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ちびっ子は冒険者編(3)
地形は、変わっていないか?
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「……トレス、合同討伐中止の通達を、各関係各所に」
「はい!」
「……あと、合同討伐に参加するはずだったパーティへの補填手続きを行うように指示を関係各所に……」
「はい! わかりました」
ルースの命令に、トレスが機敏に反応する。
ギルド長の専属秘書が、紙にさらさらと文字を書きあげると、紙が白い鳥になり、空中に舞い上がる。
白い鳥はそのまま応接室の壁を難なくすりぬけ、飛び立っていった。
【書類鳥】は一羽ではなく、次から次へと変幻し、羽ばたき始める。
「それから、至急、調査隊を現地に再派遣だ」
「はい」
また、複数の鳥が飛んでいった。
「それと同時に、短期のゴブリン残党狩りの依頼に切り替えろ。中級ランクが対象だ。報酬は少し多めに。枠も多めに。近隣のギルドにも声をかけ忘れるな。移動手段もギルドで用意しろ」
「はい」
さらに【書類鳥】が飛んでいく。
「ギルド長。残党はいない」
「……は?」
ナニが手を上げ、小さな声で発言する。
「ゴブリンを倒す前に、砦近辺を覆うように結界を張って、ネズミ一匹逃げ出せない状態にしておいた。一網打尽にした後、念の為、生存者がいないか確認したが、生命反応は一切なかった」
「……………………」
「リオにぃもエルトも調べたけど、あそこでは、なにも生きていない。ネズミ一匹、カエル一匹いなかった」
「………………………………」
応接室にしばしの静寂が訪れる。
「ち、ち、ち、地形……」
「地形?」
「地形は、変わっていないか?」
ギルド長の質問に、子どもたちは「よくわからない」という顔をして首を傾ける。
「………………………………」
「……あ、ゴブリンを倒した後、砦は残っていたかな?」
頭を抱えてしまったギルド長に変わり、フィリアが子どもたちに質問する。
「消えた」
「消滅を確認した」
「なくなった」
子どもたちが一斉に答える。
無邪気な子どもたちは、今の返事で大人たちの顔色が変わったことには気づいていない。
「……えっと、砦が消えた? 後、その場所はどんなかんじになったか、覚えているかな?」
フィリアの質問に、子どもたちはそれぞれ考え込む。
「大穴ができたよな?」
「地面の陥没を確認した」
「きれいになった……」
「そ、それは……うん。もしかしたら、地形が変わっちゃった……っていうことかな?」
フィリアは控えめに言うが、おそらく、激変しているだろう。
「トレス……帝国にも連絡だ。地理院に地形変更の届け出と、調査依頼を……」
再び、ひときわ大きな鳥が飛んだ。壁に吸い込まれて消えていく【書類鳥】を呆然と見送りながら、ルースは嘆息した。
一体、どれだけ、連絡すればよいのか……頭が痛い。
「これは……どう転んでも、見逃すことはできない案件だ」
鬼として知れ渡っているギルド長は、子どもたちに視線を定め、淡々と事実だけを述べる。
大人が言っているコトが難しくて理解できないようなら、フィリアがオコチャマ言語に翻訳してくれることがわかった。
ならば、このまま遠慮することなく、ガンガン攻めていくだけだ。
「今朝、冒険者登録が終わってから、どんなことをしたのか、詳しく聞かせてもらおうか?」
ルースの顔に凄みが増した。
子どもたちがぷるぷると震えだしたが、あえて視界に入れないようにする。
フィリアの「そろそろ許してあげて下さい」という視線も痛いが、ちびっ子たちのためにも、ここで手を緩めることはできない。
事情聴取は始まったばかりである。
いや、ようやく事情聴取が始まったのだ。
「はい!」
「……あと、合同討伐に参加するはずだったパーティへの補填手続きを行うように指示を関係各所に……」
「はい! わかりました」
ルースの命令に、トレスが機敏に反応する。
ギルド長の専属秘書が、紙にさらさらと文字を書きあげると、紙が白い鳥になり、空中に舞い上がる。
白い鳥はそのまま応接室の壁を難なくすりぬけ、飛び立っていった。
【書類鳥】は一羽ではなく、次から次へと変幻し、羽ばたき始める。
「それから、至急、調査隊を現地に再派遣だ」
「はい」
また、複数の鳥が飛んでいった。
「それと同時に、短期のゴブリン残党狩りの依頼に切り替えろ。中級ランクが対象だ。報酬は少し多めに。枠も多めに。近隣のギルドにも声をかけ忘れるな。移動手段もギルドで用意しろ」
「はい」
さらに【書類鳥】が飛んでいく。
「ギルド長。残党はいない」
「……は?」
ナニが手を上げ、小さな声で発言する。
「ゴブリンを倒す前に、砦近辺を覆うように結界を張って、ネズミ一匹逃げ出せない状態にしておいた。一網打尽にした後、念の為、生存者がいないか確認したが、生命反応は一切なかった」
「……………………」
「リオにぃもエルトも調べたけど、あそこでは、なにも生きていない。ネズミ一匹、カエル一匹いなかった」
「………………………………」
応接室にしばしの静寂が訪れる。
「ち、ち、ち、地形……」
「地形?」
「地形は、変わっていないか?」
ギルド長の質問に、子どもたちは「よくわからない」という顔をして首を傾ける。
「………………………………」
「……あ、ゴブリンを倒した後、砦は残っていたかな?」
頭を抱えてしまったギルド長に変わり、フィリアが子どもたちに質問する。
「消えた」
「消滅を確認した」
「なくなった」
子どもたちが一斉に答える。
無邪気な子どもたちは、今の返事で大人たちの顔色が変わったことには気づいていない。
「……えっと、砦が消えた? 後、その場所はどんなかんじになったか、覚えているかな?」
フィリアの質問に、子どもたちはそれぞれ考え込む。
「大穴ができたよな?」
「地面の陥没を確認した」
「きれいになった……」
「そ、それは……うん。もしかしたら、地形が変わっちゃった……っていうことかな?」
フィリアは控えめに言うが、おそらく、激変しているだろう。
「トレス……帝国にも連絡だ。地理院に地形変更の届け出と、調査依頼を……」
再び、ひときわ大きな鳥が飛んだ。壁に吸い込まれて消えていく【書類鳥】を呆然と見送りながら、ルースは嘆息した。
一体、どれだけ、連絡すればよいのか……頭が痛い。
「これは……どう転んでも、見逃すことはできない案件だ」
鬼として知れ渡っているギルド長は、子どもたちに視線を定め、淡々と事実だけを述べる。
大人が言っているコトが難しくて理解できないようなら、フィリアがオコチャマ言語に翻訳してくれることがわかった。
ならば、このまま遠慮することなく、ガンガン攻めていくだけだ。
「今朝、冒険者登録が終わってから、どんなことをしたのか、詳しく聞かせてもらおうか?」
ルースの顔に凄みが増した。
子どもたちがぷるぷると震えだしたが、あえて視界に入れないようにする。
フィリアの「そろそろ許してあげて下さい」という視線も痛いが、ちびっ子たちのためにも、ここで手を緩めることはできない。
事情聴取は始まったばかりである。
いや、ようやく事情聴取が始まったのだ。
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