生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

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ちびっ子は冒険者編(3)

どこでこの『草』を採ったのかな?

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 ルースは我に返ると、再び口を開いた。

「ああ……。上位種だよなー。火傷直しの薬草も、回復薬も、五年前の『あの事件』以来、『帝都近辺』には、自生していないんだよなー」

 ルースの顔から笑顔が消えた。

 室内温度が、さらに五度は下がっただろう。
 『赤い鳥』のメンバーの口から「ひぃぃぃっ」という小さな悲鳴がもれる。
「……ちびっ子ども、帝都内にある帝国運営の薬草園で盗ってきたんじゃないだろうな?」

 ルースの口調がガラリと変わる。子どもたちは言葉を失い、必死に首を横に振る。

「じゃあ、どこで採ってきたか、正直に答えてくれるよな?」

 一番、幼くて素直なエルトへと視線を送る。
 エルトがぷるぷる震えながら、大きく何度も何度も頷いた。

「トレス……地図を用意しろ。帝都近辺のやつじゃない。帝都ギルドの管轄地域が網羅されてる広域地図の方だ」
「こちらです」

 トレスが影のように動き、応接机の上に広域地図をざざっと広げる。

「さっ。どこでこの『草』を採ったのかな?」

 ギルド長の口調は柔らかいが、「とっとと吐けやゴラっ!」と脅しているようにしか見えなかった。

「ここ……」

 エルトが地図の端の方を指で押さえる。
 部屋にいる全員の視線が、エルトの指先に集まった。トレスも少し離れた場所から、興味深げに地図を見ている。

「ああ……。確かに、ココは、危険エリアじゃないな。うん、危険エリアじゃないけどな……ココは……」

 足を組み直しながら、ルースはふっと遠い目をした。

 逃げたい。
 今すぐ、逃げだしたい。
 勘弁して欲しい……。
 ルースは心の中で己の不運に涙した。

 エルトが指し示した場所は、エレッツハイム城とは正反対の位置にあり、立ち入りを禁止となっている区域ではなかった。

「そこは『惑わしの森』ですよね。薬草の群生地で、未踏の地として有名です」

 トレスが黙ってしまったギルド長に代わり、淡々と場所の説明をする。
 そこで薬草を採取すれば、上位種など簡単に手に入れることができるだろう。

 下手をしたら、ここにあるサンプルを軽く超える貴重種を、この子どもたちは気づかずに採取しているかもしれない。
 査定受付場は大騒ぎになっているだろう。

 ルースの目の前が暗くなる。貧血……ではないだろう。精神的なものだ。

「え? でも、『惑わしの森』の中心地なんて、どうやっていくんですか? うちのフィリアですら、『惑わしの森』の結界にはじかれて、そこまで転移できないんですよ?」
「そうよね――。仮に、森の入口まで転移したとしても、森の中に入ろうとしたら、迷ってしまうわよね――。絶対、人間は辿り着けない場所よ。そもそも、森の中心部に行くまでにも、数日かかるっていうし……」

 ミラーノとエリーが疑問をトレスにぶつける。
 フロルが「よけいな口を挟むな」という顔をして睨みつけるが、ミラーノとエリーにしてみれば、ルースは怖いが、フロルは怖くない存在なので、あっさりと無視される。

 子どもたちは「え? そうなの?」といった顔で、大人たちの会話を聞いている。

「……フィリアさんよりも、そちらのエルトさんの方が、【転移】の練度レベルが高いのでしょう。あと、そちらの魔術師のお嬢さんは……ナニさんは、ハーフエルフですよ。よほど嫌われない限り、エルフ及びハーフエルフは、『惑わしの森』に無条件で入ることができます」

 トレスの断言に、今度はミラーノとエリーが驚く番であった。

「そういうことだ。『惑わしの森』についての抜け道は、上層部の間では有名な話だ。『赤い鳥』にエルフかハーフエルフのメンバーが加わったら『惑わしの森』での薬草採取が名指し依頼になるくらいの、最優先高ランク依頼だ」
「へ、へえ……そうなんですね」

 ミラーノとエリーの顔がひきつる。

 つまり、かなり難易度が高い採集を、この子どもたちは、色々と手続きをすっとばしてやってしまったということだ。
 十歳なのかどうかも怪しい見習い冒険者がやってのける依頼ではない。

「さらに加えるとだな、ここまで移動するのに、普通の冒険者だと、馬車を使って一週間ほどかけて行く距離だ」
「…………そうなの?」

 エルトがギルド長に確認する。
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