117 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)
帝都内の薬草園で盗ってきてくれた方が
しおりを挟む
「ああ。普通の見習い冒険者で、仲間に運良くエルフかハーフエルフがいたとしてもだな……三週間はかかる。そんな時間がかかる採取依頼をだな、ちびっ子たちは、日帰りでやっちまったんだよな……」
ルースの視線がさらに遠くなった。
これを関係各所にどう説明したらよいのか途方にくれる。
もう、いっそのこと、各国の冒険者ギルドの代表を、夜のうちにこっそり殺してしまうのが一番簡単なような気がしてきた。
「すげ――な。前々から思ってたけど、エルトの転移魔法って、最強じゃん!」
「ちょっと、リオーネちゃん、喜んじゃだめ。それめちゃくちゃヤバいコトだから!」
無邪気にはしゃぐリオーネに、ミラーノが慌て口を挟んだ。
「そうなのか?」
「あのね、【転移】魔法ってね、座標さえちゃんと把握できたら、行ったことがない場所にでも、行けちゃう魔法なの!」
常識外れの展開に興奮しているのか、ミラーノの声が自然と大きくなっていく。
「でもね、消費魔力量が多かったりとか、熟練度とかでね、移動距離が限られてたり、結界があったら移動できなかったり……色々な制限がある魔法なの。でも、エルトちゃんは、ナニちゃんとセットなら『惑わしの森』の結界をすりぬけられるんでしょ! で、その日のうちに、行きと帰り、最低でも二回【転移】魔法が使える!」
エルトは軽く首を傾けている。
【転移】魔法が当たり前の存在すぎて、ミラーノの言いたいことが、伝わっていないようである。
自分の発言が子どもたちには響かなかったようで、ミラーノはこめかみを押さえながら嘆息した。
「エルトの【転移】魔法はもっとすごいよ。これから、もっと伸びると思う。ただ、他の移動系魔法と違って、【転移】を使える人はとても少ないんだ」
エルトの頭を優しく撫でながら、今度はフィリアが諭すように語る。
【転移】は、行き先の座標さえわかれば、初めての場所でも行くことができる。
移動系の魔法は様々あるが、目に見える範囲での移動に限られているとか、本人が行ったことがある場所限定であったり、移動先に移動元と同じ魔法陣を仕掛けていないと発動しないタイプなど、細かな制約が多い魔法であった。
「……そして、【転移】は色々な『悪いこと』に使えるよね」
フィリアの声が悲しみに沈む。
【転移】魔法はただの便利な移動手段ではなく、窃盗や暗殺といった闇の部分でこそ、真価を発揮すると考え、悪用する者もいるくらいである。
「ぼくもね……いまだにというか、ますますなんだけど、色々な職業の人から『お誘い』を受けて迷惑しているんだよ」
「…………」
「暴力で従わせようとする人や、拉致しようとした人もいた。まぁ【転移】で逃げたけどね……。帝国からは、定期的に仕官命令がきているけど、ギルド長に断ってもらっているんだ。便利な移動用魔道具扱いされるのは目に見えているからね。奴隷紋を埋め込んで、服従させようとした人もいたよ……」
奴隷という単語に、子どもたちの表情がさっと凍る。
「…………」
「大丈夫! エルトはおれが護るから! 絶対に護ってやるから!」
怯えるエルトの手を握りしめ、リオーネが宣言する。
「わたしもエルトを護る」
ナニも静かに言い放つ。
頼もしい仲間だね。とフィリアは思わず目を細めた。
「やってしまったことはしかたがない。これは、先輩からの忠告。今後は、【転移】の『扱い』は気をつけるんだよ。そして、それを利用しようとする奴よりも強くならないとだめだ。ま、エルトなら大丈夫だとは思うけど。ただね、帝国が本気になったら、なりふり構わずで相当ヤバいから、気をつけてね」
エルトが小さく頷いた。
「フィリアの言葉は、脅しじゃないぞ。本当のことだ。あんまりやりすぎると、ギルドではかばいきれなくなる」
苦味を含んだルースの言葉に、エルトがもう一度頷く。
「……どっちかっていうと、帝都内の薬草園で盗ってきてくれた方が、ありがたかったんだがな……」
最後にギルド長の本音がぽろりと漏れてしまったが、大人たちは聞かなかったことにしようと、こっそり目配せし合った。
「さて、薬草問題は片付いた」
そう、薬草問題は片付いた。
しかし、ゴブリン討伐がまだ残っていた。
ルースの視線がさらに遠くなった。
これを関係各所にどう説明したらよいのか途方にくれる。
もう、いっそのこと、各国の冒険者ギルドの代表を、夜のうちにこっそり殺してしまうのが一番簡単なような気がしてきた。
「すげ――な。前々から思ってたけど、エルトの転移魔法って、最強じゃん!」
「ちょっと、リオーネちゃん、喜んじゃだめ。それめちゃくちゃヤバいコトだから!」
無邪気にはしゃぐリオーネに、ミラーノが慌て口を挟んだ。
「そうなのか?」
「あのね、【転移】魔法ってね、座標さえちゃんと把握できたら、行ったことがない場所にでも、行けちゃう魔法なの!」
常識外れの展開に興奮しているのか、ミラーノの声が自然と大きくなっていく。
「でもね、消費魔力量が多かったりとか、熟練度とかでね、移動距離が限られてたり、結界があったら移動できなかったり……色々な制限がある魔法なの。でも、エルトちゃんは、ナニちゃんとセットなら『惑わしの森』の結界をすりぬけられるんでしょ! で、その日のうちに、行きと帰り、最低でも二回【転移】魔法が使える!」
エルトは軽く首を傾けている。
【転移】魔法が当たり前の存在すぎて、ミラーノの言いたいことが、伝わっていないようである。
自分の発言が子どもたちには響かなかったようで、ミラーノはこめかみを押さえながら嘆息した。
「エルトの【転移】魔法はもっとすごいよ。これから、もっと伸びると思う。ただ、他の移動系魔法と違って、【転移】を使える人はとても少ないんだ」
エルトの頭を優しく撫でながら、今度はフィリアが諭すように語る。
【転移】は、行き先の座標さえわかれば、初めての場所でも行くことができる。
移動系の魔法は様々あるが、目に見える範囲での移動に限られているとか、本人が行ったことがある場所限定であったり、移動先に移動元と同じ魔法陣を仕掛けていないと発動しないタイプなど、細かな制約が多い魔法であった。
「……そして、【転移】は色々な『悪いこと』に使えるよね」
フィリアの声が悲しみに沈む。
【転移】魔法はただの便利な移動手段ではなく、窃盗や暗殺といった闇の部分でこそ、真価を発揮すると考え、悪用する者もいるくらいである。
「ぼくもね……いまだにというか、ますますなんだけど、色々な職業の人から『お誘い』を受けて迷惑しているんだよ」
「…………」
「暴力で従わせようとする人や、拉致しようとした人もいた。まぁ【転移】で逃げたけどね……。帝国からは、定期的に仕官命令がきているけど、ギルド長に断ってもらっているんだ。便利な移動用魔道具扱いされるのは目に見えているからね。奴隷紋を埋め込んで、服従させようとした人もいたよ……」
奴隷という単語に、子どもたちの表情がさっと凍る。
「…………」
「大丈夫! エルトはおれが護るから! 絶対に護ってやるから!」
怯えるエルトの手を握りしめ、リオーネが宣言する。
「わたしもエルトを護る」
ナニも静かに言い放つ。
頼もしい仲間だね。とフィリアは思わず目を細めた。
「やってしまったことはしかたがない。これは、先輩からの忠告。今後は、【転移】の『扱い』は気をつけるんだよ。そして、それを利用しようとする奴よりも強くならないとだめだ。ま、エルトなら大丈夫だとは思うけど。ただね、帝国が本気になったら、なりふり構わずで相当ヤバいから、気をつけてね」
エルトが小さく頷いた。
「フィリアの言葉は、脅しじゃないぞ。本当のことだ。あんまりやりすぎると、ギルドではかばいきれなくなる」
苦味を含んだルースの言葉に、エルトがもう一度頷く。
「……どっちかっていうと、帝都内の薬草園で盗ってきてくれた方が、ありがたかったんだがな……」
最後にギルド長の本音がぽろりと漏れてしまったが、大人たちは聞かなかったことにしようと、こっそり目配せし合った。
「さて、薬草問題は片付いた」
そう、薬草問題は片付いた。
しかし、ゴブリン討伐がまだ残っていた。
1
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる