。そして、保護者の元に連れて行く。
その一択だ。
それが、大人としての、清く正しい行動だ。昨日までのフィリアならそうする。間違いなくそうしていた。
しかも、転移系の魔法が使えるフィリアには容易いことだった。
そもそもエルトが目覚めさえすれば、本人が転移系の魔法を使って、家に帰ることができるだろう。
だが、心の奥底では、「とても疲れているようだ」「せっかく気持ちよさそうに眠っているのを、無理矢理に起こすのも気の毒だ」とか「朝になるまで待っても別にいいじゃないか」とか、様々な言い訳を並べ立て、エルトをここに留めておく理由を作ってしまう。
エルトと離れたくない、のではなく、エルトを離したくないのだ。
幼くて小さな存在を保護し、全霊をかけて護らなければならないという衝動にかられる。
その今までなかった『思考』と『感情』の芽生えに、フィリアはただただ困惑していたのである。
フィリアはゆっくりと手を伸ばし、エルトの前髪を触った。慣れとは恐ろしいもので、先程よりもやることが大胆になってきている。
困ったことに、考えるよりも先に、身体が勝手に動いてしまうのだ。
こうして、エルトの隣に座り、美しい少年の寝顔を何時間でも、何日でも、見つめ続けることができそうだ。
柔らかな髪の感触をたのしみながら、手がエルトの頬を撫でる。
(やっぱり……エルトに触れていると、魔力が回復するみたいだ)
そっと手を離す。
体中に魔力が漲り、体内をうごめいているのがわかる。
不味い魔力回復薬を飲むよりも、回復率がいいように思える。
なによりも心地良い。
(エルトとぼくは、魔力相性が抜群にいいみたいだな? これって……いわゆる、ぴったり重なり合うくらい……にいいんじゃないかなぁ?)
疑問形になってしまうのは、話でちらりと聞いただけで、実例を見たことがないからだ。
魔力相性がいい者同士が出会う確立はとても低く、『魔力相性が抜群にいい』というものが、具体的にどのようなものなのかフィリアにはわからないのだ。
ちょっと似ているよね……ではなく、『抜群にいい』ともなると、都市伝説レベルといってもいい。
研究者たちの発表によると、血縁者は魔力の色が自然と似通ってくるらしいが、あくまでも『似通っている』だそうだ。
フィリアは孤児なので、血縁者との接触もない。なので『魔力の色が似通っている』という状況もわからない。
朝の冒険者登録の時や、ギルド長のお説教や夕食時の時など、エルトを膝の上に乗せていた時、魔力が高まるのを感じていた。
とても不思議な感覚だった。
触れ合っていると心地よい……それだけではなく、欠けている部分が補われるような、癒やされるような気持ちになる。
見様見真似で魔法を覚え、ルースギルド長から必要な座学は学んだが、魔術師になるつもりはなかったので、魔法が使える剣士として必要最低限の知識しかフィリアにはない。
今まで体験したことのない感情と、それに翻弄されるかのような感覚に、フィリアは当惑するばかりである。
惹かれ合い、離れ難い関係。これが、魔力相性のよい者同士の出会いというものなのだろうか?
