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ちびっ子は冒険者編(3)
この場所って……
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フィリアとギルが呆然とした表情で、互いの顔を見合わせる。
この地図の場所に心当たりがあった。昨日、話題にあがった場所だ。
ふたりの様子がおかしいのに気づいた立ち見のメンバーたちも身を乗り出し、地図を睨みつける。
「……ちょっと。ここって、明日からはじまる合同討伐の目的地なんじゃない?」
ミラーノの指摘に、『赤い鳥』のメンバーは、そうだ、そうだ、と大きく頷いていた。
エルトが指差した場所だが、地図にはなにも記載されていない。
周辺一帯は森を示す木の絵図が描かれているが、実際には小さな砦があった。
砦といっても、かなり昔に放棄されて、無人砦となっている。
地図にも載らない、名前も忘れられた小さな砦だが、そこは明日からはじまる合同討伐の目的地になっている。
合同討伐とは、選抜された複数のパーティがチームとして連携し、共闘して行われる大規模討伐のことである。
ひとつのパーティだけでは対処できないとギルドが判断した場合、合同討伐が行われるのだ。
予算であったり、討伐対象の規模にあわせてメンバーを選定して依頼を行い、段取りを整えるのはギルドの担当である。ほとんどが緊急を要する案件だ。
「たしか、この場所って……ゴブリンの大群が住み着いている……っていう場所だったよな……?」
言わなくてもいいフロルの独り言に『赤い鳥』のメンバーが凍りつく。
寝る間を惜しんで合同討伐の準備を急ぎ進めていたギルド職員や、責任者であるギルド長の手間と努力。
さらに、合同討伐が中止になったことに対する、ギルド職員やギルド長のたちの事後処理の大変さを想像すると、どういう反応をしてよいのか……。
ベテラン冒険者たちは途方に暮れてしまった。
トレスでさえ、ペンを動かす手が止まり、硬直してしまっている。
これが大人相手なら、ギルド長も怒りを遠慮なくぶつけられただろう。
死の半歩手前までボコボコに殴り倒していたはずだ。
ところが、相手は十歳なのかも疑わしい小さな子どもたちである。
『赤い鳥』のメンバーたちの間に微妙な沈黙が訪れ、長椅子に腰かけているギルド長の様子をこわごわ観察する。
ギルド長は彫像のように固まってしまっい、ぴくりとも動かない。だが、内心は嵐のように荒れまくっていた。
ギルド長の心の葛藤が容易に想像できるだけに、『赤い鳥』のメンバーたちはただ、ひたすらこの居心地の悪い時間が終わるのを祈ることしかできない。
(まさか、こんな展開になるなんて……)
膝の上に座っているエルトのぬくもりを感じながら、フィリアはため息をつく。
先程から、この手詰まり感満載の状況をなんとかしろ、という仲間たちの催促するような圧を感じていたが、フィリアにはもうどうしようもできなかった。
ルースギルド長が気力を回復し、気持ちを切り替えるのをおとなしく待つしかないだろう。
じっと耐え忍んで待つ間、明日から始まる予定だった合同討伐についてフィリアは思い起こす。
問題となっている砦だが、「なぜ、このような場所に砦が?」と、誰もが疑問に思うくらいの存在価値のない砦だった。
この砦にどのような目的があって、いつ、誰の命令で建造されたのか、この地を治める領主ですら、把握していなかったという。
ある意味、不可解で謎な砦は、かなり昔に廃棄され、そのままずっと放置されていた。
人の往来もなく、地元の人々からも忘れ去られ、このまま廃れるのを待つばかりだったのだが、そこにゴブリンの大量の群れが、砦に住み着いてしまったようだ。
ゴブリンが住み着いた時期は、残念ながら不明である。
人の生活圏からは、かなりの距離があった。そのため、お互いに不干渉の状況が長らく続き、ゴブリンの大集落に気づくのが遅れたという具合だ。
砦の住心地がよほどよかったのか、現時点では、王国規模の群れにまで成長しているらしい。
道に迷った間抜けなベテラン冒険者が砦を偶然発見しなければ、ゴブリンたちはもっと大きな群れになっていただろう。
