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フィリア編(2)
この子……ニンゲンだよね?
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規格外の存在。
十歳そこそこで、登録初日に十回分の依頼――見習い冒険者から初級冒険者にランクアップできる条件――をいきなり達成させた猛者。
フィリアも成長のスピードが普通よりも速いだの、呑み込みが速いだのと……周囲から言われて期待されているが、三人のちびっ子たちと比べると、自分など凡人でしかない。
あのちびっ子たちなら、超級冒険者の上……伝説級冒険者、あるいは、神話級冒険者になることも可能だろう。
(一体、どういうスキルとレベルであんなことができるんだろう? ああいうのを神からギフトを賜った子どもたち……というのかな)
超級冒険者が数日かけて行う依頼を、登録日初日……実質半日足らずでやりとげてしまったのだから、冒険者ギルドは大騒ぎだ。
前々から急ぎで準備していた合同討伐を『ちっこい新人がかすめとった』結果になってしまったのも、ルースギルド長に大ダメージを与えただろう。
ギルド長の顔色は死人のようにとても悪く、終始機嫌が悪かったが……。それだけのことを、あの規格外のちびっ子たちはやらかしてしまったのだ。
後にルースギルド長は今日のちびっ子たちがやらかしたふたつの事件を『激レア薬草採取大事件』『モブじゃないゴブリン討伐大事件』と呼ぶようになる。
明日から、事後処理に奔走するであろうギルド長と、その専属秘書にフィリアは心から同情した。
そして、今でも十分に巻き込まれてしまったが、今以上のことには巻き込まないでほしい……と心の底から思った。
エルトの面倒ならみてもいいが、ギルド長の尻拭いにつきあわされるのは遠慮したい。
まあ、そういうことなので、今日はとても疲れた一日だった。
疲れたというのに、最後の最後で、子どもを自分の部屋に連れ帰るとは……。
「この子……ニンゲンだよね? ニンゲンの子どもって、こんなに強いのかな? こんなに強くていいのかな?」
エルトは『モブじゃないゴブリン討伐大事件』で攻撃魔法の初歩といわれる【火球】でゴブリンたちを消し炭にしたらしい。
しかも【火球】なのに、三人のちびっ子たちの中で、一番火力のある魔法だったそうだ。
一般的な【火球】であるならば、二、三匹のゴブリンに重度の火傷を負わせて倒せる程度のものだ。
決して、黒焦げや消し炭にできるような高火力魔法ではない。
あまり気は進まないが、エルトの【火球】というものがどんなものなのか、早いうちに確認しておいた方がよいだろう。
とにかく、普通ではないのだ。
査定受付場で行われた『鬼ごっこ』も普通ではなかった。
宙に浮く、空を飛ぶ、という魔法は色々ある。ずばりそのものな魔法もあれば、風系の魔法を活用する方法もある。
が、自在に、しかも機敏に反応できる飛び方ができるまでには、相当な訓練と魔力量が必要になる。
あの時のエルトは、空中に小型の【障壁】を足場として複数同時に出現させ、【跳躍】を使って宙を自在に飛翔してみせた。
他にも身体強化の魔法を使っていたのだろう。
しかも魔法はすべて無詠唱。複数の種類が違う魔法を同時に発動させて使いこなし、さらにフィリアから逃げ続けることができたのだ。
高度な技を、こんなに可愛くて華奢で、幼い子どもがやってのけたのである。
あの瞬間だけでも相当の魔力を消費しただろうし、魔法技術、運動能力、集中力、判断力、どれかひとつでも欠けたら、あの『鬼ごっこ』は成立しない。
人生経験が勝っていたからフィリアは逃げ回るエルトを捕まえることができた。
今回はできただけだ。何回か同じようなことをすれば、エルトはすぐにコツをつかんで逃げ切れるようになるだろう。
(なんて……恐ろしい子なんだ)
とは思うものの、エルトの異質さに恐怖は感じない。むしろ畏怖の方が強い。
結果的に『赤い鳥』は、もらい事故のような形で、子どもたちの騒動に巻き込まれてしまったのだった。
十歳そこそこで、登録初日に十回分の依頼――見習い冒険者から初級冒険者にランクアップできる条件――をいきなり達成させた猛者。
フィリアも成長のスピードが普通よりも速いだの、呑み込みが速いだのと……周囲から言われて期待されているが、三人のちびっ子たちと比べると、自分など凡人でしかない。
あのちびっ子たちなら、超級冒険者の上……伝説級冒険者、あるいは、神話級冒険者になることも可能だろう。
(一体、どういうスキルとレベルであんなことができるんだろう? ああいうのを神からギフトを賜った子どもたち……というのかな)
超級冒険者が数日かけて行う依頼を、登録日初日……実質半日足らずでやりとげてしまったのだから、冒険者ギルドは大騒ぎだ。
前々から急ぎで準備していた合同討伐を『ちっこい新人がかすめとった』結果になってしまったのも、ルースギルド長に大ダメージを与えただろう。
ギルド長の顔色は死人のようにとても悪く、終始機嫌が悪かったが……。それだけのことを、あの規格外のちびっ子たちはやらかしてしまったのだ。
後にルースギルド長は今日のちびっ子たちがやらかしたふたつの事件を『激レア薬草採取大事件』『モブじゃないゴブリン討伐大事件』と呼ぶようになる。
明日から、事後処理に奔走するであろうギルド長と、その専属秘書にフィリアは心から同情した。
そして、今でも十分に巻き込まれてしまったが、今以上のことには巻き込まないでほしい……と心の底から思った。
エルトの面倒ならみてもいいが、ギルド長の尻拭いにつきあわされるのは遠慮したい。
まあ、そういうことなので、今日はとても疲れた一日だった。
疲れたというのに、最後の最後で、子どもを自分の部屋に連れ帰るとは……。
「この子……ニンゲンだよね? ニンゲンの子どもって、こんなに強いのかな? こんなに強くていいのかな?」
エルトは『モブじゃないゴブリン討伐大事件』で攻撃魔法の初歩といわれる【火球】でゴブリンたちを消し炭にしたらしい。
しかも【火球】なのに、三人のちびっ子たちの中で、一番火力のある魔法だったそうだ。
一般的な【火球】であるならば、二、三匹のゴブリンに重度の火傷を負わせて倒せる程度のものだ。
決して、黒焦げや消し炭にできるような高火力魔法ではない。
あまり気は進まないが、エルトの【火球】というものがどんなものなのか、早いうちに確認しておいた方がよいだろう。
とにかく、普通ではないのだ。
査定受付場で行われた『鬼ごっこ』も普通ではなかった。
宙に浮く、空を飛ぶ、という魔法は色々ある。ずばりそのものな魔法もあれば、風系の魔法を活用する方法もある。
が、自在に、しかも機敏に反応できる飛び方ができるまでには、相当な訓練と魔力量が必要になる。
あの時のエルトは、空中に小型の【障壁】を足場として複数同時に出現させ、【跳躍】を使って宙を自在に飛翔してみせた。
他にも身体強化の魔法を使っていたのだろう。
しかも魔法はすべて無詠唱。複数の種類が違う魔法を同時に発動させて使いこなし、さらにフィリアから逃げ続けることができたのだ。
高度な技を、こんなに可愛くて華奢で、幼い子どもがやってのけたのである。
あの瞬間だけでも相当の魔力を消費しただろうし、魔法技術、運動能力、集中力、判断力、どれかひとつでも欠けたら、あの『鬼ごっこ』は成立しない。
人生経験が勝っていたからフィリアは逃げ回るエルトを捕まえることができた。
今回はできただけだ。何回か同じようなことをすれば、エルトはすぐにコツをつかんで逃げ切れるようになるだろう。
(なんて……恐ろしい子なんだ)
とは思うものの、エルトの異質さに恐怖は感じない。むしろ畏怖の方が強い。
結果的に『赤い鳥』は、もらい事故のような形で、子どもたちの騒動に巻き込まれてしまったのだった。
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