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ちびっ子は冒険者編(3)
プランCで決定だな
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子どもたちの声を耳にしたフィリアとギルがひきつった顔で、視線を交わし合う。
響き的に、嫌な予感しかしない。
「プランC」
そこにエルトが、覆いかぶさるように言葉を重ねた。
「……いや、プランBだろ?」
「プランC」
「……プランBが適切」
「プランC」
コソコソと話し合っている子どもたちを、大人たちは緊張した面持ちで見守る。
「……わかった。エルトがそこまで言うのなら、プランCでいこう」
リオーネの同意に、ナニもしかたなく、頷いた。
「……じゃぁ、プランCで決定だな。エルト、ナニ。カウントダウンはじめるぞ」
(カウントダウン? ……え? なにがはじまるんだ!)
リオーネの決定にあわてふためくフィリアとギル。
フィリアは目の前のギルド長の様子を探るが、ルースはほぼ無表情で、子どもたちにじっと視線を注いでいるだけだった。
「サン……ニィ……イチ……」
「すみませんでしたっ」
「すみませんでした」
「……ませんでした……っ」
三人は、ソファーからぴょんと飛び降り、床の上に正座する。そして、平伏……平身低頭、つまり、土下座をした。
「ぐふっ……」
ギルが腹の辺りを押さえて、ソファーで悶絶しているが、誰にも気づいてもらえなかったようである。
「…………」
一糸乱れぬ美しい土下座を目の前にして、さすがのギルド長も言葉を失ってしまった。
ギル以外の『赤い鳥』のメンバーたちは、予想していなかった光景に、完全に凍りついてしまっている。
ルースはどういう表情をしてよいのかわからず、思わず両手で顔を隠し、俯いて時間をかせぐことにした。
だが、肩のあたりが微妙にふるふると震えているのが自分でもわかる。
「おい、ちびっ子、なにをやっているんだ?」
「誠心誠意の謝罪を表現する儀式」
ナニが答える。
「……なんで謝っているのか、わかってやってるんだろうな?」
両手で顔を隠したまま、ルースは続けて質問する。
「……ギルド長が怒っているから」
エルトが答える。
「ほう……。なぜ、わたしが怒っているのか、ちびっ子はわかるのか? ちゃんと理解しているか?」
「…………」
「…………」
「…………」
答えはなかった。
子どもたち三人は、きょとんとした顔で、それぞれ首を傾けている。
応接室が緊迫した空気に包まれる。
「ひゃぁぁぁぁ」
エリーの口から思わず小さな悲鳴が漏れるが、その口を慌ててフロルが手で塞ぐ。
ここはモブに徹する。
目立ってはいけない。
不用意なノイズを発してはいけない。
呼吸を殺し、気配を消して、背景と溶け込んでやり過ごすのが一番だと、フロルは判断したようである。
「あ、あのぅ。ギルド長、落ち着いてください。このコたちは、まだ子どもですので、なにとぞ、お手柔らかに……」
沈黙しているルースに、フィリアが恐る恐る声をかける。
この極寒の状況でも、なお発言できるフィリアの強靭な精神力に『赤い鳥』のメンバーは尊敬の眼差しで見つめた。
「ふぅ……。質問を変えてみようか。ちなみに、『プランB』ってなんだ?」
「エルトが目をウルウルさせながら『ゴメンナサイ』って言いながら、上目遣いでじっと見上げる。これ、殺傷力抜群。誰が相手でも、今まで失敗したことがない」
自信満々なナニに、リオーネが大きく頷いている。
(そんなこと……誰が教えたんだっ!)
