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フィリア編(2)
どう考えても、おかしいよな……
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フロルから飲食代を預かった後、フィリアは膝の上にいる『少女の格好をした少年』を、まじまじと見下ろした。
話し相手のフロルがいなくなり、世話をやいていたエルトも眠ってしまい、ふと、ひとりで考える時間ができてしまう。
あえて目をそらしていた数々の違和感が、フィリアの心をざわつかせはじめた。
(どう考えても、おかしいよな……)
性別だけではない。
柔らかいエルトの髪を撫でながら考え込むが、フィリアの疑問に答えてくれる者はいない。
こういうとき、色々とアドバイスをしてくれる頼りになる人物は、ウキウキで妓楼へと向かっているだろう。
幼馴染みは……考えることに関しては戦力外だ。力仕事は役に立つが、頭脳労働はダメダメだ。
女性陣はもっての他だ。問題がさらにややこしくなるだけなので、最初から相談相手の候補にすら入っていない。
膝の上にいる小柄な少年は、安心しきったかのように、すやすやと眠っている。
深い眠りについているようで、酒場の喧騒はもちろん、ミラーノとエリーの大声も気にならないようだった。
消費した魔力量や、運動量などを考えると、三人の中で一番、食欲があってもおかしくはないのだが、他のふたりに比べて、エルトはあまり食べようとはしなかった。
もっと食べないと、『強さ』と釣り合わない。
この調子で成長期を迎えると、どうなるのか、少し心配になる。
比べる対象にも問題があるが、他のふたりの子どもたちと比べ、エルトは生命の輝きそのものが弱々しく、儚く感じる。
それだけではない。
この年齢でエルトの趣味……ではなく、彼の保護者の趣味だろう。いや、それとも、悪ふざけなのか。
とても似合っているのが余計にたちが悪いと思うのだが……。
エルトに少女と思わせる格好をさせ、さらには、年齢までも偽らせて、あえて冒険者にさせる意味と意図が、全くもってフィリアにはわからなかった。
他の『赤い鳥』のメンバーや受付嬢はエルトを女の子だと思っているようである。
エルト本人が自分の性別を主張しないということは、なにか事情があるのだろう。
幼い子どもが傷つく姿を見たくないフィリアは、エルトの性別についてはこれ以上、考えないことに決めた。
平民の子にしては整いすぎた身なりからして、子どもたちが、周囲の大人から酷い扱いを受けているとは思えない。
まあ、子どもたちの様子をみていると、少しばかり、保護者に常識がないような気はする。
でも、子どもたちは大切に保護され、成長の方向は少しばかりいびつだが、健やかに育っている。……ようには感じた。
あえて誰も口にしないのか、それとも気づいていないのか……。上手く誤魔化しているが、子どもたちの装備は、驚嘆するくらいの、高度な守護の護りが施されていた。
そのことからも、さぞかし可愛がられているのがわかる。
武器は、まあ、普通よりはちょっといいかな? という程度のものだ。
ただし、初心者が装備するには不釣り合いなものだ。防具に関しては、もう国宝級といってもおかしくないレベルだった。
超級冒険者の自分でも、これほどのモノは手に入れることはできない。
金銭の問題ではなく、そもそも、国宝級のモノになると、一般市場に出回るものではないのだ。
しかも、子どもサイズ……。
子どもたちが自分で購入できるはずもない。何者かが、子どもたちに与えたのは明白だ。
一体、どのような状況を想定して、このような過剰装備を、惜しげもなく子どもに与えたのだろうか。
呆れ返ると同時に、この装備を用意した酔狂な人物は、この子どもたちになにをさせたいのだろうか。と、心配になる。
好意的に解釈するのなら、大切に育てられている……のだろう。
(過保護というか、注がれている愛が重すぎるというか……)
多くの矛盾があり、謎がある。
普通の子どもの枠には収まりきらないこの子たちの環境は、自分の想像の域を越えたものなのだろう、とフィリアは自分を納得させる。
