165 / 222
フィリア編(2)
そうだ! 逃げよう!
しおりを挟む
この年齢で、魔力能力値の異様なまでの高さ。秀でた能力。過剰なまでの装備。そして……この美貌。
人の規格を大きく越えていたとしても、それが皇族の一員であるのなら納得もできる。
リオーネとナニは、兄弟という設定の護衛だったのかもしれない。
皇帝には多くの側室がおり、確か……エルトくらいの年齢の皇子が、何名かいたはずだ。
隠し子ということもありえる。
(まずい! まずいぞ!)
大声をだしてエルトの安眠を妨害するわけにはいかない。
心の中だけで思いっきり絶叫すると、フィリアは髪の毛をガシガシと掻きむしった。
皇室関係者をみすぼらしくて狭い一室に拉致監禁……となれば死刑だろう。
いや、問答無用で、弁明もさせてもらえずに斬り殺されるかもしれない。
いいやいや、転移系の魔法が使える便利奴隷として、死ぬまで働かされ続けることだってありえる。
(まずい! 困った! やばい!)
フィリアはベッドから立ち上がると、狭い室内をウロウロと歩き回る。
長年に渡る婚姻や養子の結果か、能力のある血筋にしかるべき地位を与えるという帝国の仕組みからか。
ここフォルティアナ帝国において、魔力能力値の高さは、そのまま身分の高さと直結していた。
平民の中にも生活魔法程度のことなら使える者もいるが、実際に魔法を使いこなせる者となると、貴族階級の者が多い。
しかも、階級が上がれば上がるほど、魔力能力値は高くなる。
落胤や隠し子。
一夜限りの娼婦との間に……などもある。孤児院に捨てられた子どもが魔力持ちだった場合は、その可能性が非常に高い。
没落や出奔、追放された貴族が市井に紛れて、血が薄まりつつも脈々と受け継がれる。
そして、たまに先祖返りで魔力能力値が高い者が誕生して周囲を驚かせるのだ。
しかし、純然たる高貴な血族とは雲泥の差があるという。
高貴な血族のトップが皇室であり、頂点に立つ人物が皇帝というわけだ。
「困った。どうしよう……」
さきほどからフィリアの口からは、同じような言葉しかでてこない。
孤児院の子どもたちの世話をしても、子どもたちを自分の部屋に入れることはしなかった。
狭いし、他の冒険者の迷惑にもなるからだ。
そこはきっちりと線引し、距離を置いている。
どんなに親しくなった子どもであってもだ。
子どもの方が望んでも、フィリアは決してそれを許しはしなかった。
なのに、今、自分は、少年趣味とか、拉致監禁とか言われても、申し開きができない状況にいる。
「ああ……やってしまった……」
ナニがギルのことをロリコンと言っていたが、あの程度のことでロリコン呼ばわりされるのだから、自分はそれ以上のことを言われるにちがいない。
しかも、監禁した相手が皇室関係者だったら、今すぐにでも帝国の騎士がこの部屋になだれ込んでくるだろう。
(これは……逃げた方がいいのかもしれない。……そうだ! 逃げよう!)
と、剣に手を伸ばしかけて、ふと、フィリアの手が止まった。
(あれ? もしも、本当に、エルトが皇室関係者で、あのふたりが護衛だったら……エルトを忘れて帰ったり、放置したり……しないよね?)
仮にちびっ子たちがうっかりしてエルトを放置したとしても、大人の護衛が少し離れた場所にいるはずだ。その時点で護衛たちが姿を現すだろう。
こうして現在、フィリアの身になにも起こっていないということは……。
エルトが皇子であるという仮説は……少し飛躍しすぎていたのかもしれない。
溜息がでる。
思考の迷宮に入り込み、出口が見えない。迷子になってしまった。
本当にどうしたらよいのかわからない。
答えがわからないのだ。
だから通常では考えないようなことを考えてしまう。
「どうしよう……」
心底困り果てているのだから、そういう言葉しかでてこない。
全くもって、不毛な状況である。
ベッドですやすや眠るエルトを見ていると、心がザワザワと落ち着かなくなる。なにがなんだかわからなくなる。
混乱して思考が全くまとまらない。
「はぁ……っ」
再びフィリアはベッドに腰掛けた。
人の規格を大きく越えていたとしても、それが皇族の一員であるのなら納得もできる。
リオーネとナニは、兄弟という設定の護衛だったのかもしれない。
皇帝には多くの側室がおり、確か……エルトくらいの年齢の皇子が、何名かいたはずだ。
隠し子ということもありえる。
(まずい! まずいぞ!)
