136 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)
全くもってよろしくない
しおりを挟む
「強欲な大人は、子どもだからとか、見た目、か弱い女の子だからとかいって、手加減なんかしてくれないわよ。欲にまみれた本気の大人を舐めちゃだめだからね」
ある意味、核心をついたダイレクトな警告に、子どもたちは黙り込む。
「まあ、各々、言いたいことはあるだろうが……。とりあえず、状況は把握した」
ギルド長が重い口を開く。
「…………」
「残念ながら非常に、非常に、とんでもなく不味い状況だ。全くもってよろしくない。『今のところは』冒険者ギルドが、帝国や魔術師ギルドにちびっ子たちを売ることはしないが、今日の騒ぎは、あちらさんにはばっちり伝わっただろう。できうる限りの対処はする……つもりではいる」
ルースは『今のところは』をめいっぱい強調する。
「まずは、『赤い鳥』に依頼していた明日からの合同討伐はキャンセルだ。フィリア、おい、聞いているか?」
目の前に座っているフィリアを、ルースは胡散臭げに睨みつける。
「一体、おまえは何をしているんだ?」
「ギルド長の話を聞いていますが?」
何を言われているのかわからない、とフィリアは首をかしげる。
ルースの向かいには、リオーネが座っていた。
リオーネの背後には、ミラーノとエリーがべったりとくっついている。
ぐいぐいと自分たちの胸を押し付けるようにして、リオーネをとりあっているともいえる。
女性ふたりにもみくちゃにされ、呼吸がままらないリオーネの顔色は悪い。
そして、リオーネの両隣にはフィリアとギルが座っており、それぞれの膝の上には、エルトとナニが座っている。
ナニを膝の上に載せているギルは、ガチガチに緊張しており、リオーネよりもさらに顔色が悪い。
対象的に、フィリアの表情はとても穏やかだった。
楽しそうに、エルトの頭を撫でたり、髪の毛を触ったり、抱きしめてみたりと……スキンシップがだんだん濃密なものになってきている。
エルトもエルトで、嫌がるどころか、子犬が甘えるかのように、べったりとフィリアに密着している。
そうされることを喜んでいる気配が伝わってくる。
(なんだ、この珍妙な展開は……)
ルースは頭を抱えた。
自分たちの状況をわかっているのか。
本当に反省しているのか。
子どもたちを怒りたいところではあるが、自分たちのことを正しく理解できていないから、このようなことになってしまったのである。
本人が悪い……のではなく、保護者の責任、落ち度であろう。
日を改めて仲間の『影』たちと大反省会をしなければならない、とルースは思う。
そして、ギンフウに苦言する人柱の選出も必要だ。
どうぜ、仲間内では幸運度が低い自分かフウエンがその役目を引き当てるのだ。
だが、今はそれよりも、もっと気になることがあった。
『赤い鳥』のメンバーの様子がおかしい。子どもたちに影響されたのか、らしくない。一番おかしいのは、フィリアなのだが、本人にはそれがわからないらしい。
「フィリアたちは、ちびっ子たちと面識があったのか?」
「いえ……。この子たちとは、今朝、初めて会いましたよ」
なぜ、今、ルースからこのようなことを質問されるのかわからない。
とでもいいたげに、フィリアは形の良い眉をひそめる。
そうしている間も、手はエルトの髪をいじりつづけている。
「いや、まあ。あまりにも、仲がよさそうだったからな……」
なぜ、このような会話をしているのか、ルースもよくわからない。
よくはわからないのだが、なぜか、とても大事なことに思える。
なのに、わからない。
わからないので、ルースは考えるのをやめた。
とりあえず、目の前の不可思議な光景を視界から締め出す。
見なければよいだけだ。
ある意味、核心をついたダイレクトな警告に、子どもたちは黙り込む。
「まあ、各々、言いたいことはあるだろうが……。とりあえず、状況は把握した」
ギルド長が重い口を開く。
「…………」
「残念ながら非常に、非常に、とんでもなく不味い状況だ。全くもってよろしくない。『今のところは』冒険者ギルドが、帝国や魔術師ギルドにちびっ子たちを売ることはしないが、今日の騒ぎは、あちらさんにはばっちり伝わっただろう。できうる限りの対処はする……つもりではいる」
ルースは『今のところは』をめいっぱい強調する。
「まずは、『赤い鳥』に依頼していた明日からの合同討伐はキャンセルだ。フィリア、おい、聞いているか?」