ふと、探られるような視線を感じ、フィリアは顔を上げた。
リオーネとナニが、じっと自分を見ていることに気がつく。
「どうしたの? 追加オーダーかな?」
話し相手のフロルがいなくなり、世話をやいていたエルトも眠ってしまい、ふと、ひとりで考える時間ができてしまう。
あえて目をそらしていた数々の違和感が、フィリアの心をざわつかせはじめた。
(どう考えても、おかしいよな……)
性別だけではない。
柔らかいエルトの髪を撫でながら考え込むが、フィリアの疑問に答えてくれる者はいない。
こういうとき、色々とアドバイスをしてくれる頼りになる人物は、ウキウキで妓楼へと向かっているだろう。
幼馴染みは……考えることに関しては戦力外だ。力仕事は役に立つが、頭脳労働はダメダメだ。
女性陣はもっての他だ。問題がさらにややこしくなるだけなので、最初から相談相手の候補にすら入っていない。
膝の上にいる小柄な少年は、安心しきったかのように、すやすやと眠っている。
深い眠りについているようで、酒場の喧騒はもちろん、ミラーノとエリーの大声も気にならないようだった。
消費した魔力量や、運動量などを考えると、三人の中で一番、食欲があってもおかしくはないのだが、他のふたりに比べて、エルトはあまり食べようとはしなかった。
もっと食べないと、『強さ』と釣り合わない。
この調子で成長期を迎えると、どうなるのか、少し心配になる。
比べる対象にも問題があるが、他のふたりの子どもたちと比べ、エルトは生命の輝きそのものが弱々しく、儚く感じる。
それだけではない。
この年齢でエルトの趣味……ではなく、彼の保護者の趣味だろう。いや、それとも、悪ふざけなのか。
とても似合っているのが余計にたちが悪いと思うのだが……。
エルトに少女と思わせる格好をさせ、さらには、年齢までも偽らせて、あえて冒険者にさせる意味と意図が、全くもってフィリアにはわからなかった。
他の『赤い鳥』のメンバーや受付嬢はエルトを女の子だと思っているようである。
エルト本人が自分の性別を主張しないということは、なにか事情があるのだろう。
幼い子どもが傷つく姿を見たくないフィリアは、エルトの性別についてはこれ以上、考えないことに決めた。
平民の子にしては整いすぎた身なりからして、子どもたちが、周囲の大人から酷い扱いを受けているとは思えない。
まあ、子どもたちの様子をみていると、少しばかり、保護者に常識がないような気はする。
でも、子どもたちは大切に保護され、成長の方向は少しばかりいびつだが、健やかに育っている。……ようには感じた。
あえて誰も口にしないのか、それとも気づいていないのか……。上手く誤魔化しているが、子どもたちの装備は、驚嘆するくらいの、高度な守護の護りが施されていた。
そのことからも、さぞかし可愛がられているのがわかる。
武器は、まあ、普通よりはちょっといいかな? という程度のものだ。
ただし、初心者が装備するには不釣り合いなものだ。防具に関しては、もう国宝級といってもおかしくないレベルだった。
超級冒険者の自分でも、これほどのモノは手に入れることはできない。
金銭の問題ではなく、そもそも、国宝級のモノになると、一般市場に出回るものではないのだ。
しかも、子どもサイズ……。
子どもたちが自分で購入できるはずもない。何者かが、子どもたちに与えたのは明白だ。
一体、どのような状況を想定して、このような過剰装備を、惜しげもなく子どもに与えたのだろうか。
呆れ返ると同時に、この装備を用意した酔狂な人物は、この子どもたちになにをさせたいのだろうか。と、心配になる。
好意的に解釈するのなら、大切に育てられている……のだろう。
(過保護というか、注がれている愛が重すぎるというか……)
多くの矛盾があり、謎がある。
普通の子どもの枠には収まりきらないこの子たちの環境は、自分の想像の域を越えたものなのだろう、とフィリアは自分を納得させる。
ふと、探られるような視線を感じ、フィリアは顔を上げた。
リオーネとナニが、じっと自分を見ていることに気がつく。
「どうしたの? 追加オーダーかな?」
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