大声をだしてエルトの安眠を妨害するわけにはいかない。
心の中だけで思いっきり絶叫すると、フィリアは髪の毛をガシガシと掻きむしった。
皇室関係者をみすぼらしくて狭い一室に拉致監禁……となれば死刑だろう。
いや、問答無用で、弁明もさせてもらえずに斬り殺されるかもしれない。
いいやいや、転移系の魔法が使える便利奴隷として、死ぬまで働かされ続けることだってありえる。
(まずい! 困った! やばい!)
フィリアはベッドから立ち上がると、狭い室内をウロウロと歩き回る。
長年に渡る婚姻や養子の結果か、能力のある血筋にしかるべき地位を与えるという帝国の仕組みからか。
ここフォルティアナ帝国において、魔力能力値の高さは、そのまま身分の高さと直結していた。
平民の中にも生活魔法程度のことなら使える者もいるが、実際に魔法を使いこなせる者となると、貴族階級の者が多い。
しかも、階級が上がれば上がるほど、魔力能力値は高くなる。
落胤や隠し子。
一夜限りの娼婦との間に……などもある。孤児院に捨てられた子どもが魔力持ちだった場合は、その可能性が非常に高い。
没落や出奔、追放された貴族が市井に紛れて、血が薄まりつつも脈々と受け継がれる。
そして、たまに先祖返りで魔力能力値が高い者が誕生して周囲を驚かせるのだ。
しかし、純然たる高貴な血族とは雲泥の差があるという。
高貴な血族のトップが皇室であり、頂点に立つ人物が皇帝というわけだ。
「困った。どうしよう……」
さきほどからフィリアの口からは、同じような言葉しかでてこない。
孤児院の子どもたちの世話をしても、子どもたちを自分の部屋に入れることはしなかった。
狭いし、他の冒険者の迷惑にもなるからだ。
そこはきっちりと線引し、距離を置いている。
どんなに親しくなった子どもであってもだ。
子どもの方が望んでも、フィリアは決してそれを許しはしなかった。
なのに、今、自分は、少年趣味とか、拉致監禁とか言われても、申し開きができない状況にいる。
「ああ……やってしまった……」
ナニがギルのことをロリコンと言っていたが、あの程度のことでロリコン呼ばわりされるのだから、自分はそれ以上のことを言われるにちがいない。
しかも、監禁した相手が皇室関係者だったら、今すぐにでも帝国の騎士がこの部屋になだれ込んでくるだろう。
(これは……逃げた方がいいのかもしれない。……そうだ! 逃げよう!)
と、剣に手を伸ばしかけて、ふと、フィリアの手が止まった。
(あれ? もしも、本当に、エルトが皇室関係者で、あのふたりが護衛だったら……エルトを忘れて帰ったり、放置したり……しないよね?)
仮にちびっ子たちがうっかりしてエルトを放置したとしても、大人の護衛が少し離れた場所にいるはずだ。その時点で護衛たちが姿を現すだろう。
こうして現在、フィリアの身になにも起こっていないということは……。
エルトが皇子であるという仮説は……少し飛躍しすぎていたのかもしれない。
溜息がでる。
思考の迷宮に入り込み、出口が見えない。迷子になってしまった。
本当にどうしたらよいのかわからない。
答えがわからないのだ。
だから通常では考えないようなことを考えてしまう。
「どうしよう……」
心底困り果てているのだから、そういう言葉しかでてこない。
全くもって、不毛な状況である。
ベッドですやすや眠るエルトを見ていると、心がザワザワと落ち着かなくなる。なにがなんだかわからなくなる。
混乱して思考が全くまとまらない。
「はぁ……っ」
再びフィリアはベッドに腰掛けた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
捨てられ従魔とゆる暮らし
KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設!
冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。
けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。
そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。
クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。
一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。
─魔物を飼うなら最後まで責任持て!
─正しい知識と計画性!
─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい!
今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。
【完結】転移魔王の、人間国崩壊プラン! 魔王召喚されて現れた大正生まれ104歳のババアの、堕落した冒険者を作るダンジョンに抜かりがない!
うどん五段
ファンタジー
勇者に魔王様を殺され劣勢の魔族軍!ついに魔王召喚をするが現れたのは100歳を超えるババア!?
若返りスキルを使いサイドカー乗り回し、キャンピングカーを乗り回し!
経験値欲しさに冒険者を襲う!!
「殺られる前に殺りな!」「勇者の金を奪うんだよ!」と作り出される町は正に理想郷!?
戦争を生き抜いてきた魔王ババア……今正に絶頂期を迎える!
他サイトにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる