生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

文字の大きさ
上 下
115 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)

この『草』を【鑑定】してみようか

しおりを挟む
 室内に落ち着きが戻った頃を見計らって、ルースが重い口を開く。

「さて……。ちびっ子どもは【鑑定】はできるよな?」
「できる!」
「少々……」
「……ぅん」

 ルースがトレスへと視線を送る。
 ギルド長の専属秘書は席を立つと、査定受付所から持ち帰ってきた箱を応接用のテーブルの上に置き、蓋を開けた。

 登録用紙が入っていた書類箱によく似ているが、少しデザインと大きさが違う。素材を適切な状態で保存しておく箱だった。

 【鑑定】は、とても有名な魔法で、魔法ではなく、スキルだと主張する研究者もいる。生活魔法に分類され、それほど難しいものではない。

 特に必要な呪文もなく、魔力の流れを意識して、対象物をじっと見るだけだ。それで対象がなにかを【鑑定】できる。

 低レベルの【鑑定】であれば、魔力を持つ者なら誰でもできるといわれている。

 ルースは箱の中から、一本の薬草を取り出した。子どもたちが持ち帰ったものを、サンプル用として査定場から持ち出したものである。

「じゃぁ、この『草』を【鑑定】してみようか。背が高い順で答えろ」
「薬草」
「薬草」
「薬草」
 リオーネ、ナニ、エルトが順番に答える。
「エリーも【鑑定】しろ」
「はひぃ!?」

 今まで通りすがりの傍観者だと思っていた回復役のエリーが名指しされる。

 『赤い鳥』の中では、最も【鑑定】魔法のレベルが高いという報告を受けていたので、ルースは彼女の名を呼んだだけだ。
 だが、本人は突然の名指しにわけがわからなくて、めちゃくちゃ驚き慌てふためいている。

「エリー……同じことを何度もいわせるな」

 ルースの目に殺気が籠もる。

「はひいいぃ。か、回復草ですっ」

 緊張のあまり声が裏返っているが、誰も笑う者はいない。
 いや、笑える空気ではなかった。

「じゃ、こっちの『草』はどうかな?」

 ルースはにっこり笑って優しい声で子どもたちに問いかけるが、目が全く笑っていない。
 エリーはぷるぷる震えている。

「薬草?」
「良い薬草……」
「ちょっと高い薬草……」
「火傷治しの薬草ですっつ」
「うん、そうだ。薬草には違いないが、火傷直しの薬草だな。薬師たちは、パレト草って呼んでいる」

 ルースはこめかみをひくつかせながら、別の草を手に取る。

「じゃ、この草は、わかるかな?」
「や、薬草??」
「すごく良い薬草……」
「けっこう高い薬草……」
「か、回復薬の上位種になります」
「そう。エリウ草っていうんだ。回復薬の上位種なんだよなー」

 子どもたちのザルな答えに物申したいこともあったが、まあ、世間一般の【鑑定】など、この程度のものである。

 【鑑定】魔法が有名なのは、誰でも使えるけど、大して役に立たない魔法で、まともに使えるようになるには、かなりの時間と努力を必要とする……ことで有名な魔法だからだ。

 まあ、だからといって、リオーネの語尾に「?」がつくのはいただけない。とてつもなく、ひどい【鑑定】結果だ。リオーネの目は節穴か? と聞きたいところである。

 だが、ここで問題としたかったのは子どもたちの未熟な【鑑定】魔法ではない。
 人生経験が浅く、まだ多くのモノを知らない幼い子どもらの【鑑定】魔法など、たかがしれている。

 まあ、だとしても、目の前に座っている子どもたちの【鑑定】魔法は……同年の子どもたちに比べて劣っているのではないか、とルースは思った。

 子どもと接触する機会が少なかったルースが、そのような判断を下すのは早計かもしれないが、自分や兄弟たちの子どもの頃を思い出すと、そう判断してしまう。

 改めて、子どもたちの育った環境が歪な場所であったと反省する。

「ギルド長?」

 いきなり黙り込んでしまったギルド長に、フィリアがおずおずと声をかける。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...