生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

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フィリア編(2)

ギル、行くよ

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「ぎゃ――っ! ちょっと! フロル! 果実水が飛んできたわよ!」
「もうっ! 汚い! なに噴き出しているのよ!」

 女性陣が顔をしかめて、咳き込むフロルを睨みつける。

「フロル? 大丈夫?」

 隣に座っていたフィリアが、慌ててフロルの背中をさすった。

「ああ、すまん。ちょ……ちょっと……驚いただけだ」
「なにに?」

 フィリアの質問にフロルは一瞬だけ声を詰まらせたが、ホールの方を指差す。

「……いや。ホラ、あれを見ろよ。めちゃくちゃ『ちびっこい奴ら』が、ギルドにやってきたぞ」

 フロルが指し示した先には、三人の小さな子どもたちが受付ホールでウロウロしていた。

 赤髪の少年、丈の短いフードを目深に被った女の子、そして、前髪を長く伸ばした黒髪の小さな女の子?

 子どもたちは冒険者の格好をしている。
 しかも、子どもにしては、なかなか本格的な装備だった。

「あら? ちっちゃ――い!」
「え? 十歳かしら? かわいいわね。食べちゃいたいくらいかわいい」
「ホント。どんな味がするのかしら」

 ミラーノとエリーが、子どもたちを見てきゃっきゃと騒ぎ立てる。

 フードを目深に被った女の子と黒髪の小さな女の子は、物珍しそうに、ホールの中央で立ち止まり、周囲をキョロキョロと見回していた。

 存在感のある掲示板と、ハザードマップが気になるようである。

 ハザードマップの方にフラフラと近寄ろうとしているフードの少女を、黒髪の女の子が必死に止めている。

 赤髪の少年は、そんなふたりを置いて、一直線に受付へと向かっていた。

 それに気づいたふたりは、ぱたぱたと小さな足音をたてながら、赤髪の少年の後を追いかけていった。

「…………」

 『赤い鳥』のメンバーたちの目線が奥のカウンターへと移動していく。

 中年冒険者率が高い、この帝都の冒険者ギルドでは、なかなか見ることができない、微笑ましい光景だった。

 フィリアとギルも驚いた表情で、小さな子どもたちの背中を見送った。

 ここからだと子どもたちの容姿はよくわからない。

 だが、フィリアの目は、黒髪の女の子……の姿をした男の子を追っていた。

(なんだ――?)

 なぜか、目が離せなかった。
 ものすごく気になる。

 体内の魔力が脈打ち、急に激しく動き始める。胸がざわざわと騒いでどうしようもなく、全身が急に熱くなる。

 あの少年が気になって、気になって仕方がない。

 フロルがなにか話していたが、フィリアには何も聞こえていなかった。

 カウンターに並んだ子どもたちは、大人用の高い受付カウンターに苦戦しているようだ。
 その場でぴょんぴょんと飛び跳ねたり、爪先立ちをしたりしている。

 そうとわかったとたん、フィリアは席を立っていた。
 考えるよりも先に身体が動いていた。

「どうした?」

 ギルが不思議そうに聞いてくる。

「ギル、行くよ」
「どこに?」

 幼馴染のギルは、フィリアの答えを聞く前から、すでに席を立っていた。

 フィリアは何も言わずに、酒場の隅に向かい、木箱を持ち上げる。
 これはただの空の木箱だが、小人族が踏み台として、受付で使っている木箱だ。
 あの子どもたちにも踏み台は必要だろう。

 幼馴染の意図を察したギルは、軽く頷くと、両手にひとつづつ木箱を抱える。
 こういうとき、ギルは非常に頼もしく、役に立つ存在だ。

 フィリアとギルは木箱を抱え、子どもたちがいる受付へと向かった。

 ふたりの先輩冒険者たちは、子どもたちを木箱の上に載せ、身長差の問題を解決してやる。

 このまま戻ってもよかったのだが、子どもたちが受付嬢となにやら揉めそうな雰囲気だったので、フィリアはその場に留まることに決めた。
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