唸り声がでそうになるのを必死に堪えながら、ルースは歯ぎしりする。
想像してみる。
エルトにそんな目で謝られたら……相手がギンフウであっても、ころっと許してしまいそうだ。
自分もあっさり陥落してしまうだろう。
危なかった……。
「……プランCの選択で間違ってはいなかったようだな」
眉間のあたりを押さえながら、ルースはひとりごちる。
調子が狂ってしかたがない。
(なにかが、根本的に間違っている……)
ルースはわざと大きなため息をつくと、子どもたちに土下座をやめ、席に戻るよう命じた。
響き的に、嫌な予感しかしない。
「プランC」
そこにエルトが、覆いかぶさるように言葉を重ねた。
「……いや、プランBだろ?」
「プランC」
「……プランBが適切」
「プランC」
コソコソと話し合っている子どもたちを、大人たちは緊張した面持ちで見守る。
「……わかった。エルトがそこまで言うのなら、プランCでいこう」
リオーネの同意に、ナニもしかたなく、頷いた。
「……じゃぁ、プランCで決定だな。エルト、ナニ。カウントダウンはじめるぞ」
(カウントダウン? ……え? なにがはじまるんだ!)
リオーネの決定にあわてふためくフィリアとギル。
フィリアは目の前のギルド長の様子を探るが、ルースはほぼ無表情で、子どもたちにじっと視線を注いでいるだけだった。
「サン……ニィ……イチ……」
「すみませんでしたっ」
「すみませんでした」
「……ませんでした……っ」
三人は、ソファーからぴょんと飛び降り、床の上に正座する。そして、平伏……平身低頭、つまり、土下座をした。
「ぐふっ……」
ギルが腹の辺りを押さえて、ソファーで悶絶しているが、誰にも気づいてもらえなかったようである。
「…………」
一糸乱れぬ美しい土下座を目の前にして、さすがのギルド長も言葉を失ってしまった。
ギル以外の『赤い鳥』のメンバーたちは、予想していなかった光景に、完全に凍りついてしまっている。
ルースはどういう表情をしてよいのかわからず、思わず両手で顔を隠し、俯いて時間をかせぐことにした。
だが、肩のあたりが微妙にふるふると震えているのが自分でもわかる。
「おい、ちびっ子、なにをやっているんだ?」
「誠心誠意の謝罪を表現する儀式」
ナニが答える。
「……なんで謝っているのか、わかってやってるんだろうな?」
両手で顔を隠したまま、ルースは続けて質問する。
「……ギルド長が怒っているから」
エルトが答える。
「ほう……。なぜ、わたしが怒っているのか、ちびっ子はわかるのか? ちゃんと理解しているか?」
「…………」
「…………」
「…………」
答えはなかった。
子どもたち三人は、きょとんとした顔で、それぞれ首を傾けている。
応接室が緊迫した空気に包まれる。
「ひゃぁぁぁぁ」
エリーの口から思わず小さな悲鳴が漏れるが、その口を慌ててフロルが手で塞ぐ。
ここはモブに徹する。
目立ってはいけない。
不用意なノイズを発してはいけない。
呼吸を殺し、気配を消して、背景と溶け込んでやり過ごすのが一番だと、フロルは判断したようである。
「あ、あのぅ。ギルド長、落ち着いてください。このコたちは、まだ子どもですので、なにとぞ、お手柔らかに……」
沈黙しているルースに、フィリアが恐る恐る声をかける。
この極寒の状況でも、なお発言できるフィリアの強靭な精神力に『赤い鳥』のメンバーは尊敬の眼差しで見つめた。
「ふぅ……。質問を変えてみようか。ちなみに、『プランB』ってなんだ?」
「エルトが目をウルウルさせながら『ゴメンナサイ』って言いながら、上目遣いでじっと見上げる。これ、殺傷力抜群。誰が相手でも、今まで失敗したことがない」
自信満々なナニに、リオーネが大きく頷いている。
(そんなこと……誰が教えたんだっ!)
唸り声がでそうになるのを必死に堪えながら、ルースは歯ぎしりする。
想像してみる。
エルトにそんな目で謝られたら……相手がギンフウであっても、ころっと許してしまいそうだ。
自分もあっさり陥落してしまうだろう。
危なかった……。
「……プランCの選択で間違ってはいなかったようだな」
眉間のあたりを押さえながら、ルースはひとりごちる。
調子が狂ってしかたがない。
(なにかが、根本的に間違っている……)
ルースはわざと大きなため息をつくと、子どもたちに土下座をやめ、席に戻るよう命じた。
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