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ちびっ子は冒険者編(3)
「プランB」って、なんだ!
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垂直移動装置が発動した瞬間も、ナニは激しく興奮した。が、なにしろ、一瞬で目的の五階に到着してしまい、すぐさま小部屋から追い出されたので、騒ぐ暇もない。
残念そうにしている少女はさらっと無視し、一同は目的の部屋へと入室する。
五階には用途に応じていくつかの応接室があるが、ギルド長の執務室をルースは選んだ。
ギルド長は全員が入室したことを確認すると、子どもたちの開放を許可する。
フロルの肩から降ろされたリオーネは、魔術師ミラーノの対ドラゴン用の捕縛から開放される。ミラーノとリオーネは、それぞれほっとしたような表情を浮かべた。
床の上に降り立ち、杖も無事に返してもらえたナニは、なにかに導かれるかのようにふらふらと部屋の隅にある棚の方へと歩いていった。
「素敵……。珍しい魔道具がいっぱい。さすが、冒険者ギルドのギルド長室」
棚の中にある魔道具を、ナニは夢中で眺めはじめる。
エルトも床の上に降ろされたのだが、こちらはフィリアの足にぴったりとくっついて、少しも離れようともしない。
ルースと視線が合うと、怯えたように震え上がり、フィリアの背後に慌てて隠れてしまった。
渋い表情のままルースは、応接セットのソファーにどかりと腰掛ける。長い足を邪魔そうに組み、向かいのソファーを指差した。
「まずは、座れ。赤髪が真ん中」
ルースの指示にしたがって、リオーネがソファの真ん中にちょこんと座る。
「赤髪の右隣に魔術師」
「…………」
ナニは動かない。
ルースの声が聞こえないのか、棚の魔道具を眺めつづけている。
「ギル」
「はい!」
「連れてこい」
「…………はい」
棚の前でなにやらひと悶着あったようだが、額のあたりを押さえながら、ギルがナニを小脇に抱えて戻ってくる。
ギルがナニを連れてくる間に、ソファには、リオーネの他に、エルトを膝に載せたフィリアが座っていた。
それを見たギルの表情が固まる。
あのふたりの場合は、エルトがフィリアから離れなかったから、こういう形になったのだろう。あるいは、フィリアがエルトを離そうとしなかったか……。
どちらにしろ、嫌な予感がした。
自分は、少しでもナニから離れたい。これ以上、無駄にこの辛口少女には触れたくないし、かかわりたくもなかった。
ギルド長がギルの目を見てくる。
「ギル、お前も座れ。逃げないように、しっかりと魔術師を捕獲しておくんだぞ」
「……ワカリマシタ」
ボスの命令には逆らえない。
ギルはしぶしぶリオーネの隣に座り、膝の上にナニを載せ、少女が逃げないように腕を前に組む。
杖の先端が鼻の頭に当たって鼻血がでたが、エリーの回復魔法が間髪をおかずに発動し、ギルの傷を癒やす。
対応が速いのは、こうなるとあらかじめ予測されていたのだろうか。納得できない。
ソファーに座れなかった立ち見連中が、笑いをこらえているのが気配でわかり、ギルは微妙な気分になる。
「あ、こいつらは客じゃないんだ。茶は必要ないぞ」
部屋を出ようとした秘書に、ルースは冷たく言い放つ。
ハーフエルフの専属秘書は軽く肩を竦めると、扉付近に設置されている簡素な予備の執務机に座り、筆記具の準備をはじめた。
「だいだい、落ち着いたな」
ルースの衝撃的な発言に『赤い鳥』の面々は「落ち着いてなんかいません!」と、心のなかだけでツッコミをいれる。
ルースはソファでくつろぎながら、だが、目だけは鋭く、子どもたちを睨みつけた。
「プランB」
ぽそりと、ナニが呟く。
「そ、そ、そうだ、ここはプランBしかないな」
リオーネがさらに小さな声で同意する。
(「プランB」って、なんだ! なにを考えてるんだ!)
残念そうにしている少女はさらっと無視し、一同は目的の部屋へと入室する。
五階には用途に応じていくつかの応接室があるが、ギルド長の執務室をルースは選んだ。
ギルド長は全員が入室したことを確認すると、子どもたちの開放を許可する。
フロルの肩から降ろされたリオーネは、魔術師ミラーノの対ドラゴン用の捕縛から開放される。ミラーノとリオーネは、それぞれほっとしたような表情を浮かべた。
床の上に降り立ち、杖も無事に返してもらえたナニは、なにかに導かれるかのようにふらふらと部屋の隅にある棚の方へと歩いていった。
「素敵……。珍しい魔道具がいっぱい。さすが、冒険者ギルドのギルド長室」
棚の中にある魔道具を、ナニは夢中で眺めはじめる。
エルトも床の上に降ろされたのだが、こちらはフィリアの足にぴったりとくっついて、少しも離れようともしない。
ルースと視線が合うと、怯えたように震え上がり、フィリアの背後に慌てて隠れてしまった。
渋い表情のままルースは、応接セットのソファーにどかりと腰掛ける。長い足を邪魔そうに組み、向かいのソファーを指差した。
「まずは、座れ。赤髪が真ん中」
ルースの指示にしたがって、リオーネがソファの真ん中にちょこんと座る。
「赤髪の右隣に魔術師」
「…………」
ナニは動かない。
ルースの声が聞こえないのか、棚の魔道具を眺めつづけている。
「ギル」
「はい!」
「連れてこい」
「…………はい」
棚の前でなにやらひと悶着あったようだが、額のあたりを押さえながら、ギルがナニを小脇に抱えて戻ってくる。
ギルがナニを連れてくる間に、ソファには、リオーネの他に、エルトを膝に載せたフィリアが座っていた。
それを見たギルの表情が固まる。
あのふたりの場合は、エルトがフィリアから離れなかったから、こういう形になったのだろう。あるいは、フィリアがエルトを離そうとしなかったか……。
どちらにしろ、嫌な予感がした。
自分は、少しでもナニから離れたい。これ以上、無駄にこの辛口少女には触れたくないし、かかわりたくもなかった。
ギルド長がギルの目を見てくる。
「ギル、お前も座れ。逃げないように、しっかりと魔術師を捕獲しておくんだぞ」
「……ワカリマシタ」
ボスの命令には逆らえない。
ギルはしぶしぶリオーネの隣に座り、膝の上にナニを載せ、少女が逃げないように腕を前に組む。
杖の先端が鼻の頭に当たって鼻血がでたが、エリーの回復魔法が間髪をおかずに発動し、ギルの傷を癒やす。
対応が速いのは、こうなるとあらかじめ予測されていたのだろうか。納得できない。
ソファーに座れなかった立ち見連中が、笑いをこらえているのが気配でわかり、ギルは微妙な気分になる。
「あ、こいつらは客じゃないんだ。茶は必要ないぞ」
部屋を出ようとした秘書に、ルースは冷たく言い放つ。
ハーフエルフの専属秘書は軽く肩を竦めると、扉付近に設置されている簡素な予備の執務机に座り、筆記具の準備をはじめた。
「だいだい、落ち着いたな」
ルースの衝撃的な発言に『赤い鳥』の面々は「落ち着いてなんかいません!」と、心のなかだけでツッコミをいれる。
ルースはソファでくつろぎながら、だが、目だけは鋭く、子どもたちを睨みつけた。
「プランB」
ぽそりと、ナニが呟く。
「そ、そ、そうだ、ここはプランBしかないな」
リオーネがさらに小さな声で同意する。
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