エルトの頬を撫でながら、フィリアは首を傾ける。
静かな部屋の中にいると、自分の鼓動と、エルトの規則正しい寝息しか聞こえてこない。
いや、自分の鼓動がやけに大きく聞こえ、どんどん激しくなっていく。
そして、体内の魔力もそれに呼応するかのように、ドクドクと脈打っている。
「うう……ん」
(うわ……っ)
エルトが身じろぎ……フィリアの手に頬をすりよせてくる。
とても幸せそうなエルトの寝顔に見惚れてしまい、手を引っ込めるタイミングを失ってしまう。
こうして頬を触っているだけで、身体が癒やされていく。
エルトの寝顔もどんどん柔らかなものになり、頬がほんのりと朱色に染まりつつある。白磁のような透き通ったつくりものめいた肌に、温かみがでてきていた。
薄暗い中でもはっきりとわかるくらいの変化だ。
だったら、ふたりがぴったりとよりそって眠ればどうなるのか……。
考えることなどさっさと放棄して、ずっと、こうしてエルトを眺めていたい。とフィリアは思うが、やらねばならぬことは考えるまでもなく、最初からわかっていた。
エルトを無理矢理起こして、彼の保護者の所在を聞き出す。そして、保護者の元に連れて行く。
その一択だ。
それが、大人としての、清く正しい行動だ。昨日までのフィリアならそうする。間違いなくそうしていた。
しかも、転移系の魔法が使えるフィリアには容易いことだった。
そもそもエルトが目覚めさえすれば、本人が転移系の魔法を使って、家に帰ることができるだろう。
だが、心の奥底では、「とても疲れているようだ」「せっかく気持ちよさそうに眠っているのを、無理矢理に起こすのも気の毒だ」とか「朝になるまで待っても別にいいじゃないか」とか、様々な言い訳を並べ立て、エルトをここに留めておく理由を作ってしまう。
エルトと離れたくない、のではなく、エルトを離したくないのだ。
幼くて小さな存在を保護し、全霊をかけて護らなければならないという衝動にかられる。
その今までなかった『思考』と『感情』の芽生えに、フィリアはただただ困惑していたのである。
フィリアはゆっくりと手を伸ばし、エルトの前髪を触った。慣れとは恐ろしいもので、先程よりもやることが大胆になってきている。
困ったことに、考えるよりも先に、身体が勝手に動いてしまうのだ。
こうして、エルトの隣に座り、美しい少年の寝顔を何時間でも、何日でも、見つめ続けることができそうだ。
柔らかな髪の感触をたのしみながら、手がエルトの頬を撫でる。
(やっぱり……エルトに触れていると、魔力が回復するみたいだ)
そっと手を離す。
体中に魔力が漲り、体内をうごめいているのがわかる。
不味い魔力回復薬を飲むよりも、回復率がいいように思える。
なによりも心地良い。
(エルトとぼくは、魔力相性が抜群にいいみたいだな? これって……いわゆる、ぴったり重なり合うくらい……にいいんじゃないかなぁ?)
疑問形になってしまうのは、話でちらりと聞いただけで、実例を見たことがないからだ。
魔力相性がいい者同士が出会う確立はとても低く、『魔力相性が抜群にいい』というものが、具体的にどのようなものなのかフィリアにはわからないのだ。
ちょっと似ているよね……ではなく、『抜群にいい』ともなると、都市伝説レベルといってもいい。
研究者たちの発表によると、血縁者は魔力の色が自然と似通ってくるらしいが、あくまでも『似通っている』だそうだ。
フィリアは孤児なので、血縁者との接触もない。なので『魔力の色が似通っている』という状況もわからない。
朝の冒険者登録の時や、ギルド長のお説教や夕食時の時など、エルトを膝の上に乗せていた時、魔力が高まるのを感じていた。
とても不思議な感覚だった。
触れ合っていると心地よい……それだけではなく、欠けている部分が補われるような、癒やされるような気持ちになる。
見様見真似で魔法を覚え、ルースギルド長から必要な座学は学んだが、魔術師になるつもりはなかったので、魔法が使える剣士として必要最低限の知識しかフィリアにはない。
今まで体験したことのない感情と、それに翻弄されるかのような感覚に、フィリアは当惑するばかりである。
惹かれ合い、離れ難い関係。これが、魔力相性のよい者同士の出会いというものなのだろうか?
エルトの頬を撫でながら、フィリアは首を傾ける。
静かな部屋の中にいると、自分の鼓動と、エルトの規則正しい寝息しか聞こえてこない。
いや、自分の鼓動がやけに大きく聞こえ、どんどん激しくなっていく。
そして、体内の魔力もそれに呼応するかのように、ドクドクと脈打っている。
「うう……ん」
(うわ……っ)
エルトが身じろぎ……フィリアの手に頬をすりよせてくる。
とても幸せそうなエルトの寝顔に見惚れてしまい、手を引っ込めるタイミングを失ってしまう。
こうして頬を触っているだけで、身体が癒やされていく。
エルトの寝顔もどんどん柔らかなものになり、頬がほんのりと朱色に染まりつつある。白磁のような透き通ったつくりものめいた肌に、温かみがでてきていた。
薄暗い中でもはっきりとわかるくらいの変化だ。
だったら、ふたりがぴったりとよりそって眠ればどうなるのか……。
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