生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

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ちびっ子は冒険者編(3)

『あいつ』を『どうするか』

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 ことの重大さに気づいている『赤い鳥』のメンバーは、もともとここには存在していなかったと主張するかのように己の気配を消し、無言を貫いている。

 彼らの口から今日のことは、漏れることはないだろう。
 忘れろとルースが命じれば、きれいさっぱり忘れるように、徹底的に調教している。その点に関しては問題ない。

 子どもたちの説明のなかで『影』の名前がぽろりとでていたが、『赤い鳥』のメンバーには理解できないだろう。
 保護者の名前程度の認識しかないはずだ。

 もちろん、間違いがあってはならないので、あとでこっそり他言無用の念押しはするつもりだ。

(問題は、『あいつ』を『どうするか』だな……)

 ルースは鋭い視線を己の専属秘書へと向ける。 

 子どもたちの話を忠実に記録していたトレスは、困惑した顔で自分が書き上げた書類を眺めていた。ペンを持つ手が、がくがくと震えている。

 トレスの白磁のような肌からは一切の血の気がなくなり、唇は紫色に変色していた。さながら、幽鬼のような顔色になっている。
 己が窮地に立たされている自覚はあるようだ。
 ルースはトレスを注意深く観察し、今、彼がなにを考えているのかを推測する。

 このときのトレスは、ルースの推察どおり、自分の状況を正確に把握していた。
 知ってはならないことを知ってしまった。と内心では慌てふためいていた。

 ルースもこの件から逃げ出したいと思っていたが、ルース以上に、トレスは逃げ出したいと思っていた。

 トレスが作成したこの記録は、このままの状態で残すことはできないだろう。

 途中、途中で、国家機密レベルとなりそうな単語がポロポロとリオーネの口からこぼれでていた……。記録を読み返すのも恐ろしい。

 もっとよく考えてから、発言するようにと指導したくなるが、十歳の少年には、己の不利になりそうな情報だけを上手く隠して、真実っぽく報告するという芸当は無理だ。

 これは、あくまでも下書きだ。
 そう、下書きなのだ。
 公文書ではない。

 トレスは己に言い聞かせる。

 この後、ルースの手による朱書きが加わり、清書され、この下書きという名の記録は抹消されるだろう。

 ただ、問題なのは、下書きと一緒に、自分もあっさり抹消される可能性が……非常に高いということだ。

 さっき、ギルド長の視線を感じたが、あの目は、不穏分子をどうするか検討しているような目だった。
 被害妄想からくる勘違いではない。

 すでに、どういう方法でトレスを殺して、いかにして死体を隠すか具体的な検討段階に入っているかもしれない。
 震えが止まらなかった。

(まずい。これは……選択を間違ったら、間違いなく殺される。いつも以上に慎重にならなくては……)

 トレスはひっそりと深呼吸を繰り返す。
 とりあえず、自分が不穏分子でないことを、ギルド長に全力で、いや、全身全霊でアピールする必要があるだろう。
 額から汗が流れ落ちた。緊張で息が詰まり、背中はすでに嫌な汗でじっとりと濡れている。

 対応に頭を抱えているギルド長。
 気配を完全に消している『赤い鳥』のメンバー。
 抹殺される恐怖と戦っている専属秘書。

 彼らの心の葛藤を知らぬリオーネは、得意げに、薬草採取の次に行ったゴブリン討伐の話を始めたのであった。
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