調査の結果、地方のギルドレベルでは対処できない規模と判断され、帝都ギルド本部に討伐依頼がまわってきたのだ。
この地図の場所に心当たりがあった。昨日、話題にあがった場所だ。
ふたりの様子がおかしいのに気づいた立ち見のメンバーたちも身を乗り出し、地図を睨みつける。
「……ちょっと。ここって、明日からはじまる合同討伐の目的地なんじゃない?」
ミラーノの指摘に、『赤い鳥』のメンバーは、そうだ、そうだ、と大きく頷いていた。
エルトが指差した場所だが、地図にはなにも記載されていない。
周辺一帯は森を示す木の絵図が描かれているが、実際には小さな砦があった。
砦といっても、かなり昔に放棄されて、無人砦となっている。
地図にも載らない、名前も忘れられた小さな砦だが、そこは明日からはじまる合同討伐の目的地になっている。
合同討伐とは、選抜された複数のパーティがチームとして連携し、共闘して行われる大規模討伐のことである。
ひとつのパーティだけでは対処できないとギルドが判断した場合、合同討伐が行われるのだ。
予算であったり、討伐対象の規模にあわせてメンバーを選定して依頼を行い、段取りを整えるのはギルドの担当である。ほとんどが緊急を要する案件だ。
「たしか、この場所って……ゴブリンの大群が住み着いている……っていう場所だったよな……?」
言わなくてもいいフロルの独り言に『赤い鳥』のメンバーが凍りつく。
寝る間を惜しんで合同討伐の準備を急ぎ進めていたギルド職員や、責任者であるギルド長の手間と努力。
さらに、合同討伐が中止になったことに対する、ギルド職員やギルド長のたちの事後処理の大変さを想像すると、どういう反応をしてよいのか……。
ベテラン冒険者たちは途方に暮れてしまった。
トレスでさえ、ペンを動かす手が止まり、硬直してしまっている。
これが大人相手なら、ギルド長も怒りを遠慮なくぶつけられただろう。
死の半歩手前までボコボコに殴り倒していたはずだ。
ところが、相手は十歳なのかも疑わしい小さな子どもたちである。
『赤い鳥』のメンバーたちの間に微妙な沈黙が訪れ、長椅子に腰かけているギルド長の様子をこわごわ観察する。
ギルド長は彫像のように固まってしまっい、ぴくりとも動かない。だが、内心は嵐のように荒れまくっていた。
ギルド長の心の葛藤が容易に想像できるだけに、『赤い鳥』のメンバーたちはただ、ひたすらこの居心地の悪い時間が終わるのを祈ることしかできない。
(まさか、こんな展開になるなんて……)
膝の上に座っているエルトのぬくもりを感じながら、フィリアはため息をつく。
先程から、この手詰まり感満載の状況をなんとかしろ、という仲間たちの催促するような圧を感じていたが、フィリアにはもうどうしようもできなかった。
ルースギルド長が気力を回復し、気持ちを切り替えるのをおとなしく待つしかないだろう。
じっと耐え忍んで待つ間、明日から始まる予定だった合同討伐についてフィリアは思い起こす。
問題となっている砦だが、「なぜ、このような場所に砦が?」と、誰もが疑問に思うくらいの存在価値のない砦だった。
この砦にどのような目的があって、いつ、誰の命令で建造されたのか、この地を治める領主ですら、把握していなかったという。
ある意味、不可解で謎な砦は、かなり昔に廃棄され、そのままずっと放置されていた。
人の往来もなく、地元の人々からも忘れ去られ、このまま廃れるのを待つばかりだったのだが、そこにゴブリンの大量の群れが、砦に住み着いてしまったようだ。
ゴブリンが住み着いた時期は、残念ながら不明である。
人の生活圏からは、かなりの距離があった。そのため、お互いに不干渉の状況が長らく続き、ゴブリンの大集落に気づくのが遅れたという具合だ。
砦の住心地がよほどよかったのか、現時点では、王国規模の群れにまで成長しているらしい。
道に迷った間抜けなベテラン冒険者が砦を偶然発見しなければ、ゴブリンたちはもっと大きな群れになっていただろう。
調査の結果、地方のギルドレベルでは対処できない規模と判断され、帝都ギルド本部に討伐依頼がまわってきたのだ。
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