上 下
163 / 222
フィリア編(2)

この子……ニンゲンだよね?

しおりを挟む
 規格外の存在。
 
 十歳そこそこで、登録初日に十回分の依頼――見習い冒険者から初級冒険者にランクアップできる条件――をいきなり達成させた猛者。

 フィリアも成長のスピードが普通よりも速いだの、呑み込みが速いだのと……周囲から言われて期待されているが、三人のちびっ子たちと比べると、自分など凡人でしかない。

 あのちびっ子たちなら、超級冒険者の上……伝説級冒険者、あるいは、神話級冒険者になることも可能だろう。

(一体、どういうスキルとレベルであんなことができるんだろう? ああいうのを神からギフトを賜った子どもたち……というのかな)

 超級冒険者が数日かけて行う依頼を、登録日初日……実質半日足らずでやりとげてしまったのだから、冒険者ギルドは大騒ぎだ。

 前々から急ぎで準備していた合同討伐を『ちっこい新人がかすめとった』結果になってしまったのも、ルースギルド長に大ダメージを与えただろう。

 ギルド長の顔色は死人のようにとても悪く、終始機嫌が悪かったが……。それだけのことを、あの規格外のちびっ子たちはやらかしてしまったのだ。

 後にルースギルド長は今日のちびっ子たちがやらかしたふたつの事件を『激レア薬草採取大事件』『モブじゃないゴブリン討伐大事件』と呼ぶようになる。
 明日から、事後処理に奔走するであろうギルド長と、その専属秘書にフィリアは心から同情した。

 そして、今でも十分に巻き込まれてしまったが、今以上のことには巻き込まないでほしい……と心の底から思った。

 エルトの面倒ならみてもいいが、ギルド長の尻拭いにつきあわされるのは遠慮したい。

 まあ、そういうことなので、今日はとても疲れた一日だった。

 疲れたというのに、最後の最後で、子どもを自分の部屋に連れ帰るとは……。

「この子……ニンゲンだよね? ニンゲンの子どもって、こんなに強いのかな? こんなに強くていいのかな?」

 エルトは『モブじゃないゴブリン討伐大事件』で攻撃魔法の初歩といわれる【火球】でゴブリンたちを消し炭にしたらしい。
 しかも【火球】なのに、三人のちびっ子たちの中で、一番火力のある魔法だったそうだ。

 一般的な【火球】であるならば、二、三匹のゴブリンに重度の火傷を負わせて倒せる程度のものだ。
 決して、黒焦げや消し炭にできるような高火力魔法ではない。

 あまり気は進まないが、エルトの【火球】というものがどんなものなのか、早いうちに確認しておいた方がよいだろう。

 とにかく、普通ではないのだ。

 査定受付場で行われた『鬼ごっこ』も普通ではなかった。

 宙に浮く、空を飛ぶ、という魔法は色々ある。ずばりそのものな魔法もあれば、風系の魔法を活用する方法もある。

 が、自在に、しかも機敏に反応できる飛び方ができるまでには、相当な訓練と魔力量が必要になる。

 あの時のエルトは、空中に小型の【障壁】を足場として複数同時に出現させ、【跳躍】を使って宙を自在に飛翔してみせた。
 他にも身体強化の魔法を使っていたのだろう。

 しかも魔法はすべて無詠唱。複数の種類が違う魔法を同時に発動させて使いこなし、さらにフィリアから逃げ続けることができたのだ。

 高度な技を、こんなに可愛くて華奢で、幼い子どもがやってのけたのである。

 あの瞬間だけでも相当の魔力を消費しただろうし、魔法技術、運動能力、集中力、判断力、どれかひとつでも欠けたら、あの『鬼ごっこ』は成立しない。

 人生経験が勝っていたからフィリアは逃げ回るエルトを捕まえることができた。
 今回はできただけだ。何回か同じようなことをすれば、エルトはすぐにコツをつかんで逃げ切れるようになるだろう。

(なんて……恐ろしい子なんだ)

 とは思うものの、エルトの異質さに恐怖は感じない。むしろ畏怖の方が強い。

 結果的に『赤い鳥』は、もらい事故のような形で、子どもたちの騒動に巻き込まれてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

護国の鳥

凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!! サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。 周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。 首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。 同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。 外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。 ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。 校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!

辺境に住む元Cランク冒険者である俺の義理の娘達は、剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を持っているのに何歳になっても甘えてくる

マーラッシュ
ファンタジー
俺はユクト29歳元Cランクの冒険者だ。 魔物によって滅ぼされた村から拾い育てた娘達は15歳になり女神様から剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を頂いたが⋯⋯しかしどこを間違えたのか皆父親の俺を溺愛するようになり好きあらばスキンシップを取ってくる。 どうしてこうなった? 朝食時三女トアの場合 「今日もパパの為に愛情を込めてご飯を作ったから⋯⋯ダメダメ自分で食べないで。トアが食べさせてあげるね⋯⋯あ~ん」 浴室にて次女ミリアの場合 「今日もお仕事お疲れ様。 別に娘なんだから一緒にお風呂に入るのおかしくないよね? ボクがパパの背中を流してあげるよ」 就寝時ベットにて長女セレナの場合 「パパ⋯⋯今日一緒に寝てもいい? 嫌だなんて言わないですよね⋯⋯パパと寝るのは娘の特権ですから。これからもよろしくお願いします」 何故こうなってしまったのか!?  これは15歳のユクトが3人の乳幼児を拾い育て、大きくなっても娘達から甘えられ、戸惑いながらも暮らしていく物語です。 ☆第15回ファンタジー小説大賞に参加しています!【投票する】から応援いただけると更新の励みになります。 *他サイトにも掲載しています。

投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~

カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。 「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」 魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

捨てられると思ったけど違うみたいで

一色
ファンタジー
騎士の家系で育っているのに持っているのは全く関係のない方向のスキル??廃嫡されてしまうと思いきやなんだか違うようで…

処理中です...