119 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)
この場所って……
しおりを挟む
フィリアとギルが呆然とした表情で、互いの顔を見合わせる。
この地図の場所に心当たりがあった。昨日、話題にあがった場所だ。
ふたりの様子がおかしいのに気づいた立ち見のメンバーたちも身を乗り出し、地図を睨みつける。
「……ちょっと。ここって、明日からはじまる合同討伐の目的地なんじゃない?」
ミラーノの指摘に、『赤い鳥』のメンバーは、そうだ、そうだ、と大きく頷いていた。
エルトが指差した場所だが、地図にはなにも記載されていない。
周辺一帯は森を示す木の絵図が描かれているが、実際には小さな砦があった。
砦といっても、かなり昔に放棄されて、無人砦となっている。
地図にも載らない、名前も忘れられた小さな砦だが、そこは明日からはじまる合同討伐の目的地になっている。
合同討伐とは、選抜された複数のパーティがチームとして連携し、共闘して行われる大規模討伐のことである。
ひとつのパーティだけでは対処できないとギルドが判断した場合、合同討伐が行われるのだ。
予算であったり、討伐対象の規模にあわせてメンバーを選定して依頼を行い、段取りを整えるのはギルドの担当である。ほとんどが緊急を要する案件だ。
「たしか、この場所って……ゴブリンの大群が住み着いている……っていう場所だったよな……?」
言わなくてもいいフロルの独り言に『赤い鳥』のメンバーが凍りつく。
寝る間を惜しんで合同討伐の準備を急ぎ進めていたギルド職員や、責任者であるギルド長の手間と努力。
さらに、合同討伐が中止になったことに対する、ギルド職員やギルド長のたちの事後処理の大変さを想像すると、どういう反応をしてよいのか……。
ベテラン冒険者たちは途方に暮れてしまった。
トレスでさえ、ペンを動かす手が止まり、硬直してしまっている。
これが大人相手なら、ギルド長も怒りを遠慮なくぶつけられただろう。
死の半歩手前までボコボコに殴り倒していたはずだ。
ところが、相手は十歳なのかも疑わしい小さな子どもたちである。
『赤い鳥』のメンバーたちの間に微妙な沈黙が訪れ、長椅子に腰かけているギルド長の様子をこわごわ観察する。
ギルド長は彫像のように固まってしまっい、ぴくりとも動かない。だが、内心は嵐のように荒れまくっていた。
ギルド長の心の葛藤が容易に想像できるだけに、『赤い鳥』のメンバーたちはただ、ひたすらこの居心地の悪い時間が終わるのを祈ることしかできない。
(まさか、こんな展開になるなんて……)
膝の上に座っているエルトのぬくもりを感じながら、フィリアはため息をつく。
先程から、この手詰まり感満載の状況をなんとかしろ、という仲間たちの催促するような圧を感じていたが、フィリアにはもうどうしようもできなかった。
ルースギルド長が気力を回復し、気持ちを切り替えるのをおとなしく待つしかないだろう。
じっと耐え忍んで待つ間、明日から始まる予定だった合同討伐についてフィリアは思い起こす。
問題となっている砦だが、「なぜ、このような場所に砦が?」と、誰もが疑問に思うくらいの存在価値のない砦だった。
この砦にどのような目的があって、いつ、誰の命令で建造されたのか、この地を治める領主ですら、把握していなかったという。
ある意味、不可解で謎な砦は、かなり昔に廃棄され、そのままずっと放置されていた。
人の往来もなく、地元の人々からも忘れ去られ、このまま廃れるのを待つばかりだったのだが、そこにゴブリンの大量の群れが、砦に住み着いてしまったようだ。
ゴブリンが住み着いた時期は、残念ながら不明である。
人の生活圏からは、かなりの距離があった。そのため、お互いに不干渉の状況が長らく続き、ゴブリンの大集落に気づくのが遅れたという具合だ。
砦の住心地がよほどよかったのか、現時点では、王国規模の群れにまで成長しているらしい。
道に迷った間抜けなベテラン冒険者が砦を偶然発見しなければ、ゴブリンたちはもっと大きな群れになっていただろう。
調査の結果、地方のギルドレベルでは対処できない規模と判断され、帝都ギルド本部に討伐依頼がまわってきたのだ。
この地図の場所に心当たりがあった。昨日、話題にあがった場所だ。
ふたりの様子がおかしいのに気づいた立ち見のメンバーたちも身を乗り出し、地図を睨みつける。
「……ちょっと。ここって、明日からはじまる合同討伐の目的地なんじゃない?」
ミラーノの指摘に、『赤い鳥』のメンバーは、そうだ、そうだ、と大きく頷いていた。
エルトが指差した場所だが、地図にはなにも記載されていない。
周辺一帯は森を示す木の絵図が描かれているが、実際には小さな砦があった。
砦といっても、かなり昔に放棄されて、無人砦となっている。
地図にも載らない、名前も忘れられた小さな砦だが、そこは明日からはじまる合同討伐の目的地になっている。
合同討伐とは、選抜された複数のパーティがチームとして連携し、共闘して行われる大規模討伐のことである。
ひとつのパーティだけでは対処できないとギルドが判断した場合、合同討伐が行われるのだ。
予算であったり、討伐対象の規模にあわせてメンバーを選定して依頼を行い、段取りを整えるのはギルドの担当である。ほとんどが緊急を要する案件だ。
「たしか、この場所って……ゴブリンの大群が住み着いている……っていう場所だったよな……?」
言わなくてもいいフロルの独り言に『赤い鳥』のメンバーが凍りつく。
寝る間を惜しんで合同討伐の準備を急ぎ進めていたギルド職員や、責任者であるギルド長の手間と努力。
さらに、合同討伐が中止になったことに対する、ギルド職員やギルド長のたちの事後処理の大変さを想像すると、どういう反応をしてよいのか……。
ベテラン冒険者たちは途方に暮れてしまった。
トレスでさえ、ペンを動かす手が止まり、硬直してしまっている。
これが大人相手なら、ギルド長も怒りを遠慮なくぶつけられただろう。
死の半歩手前までボコボコに殴り倒していたはずだ。
ところが、相手は十歳なのかも疑わしい小さな子どもたちである。
『赤い鳥』のメンバーたちの間に微妙な沈黙が訪れ、長椅子に腰かけているギルド長の様子をこわごわ観察する。
ギルド長は彫像のように固まってしまっい、ぴくりとも動かない。だが、内心は嵐のように荒れまくっていた。
ギルド長の心の葛藤が容易に想像できるだけに、『赤い鳥』のメンバーたちはただ、ひたすらこの居心地の悪い時間が終わるのを祈ることしかできない。
(まさか、こんな展開になるなんて……)
膝の上に座っているエルトのぬくもりを感じながら、フィリアはため息をつく。
先程から、この手詰まり感満載の状況をなんとかしろ、という仲間たちの催促するような圧を感じていたが、フィリアにはもうどうしようもできなかった。
ルースギルド長が気力を回復し、気持ちを切り替えるのをおとなしく待つしかないだろう。
じっと耐え忍んで待つ間、明日から始まる予定だった合同討伐についてフィリアは思い起こす。
問題となっている砦だが、「なぜ、このような場所に砦が?」と、誰もが疑問に思うくらいの存在価値のない砦だった。
この砦にどのような目的があって、いつ、誰の命令で建造されたのか、この地を治める領主ですら、把握していなかったという。
ある意味、不可解で謎な砦は、かなり昔に廃棄され、そのままずっと放置されていた。
人の往来もなく、地元の人々からも忘れ去られ、このまま廃れるのを待つばかりだったのだが、そこにゴブリンの大量の群れが、砦に住み着いてしまったようだ。
ゴブリンが住み着いた時期は、残念ながら不明である。
人の生活圏からは、かなりの距離があった。そのため、お互いに不干渉の状況が長らく続き、ゴブリンの大集落に気づくのが遅れたという具合だ。
砦の住心地がよほどよかったのか、現時点では、王国規模の群れにまで成長しているらしい。
道に迷った間抜けなベテラン冒険者が砦を偶然発見しなければ、ゴブリンたちはもっと大きな群れになっていただろう。
調査の結果、地方のギルドレベルでは対処できない規模と判断され、帝都ギルド本部に討伐依頼がまわってきたのだ。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?


王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる