124 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)
薬草を摘みにきたんだけど、その前に……
しおりを挟む
大樹の精霊が笑うと、光の粉の輝きが増し、視界が眩しくなる。
「ところで、小さな子らよ。この地には、何用で参った? ここには目的がない者は、入ることはできぬ場所だぞ?」
大樹の葉が欲しいのか? それとも樹液か? 泉の水を汲みにきたのか? と矢継ぎ早に質問される。
暇をもてあましていたのか、なかなかフレンドリーで親切な精霊である。
「薬草を摘みにきたんだけど、その前に……」
「ん?」
「ここで、お弁当を食べていいですか?」
「…………は?」
つくりものめいた精霊の顔が、一瞬、呆然となる。
固まってしまった精霊を前に、ナニとエルトが慌てる。
「ちょ、ちょっと……。リオにぃ、こんな綺麗な場所で、お弁当なんか食べちゃだめだよ」
「……いや、でも、そろそろお昼ごはんを食べないと、怒られるじゃないか! 子どもは、規則正しい生活をしないとダメなんだぞ! 大きくなれないんだぞ!」
「リオにぃ、だとしても、それは大変失礼な申し出。即刻、訂正を求める。謝罪が必要」
「え――。だって、こんなキレイで落ち着く場所なんて、めったにないぞ。そこでお弁当を食べたら、最高じゃん。きっと、楽しいし、素敵な思い出になるだろ?」
「そ、……そうかもしれないけど……」
リオーネの主張にナニとエルトは困惑の表情を浮かべる。
たしかに、こんな綺麗で不思議な場所で美味しいお弁当を食べたら、楽しいに違いない。と思うようになる。
「ふははははは」
突然、精霊が大きな声で笑い転げる。
大樹がざわざわと揺れ、光の粉が光の粒とかわり、空気中をサラサラと舞い始める。
澄んだ空間が、さらに透明度を増していく。
「いやぁ。愉快、愉快! そうだな。人の子は、腹が減ると、なにもできないのであったな。失念していた」
(いや、そうでもない人もいっぱいいるけどな……)
リオーネの脳裏に、リュウフウやボスをはじめとする、大人たちの顔が浮かぶ。
彼らはいとも簡単に睡眠を削ったり、食事を抜いたりする。
三食、しっかり食べろとうるさいのは、弁当を用意してくれたリョクランぐらいだ。
しかし、それをわざわざ初対面の精霊に説明する必要もないだろう。
「わかった。わかった。食べてもよいぞ。泉のあちら側に大きな岩があるのだが、そこなら、腰を掛けることもできる。弁当とやらを広げて食べる場所に最適だろう」
精霊が指差した先を追うと、たしかに、岩があった。
「ありがとうございます。メシだ、メシだ! エルトいくぞ!」
「あああ、うん」
リオーネに半ばひきずられるようにして、エルトが岩の方へ連れられていく。
「……大樹の精霊様の寛大なお心に感謝します」
深々と頭を下げるナニに、精霊はにっこりと微笑んでみせる。
「そこまでかしこまる必要はないぞ。キレイだと、稀有な子らに心から褒められれば、悪い気はしない。わたしは楽しいことが好きだ。人の子が食べるという弁当にも興味がある」
早く追いかけねば、あのふたりに弁当を食べられてしまうのではないか? と精霊に言われる。
ふたりに限ってそんなことはないのだが、精霊のお言葉に甘えて、ナニもエルトたちの後を追った。
「ところで、小さな子らよ。この地には、何用で参った? ここには目的がない者は、入ることはできぬ場所だぞ?」
大樹の葉が欲しいのか? それとも樹液か? 泉の水を汲みにきたのか? と矢継ぎ早に質問される。
暇をもてあましていたのか、なかなかフレンドリーで親切な精霊である。
「薬草を摘みにきたんだけど、その前に……」
「ん?」
「ここで、お弁当を食べていいですか?」
「…………は?」
つくりものめいた精霊の顔が、一瞬、呆然となる。
固まってしまった精霊を前に、ナニとエルトが慌てる。
「ちょ、ちょっと……。リオにぃ、こんな綺麗な場所で、お弁当なんか食べちゃだめだよ」
「……いや、でも、そろそろお昼ごはんを食べないと、怒られるじゃないか! 子どもは、規則正しい生活をしないとダメなんだぞ! 大きくなれないんだぞ!」
「リオにぃ、だとしても、それは大変失礼な申し出。即刻、訂正を求める。謝罪が必要」
「え――。だって、こんなキレイで落ち着く場所なんて、めったにないぞ。そこでお弁当を食べたら、最高じゃん。きっと、楽しいし、素敵な思い出になるだろ?」
「そ、……そうかもしれないけど……」
リオーネの主張にナニとエルトは困惑の表情を浮かべる。
たしかに、こんな綺麗で不思議な場所で美味しいお弁当を食べたら、楽しいに違いない。と思うようになる。
「ふははははは」
突然、精霊が大きな声で笑い転げる。
大樹がざわざわと揺れ、光の粉が光の粒とかわり、空気中をサラサラと舞い始める。
澄んだ空間が、さらに透明度を増していく。
「いやぁ。愉快、愉快! そうだな。人の子は、腹が減ると、なにもできないのであったな。失念していた」
(いや、そうでもない人もいっぱいいるけどな……)
リオーネの脳裏に、リュウフウやボスをはじめとする、大人たちの顔が浮かぶ。
彼らはいとも簡単に睡眠を削ったり、食事を抜いたりする。
三食、しっかり食べろとうるさいのは、弁当を用意してくれたリョクランぐらいだ。
しかし、それをわざわざ初対面の精霊に説明する必要もないだろう。
「わかった。わかった。食べてもよいぞ。泉のあちら側に大きな岩があるのだが、そこなら、腰を掛けることもできる。弁当とやらを広げて食べる場所に最適だろう」
精霊が指差した先を追うと、たしかに、岩があった。
「ありがとうございます。メシだ、メシだ! エルトいくぞ!」
「あああ、うん」
リオーネに半ばひきずられるようにして、エルトが岩の方へ連れられていく。
「……大樹の精霊様の寛大なお心に感謝します」
深々と頭を下げるナニに、精霊はにっこりと微笑んでみせる。
「そこまでかしこまる必要はないぞ。キレイだと、稀有な子らに心から褒められれば、悪い気はしない。わたしは楽しいことが好きだ。人の子が食べるという弁当にも興味がある」
早く追いかけねば、あのふたりに弁当を食べられてしまうのではないか? と精霊に言われる。
ふたりに限ってそんなことはないのだが、精霊のお言葉に甘えて、ナニもエルトたちの後を追った。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
おっさん鍛冶屋の異世界探検記
モッチー
ファンタジー
削除予定でしたがそのまま修正もせずに残してリターンズという事でまた少し書かせてもらってます。
2部まで見なかった事にしていただいても…
30超えてもファンタジーの世界に憧れるおっさんが、早速新作のオンラインに登録しようとしていたら事故にあってしまった。
そこで気づいたときにはゲーム世界の鍛冶屋さんに…
もともと好きだった物作りに打ち込もうとするおっさんの探検記です
ありきたりの英雄譚より裏方のようなお話を目指してます
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる