上 下
137 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)

この件は他言無用だぞ

しおりを挟む
「で、合同討伐の件だが……」
「ギルド長、ちゃんと聞いていましたよ。キャンセルですよね? わかっています」

 フィリアが頷く。

「わかっているのなら問題ない。……ということで、フィリア以外のメンバーは、明日から一週間、超級冒険者用の研修を受けるように」

「えーっ」
「えーっ」
「えーっ」
「えーっ」

 メンバーの心の底から発せられた嫌そうなブーイングに、フィリアとルースが苦笑を浮かべる。

「研修って、カッタルイのよねぇ……」
「二十四時間、寝ても覚めてもスケジュールでびっしりだからな」

 面倒くさそうに呟くミラーノに、これまた面倒くさそうな表情でフロルが頷く。

「まあ、超級冒険者用の研修は、座学がほとんどだから、ちょっとキツイけど……。超級冒険者として活動するには必要な知識だから、あきらめて、がんばってね」

 嫌がるふたりに、フィリアは笑顔で激励の言葉を贈る。

「ちょっとじゃないわよ」
「他人事だと思って……」
「いや、ぼくも超級冒険者にランクアップしたとき、研修はちゃんと全部受けたから。みんなもがんばろうな」

 ぶうぶう文句を言う仲間たちを、フィリアはにこやかな笑顔を浮かべながらなだめる。
 うん、このやりとりは、貧乏くじに愛されているフィリアと、それに巻き込まれる愉快な仲間たちだ。いつもの『赤い鳥』だ。とルースは安堵する。

「いいか? さぼったり、受講態度が悪かったら、補講があるぞ。一週間で終わらせたかったら、真面目に受講するんだな」

 特例は一切認めん、とルースに断言され、メンバーはおとなしくなる。

 今後の展開に備えて、ルースは一日でも早く、超級冒険者で構成された冒険者パーティーを手駒として揃えておきたい、と考えたのだろう。
 『赤い鳥』メンバー全員が、超級冒険者として活動できる状態にする、というタスクは、ルースの中では優先度が高そうだ。と、フィリアは感じ取っていた。

 魔法剣士は心のなかで盛大なため息をついた。
 今後、今まで以上に、ルースにこき使われそうだ。

 心配そうに自分を見上げるエルトの視線に気づき、フィリアは「大丈夫だよ」と微笑んでみせる。

 振り返ってみると、今までが順調すぎたのだ。

 直接的な剣術指導はもちろんなのだが、ルースギルド長には、見えないところで色々と便宜をはかってもらっていた。
 その借りをまとめて返せと、ルースに迫られても不思議ではない。

 ルースにしてみれば「ようやく使えるようになった」と思っているだろう。

 ルースはフィリアたちに『駒』としての価値を認め『投資』したのだ。

 この子どもたちが『余計なこと』をしなければ、ルースの返済取り立て開始時期は、もう少し先だったかもしれないが。

 のんびりしたかった、と思うメンバーもいるだろうが、これはこれでよいのではないか、とフィリアは思った。

 ****

「わかっているかとは思うが、この件は他言無用だぞ」
「わかっています。メンバーには徹底させておきますから、ご安心ください」
「この場の話を忘れろとは言わん。むしろ、心に留めておいてほしい」

 ルースの含みのある言葉に、フィリアの表情が一瞬だけ強ばる。

 ほらみたことか、と、自分の予測が間違っていなかったことを、フィリアは苦々しく思った。

「……ギルド長は、ぼくたちに、この子たちのお目付け役をしろと、おっしゃりたいのですか?」

 仲間と子どもたちにもわかるように、ストレートに質問する。

 今まで険しかったルースの顔に笑みが浮かんだ。
 なぜか、緊迫した気配が、部屋の中に充満する。
 誰かの押し殺した悲鳴が聞こえた。

 優秀な生徒の反応に喜ぶ教師……と言うには、少しばかり笑みが邪悪すぎる。

 ギルド長は、怒りを抑えているときよりも、笑っているときの方が怖い。と、『赤い鳥』のメンバーは思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...