生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

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ちびっ子は冒険者編(3)

この耳は?

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 ギルド長を含め、大人たちの顔にはうんざりした表情が浮かんでいる。

「さて、問題です。この耳は?」

 ルースは箱の中から黒焦げの耳を摘まみ上げ、子どもたちの目の前に突き出した。

「レアに焼けた耳」
「モブなゴブリンの耳」
「雑魚の耳」

 今回も背の順……リオーネ、ナニ、エルトの順で答えていく。

「……ホブゴブリンの耳ですっ!」

 ギルド長の厳しい視線を感じ、エリーがぷるぷる震えながら、最後に答えを述べる。

「そうだな、ちょっと生焼けだけど、ホブゴブリンの耳だな。じゃ、こっちの耳は?」

 ルースは別の焦げた耳を取り出し、子どもたちに見せる。

「ミディアムな耳」
「ザコなゴブリンの耳」
「雑魚の耳」
「……ゴブリンシャーマンの耳です……」
「まあ、ちょっと、いい感じには焼けているけど、ゴブリンシャーマンの耳だな」

 ルースは耳を箱のなかに戻すと、次の、さらに大ぶりの耳を摘まみ上げた。

「この耳は?」
「ウェルダンな耳」
「ちょっと手ごわいゴブリンの耳」
「雑魚の耳」
「…………ゴブリンキングの耳です……」
「ああ……よく焼きあがったゴブリンキングの耳だよなぁ……」

(おいおい、ただのゴブリンもゴブリンキングも区別がつかないくらい、雑魚なのかよ……。もう一方は、魔物ともおもっちゃいない)

 はるか遠くを眺めながら、ルースが嘆息する。
 まあ、あのステータスなら、ゴブリンクラスは敵ではないだろう。藁人形を斬るくらい、あっさり簡単に討伐できる。

 確かに『影』たちにとってのゴブリンは、そういう認識でとおっている。

「くっ、ぷはっ……あ、スミマセン」

 このやりとりに耐え切れず噴き出したフロルが慌てて謝罪するが、肩を震わせ、懸命に笑いをこらえている。

 フロルを注意しようとルースが口をひらきかけたとき、「チチチッ」という鳥の鳴き声と共に、赤い鳥が壁の中をすりぬけ、トレスの執務机の上に降り立った。

 トレスがひとこと、ふたこと囁くと、鳥は光を放って消滅する。鳥がいた場所には書類の束が残されていた。

 素早く書類の束に目を通し、トレスがつかつかとルースの方へ歩み寄る。
 専属秘書の顔色が悪く見えるのは、光の加減ではないだろう。

「ギルド長、査定が終了した模様です」
「嘘だろ? ……ものすごく……早くないか?」
「信じられないくらいに早かったですね。おそらく、めったに見られないレアなものがあったので、彼らの職人魂に火がついたのかと……」

 トレスの言葉を聞き流しながら、ルースはパラパラと書類の束をめくり、一通り目を通す。

「……これ、報告案件だ。一刻を争う。急いで整理して清書しておいてくれ。あと、機密文書扱いでな」

 苦虫を咬みつぶしたような顔で書類を返しながら、胃痛に苦しむギルド長がトレスに指示をだす。

 トレスは「承知いたしました」と礼儀正しく頷く。
 急ぎ足で机に戻り、引き出しの中から新しい紙の束をとりだしてペンを走らせはじめた。

「とりあえず、ちびっ子たちの【鑑定】は、残念なくらいに壊滅的ということがよく理解できた。さらに、困ったことに、魔物石と耳の数が合わないと報告を受けた。耳の数があまりにも少なすぎる」

 ここでいったん言葉を区切ると、ルースは大きく息を吸い込んだ。

「ちびっ子たちは、どこで、それだけの数のゴブリンたちを、短時間で倒してきたんだ?」

 エルトを一直線に見すえる。

「ここ……です」

 少女の姿をした幼い子どもは、惑わしの森から少し離れた場所を指さす。
 指の先を追っていたルースの顔が思わずひきつる。無意識のうちにうめき声がでていたかもしれない。

 地図上では近隣にも思えるが、エルトが指し示した場所は、惑わしの森から徒歩で二日ほど離れた場所である。

 この移動にも、子どもたちは【転移】を惜しみなく使ったのだろう。

「ん? え? ここって……もしかして?」
「あれ? この場所って……あれじゃないか?」
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