上 下
123 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)

で、ここはどこなんだ?

しおりを挟む
 冒険者登録を無事に終えた子どもたちは、まず、面倒くさい薬草摘みから片付けることにした。

 場所の選定は、エルトにお任せ。
 エルトが行ってみたいと思う場所に、ふたりは同行するつもりだった。

 そして、転移先にエルトが選んだ場所は、美しい泉が湧き出る薬草の群生地だった。

 泉の側には、輝きを放つ不思議な大樹が生えており、風がその葉を揺らすたびに、キラキラと光の粒子を散らしている。

「……で、ここはどこなんだ?」

 リオーネの質問に、エルトは「知らない」と答えた。「帝都付近で薬草がいっぱい生えていそうなところに転移したの」と説明を加える。

「わからないなら、仕方がないな。嫌な感じはしないし……ま、いいか」

 ギルド長がこの場にいたら「もっと気にしろ!」と激怒しただろうが、リオーネはあまり細かいことにはこだわらない。

 ナニとエルトに危害が及ばなければ、たいがいのことは無条件で許してしまう。
 というか、深くは考えない。

 リオーネは周囲に注意を払いながら、光り輝く木の方へと近づいていく。
 彼の後をナニとエルトが追うような形で、とことことついていく。

「それにしても、すっごくキレイな木だよな。こんなキレイな木、初めてみた」
「同意」
「リオにぃ、ナニねー。ここ……精霊の気配がいっぱいするよ」
「あー言われてみれば、そんな感じもするよな。空気が違うな」

 子どもたちはキョロキョロと珍しそうに周囲を観察する。

「ようこそ。小さな客人たち」
「…………!」

 不意に光り輝く大樹から涼やかな声が聞こえ、樹下に人が出現する。
 それは人の形をしてはいるが、人ではない気配をまとっていた。

 切れ長の目、高い鼻梁、形のよい唇、ひとつひとつが作り物のように完璧で、とても整った美貌の持ち主である。

 艷やかな長い髪は白く輝き、ほっそりとした体躯はとても儚げで、男性なのか女性なのかよくわからない。

 装飾の類は一切なく、一枚の長い布を、身体にまきつけるようにして、身につけているだけだった。
 うっすらと、身体が透けてみえる。

「おおおっ!」

 よほど驚いたのか、リオーネが飛び上がって反応する。

 ナニとエルトはぽかんと口を開け、大樹の前に現れた、人のようなものを見つめた。

 リオーネの派手な反応に、人のようなものは、面白そうな笑い声をたてた。

「今回の客人は、ずいぶん、小さく、賑やかだな……。実に面白い。古からの盟約により、ハーフエルフの子とその兄弟の来訪を歓迎しよう」
「木の精霊?」

 ナニの質問に、人のようなものは「そのようなものだ」と頷く。

「失礼いたしました。寛大なこの地の守護者に感謝を」

 ナニはフードをとると、両手でローブの裾を軽く持ち上げる。片足を斜め後ろに引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、丁寧にあいさつをする。

「感謝を」
「……感謝を」

 エルトは懐からヘアピンをとりだして、長い前髪をかるくまとめた。
 そして、リオーネと同じように右足を後ろに引きながら、右手を胸にあて、左手を後ろに回し、ゆっくりと腰を折る。

「うむ。なかなか礼儀正しい子らだな。しかも、いきなり、わたしがいるところまで一気に【転移】した、肝の座った者たちは初めてだ」
「……ありがとうございます?」

 嫌味ではないだろうが、褒めてもらっていると受けとってもいいだろうか?
 リオーネの疑問形の返答に、大樹の精霊は楽しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...