目の前に座っているフィリアを、ルースは胡散臭げに睨みつける。
「一体、おまえは何をしているんだ?」
「ギルド長の話を聞いていますが?」
何を言われているのかわからない、とフィリアは首をかしげる。
ルースの向かいには、リオーネが座っていた。
リオーネの背後には、ミラーノとエリーがべったりとくっついている。
ぐいぐいと自分たちの胸を押し付けるようにして、リオーネをとりあっているともいえる。
女性ふたりにもみくちゃにされ、呼吸がままらないリオーネの顔色は悪い。
そして、リオーネの両隣にはフィリアとギルが座っており、それぞれの膝の上には、エルトとナニが座っている。
ナニを膝の上に載せているギルは、ガチガチに緊張しており、リオーネよりもさらに顔色が悪い。
対象的に、フィリアの表情はとても穏やかだった。
楽しそうに、エルトの頭を撫でたり、髪の毛を触ったり、抱きしめてみたりと……スキンシップがだんだん濃密なものになってきている。
エルトもエルトで、嫌がるどころか、子犬が甘えるかのように、べったりとフィリアに密着している。
そうされることを喜んでいる気配が伝わってくる。
(なんだ、この珍妙な展開は……)
ルースは頭を抱えた。
自分たちの状況をわかっているのか。
本当に反省しているのか。
子どもたちを怒りたいところではあるが、自分たちのことを正しく理解できていないから、このようなことになってしまったのである。
本人が悪い……のではなく、保護者の責任、落ち度であろう。
日を改めて仲間の『影』たちと大反省会をしなければならない、とルースは思う。
そして、ギンフウに苦言する人柱の選出も必要だ。
どうぜ、仲間内では幸運度が低い自分かフウエンがその役目を引き当てるのだ。
だが、今はそれよりも、もっと気になることがあった。
『赤い鳥』のメンバーの様子がおかしい。子どもたちに影響されたのか、らしくない。一番おかしいのは、フィリアなのだが、本人にはそれがわからないらしい。
「フィリアたちは、ちびっ子たちと面識があったのか?」
「いえ……。この子たちとは、今朝、初めて会いましたよ」
なぜ、今、ルースからこのようなことを質問されるのかわからない。
とでもいいたげに、フィリアは形の良い眉をひそめる。
そうしている間も、手はエルトの髪をいじりつづけている。
「いや、まあ。あまりにも、仲がよさそうだったからな……」
なぜ、このような会話をしているのか、ルースもよくわからない。
よくはわからないのだが、なぜか、とても大事なことに思える。
なのに、わからない。
わからないので、ルースは考えるのをやめた。
とりあえず、目の前の不可思議な光景を視界から締め出す。
見なければよいだけだ。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~
羽月明香
ファンタジー
魔女は災いを呼ぶ。
魔女は澱みから生まれし魔物を操り、更なる混沌を招く。そうして、魔物等の王が生まれる。
魔物の王が現れし時、勇者は選ばれ、勇者は魔物の王を打ち倒す事で世界から混沌を浄化し、救世へと導く。
それがこの世界で繰り返されてきた摂理だった。
そして、またも魔物の王は生まれ、勇者は魔物の王へと挑む。
勇者を選びし聖女と聖女の侍従、剣の達人である剣聖、そして、一人の魔女を仲間に迎えて。
これは、勇者が魔物の王を倒すまでの苦難と波乱に満ちた物語・・・ではなく、魔物の王を倒した後、勇者にパーティから外された魔女の物語です。
※衝動発射の為、着地点未定。一応完結させるつもりはありますが、不定期気紛れ更新なうえ、展開に悩めば強制終了もありえます。ご了承下さい。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
おっさん鍛冶屋の異世界探検記
モッチー
ファンタジー
削除予定でしたがそのまま修正もせずに残してリターンズという事でまた少し書かせてもらってます。
2部まで見なかった事にしていただいても…
30超えてもファンタジーの世界に憧れるおっさんが、早速新作のオンラインに登録しようとしていたら事故にあってしまった。
そこで気づいたときにはゲーム世界の鍛冶屋さんに…
もともと好きだった物作りに打ち込もうとするおっさんの探検記です
ありきたりの英雄譚より裏方のようなお話を目指してます
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる