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ちびっ子は冒険者編(3)
もっと丁寧にあつかえ!
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床の上でもぞもぞしながら、わいわい叫んでいるリオーネを、フロルが「やれやれ」と面倒くさそうに呟きながら、肩にひょいと担ぎ上げる。
「二人目回収っと……」
「おい、放せ! 荷物じゃないんだ! もっと丁寧にあつかえ!」
リオーネは顔を真っ赤にさせ、全力でじたばたもがく。
さらに捕縛する魔力が強まったが、それ以上にリオーネは抵抗する。
「おい。暴れるな。落っことしちまうじゃないか」
「チクショー! 放せよ! 子ども相手にこんなに縛って、恥ずかしくないのかよっ!」
「……黙れガキ」
フロルが静かな声で、リオーネの耳元に囁く。殺気の籠もった目で一睨みする。
「…………」
「いいか。ボスが誰か理解できない奴は、ただのゴミだ。いや、クソだ。で、ボスの命令が聞けない奴は、お荷物なんだよ。そこんとこ、理解しろ」
冷え冷えとしたフロルの声に、リオーネの表情が固くなる。と、同時に、少年は抵抗することを諦め、おとなしくなった。
悔しいのか、リオーネの目にうっすらと涙がにじんでいるが、同じ男として、それは見なかったことにしてやる。
「うん。エライ、エライ」
フロルの表情がふっと和らぐ。
理解力の高いやつは嫌いじゃないぜ、とリオーネの背中あたりをポンポンと軽く叩きながら、フロルはギルド長の元へと歩いていった。
「逃がすなよ。油断したら逃げるぞ」
「わかっています」
「は、はいっ!」
「…………」
鬼と呼ばれるギルド長の言葉に、フロル、ミラーノ、ギルは大きく頷く。
簑虫状態の意気消沈したリオーネと、ロリコンに捕獲されて不満顔のナニを厳しい目で睨みつけた後、ルースはゆっくりと天井を仰ぎ見た。
「さて、残りのひとりは……」
上の様子を見たルースの表情が、さらに険しくなる。
闘技場ほどではなかったが、査定場も天井が高く、部屋もそこそこ広いつくりになっている。ドラゴンや巨人系モンスターの持ち込みを想定した設計だ。
その広い空間内を、ふたりはめまぐるしいスピードで飛び交っていた。
今朝、ステータスを閲覧したときから、大体の予測はついていたが、一番、やっかいなのが残ってしまった。
(さて、アレは……フィリアひとりに任せてよいものなのかな……)
様々な魔法を駆使し、宙を自在に飛び回るふたりを注意深く観察する。
ゴブリンとはいえ、あれだけの数のゴブリンを倒したのである。
朝に確認したときよりも、子どもたちのステータスは、確実に上がっているはずだ。
おそらく、魔法剣士のフィリアを越えた項目もあるだろう。
もう一度、ステータスの確認をしなければならないという悲劇的な状態に、ルースの機嫌がさらに悪くなる。
偽造登録用紙を封印するために、数時間前に使用した魔法の数々がルースの脳裏をよぎった。
(面倒なことになったな……)
ルースの指示に従って、フィリアは本気モードのようだが、いまひとつ真剣味が足りないような気配がする。
ちびっ子たちの行動や、ギンフウの手抜かりにも腹を立てているが、それ以上に、フィリアの中に『欲』という感情が異様に少ないことにルースは苛立っていた。
最初に出会った頃はそうでもなかったのだが、どんどん力をつけるにしたがって、フィリアの中から『強くなりたい』という意識が希薄になっているのをルースは感じていた。
街の聖職者ならそれでもよいだろうが、能力が高いのに、それに見合った意欲がないのが残念でならない。
今もそうだ。
逃げ回るエルトを追うばかりで、積極的な動きが見られない。
(優しすぎる……)
宙を舞っているふたりの様子を注意深く観察しながら、ルースはため息をつく。
悪いことではないのだが、度が過ぎるとそれは命取りでしかない。
ふたりのステータスを把握しているルースだからわかることだが、この程度の鬼ごっこで『魔力切れでのお開き』は、期待できない。
日付がかわるまで続けても、両者の魔力は枯渇することなく、決着はつかないだろう。
もし、フィリアがエルトの魔力切れを狙って、だらだらと行動しているのなら、魔力が先になくなるのはフィリアの方だ。
年長者が手出しをして若者の成長を阻害するのは可能な限り控えたいが、それでエルトに逃げられてしまっては、元も子もない。
外の世界をあまり知らないエルトが逃げたら、なにをしでかすかわからない。
悪い大人に捕まりでもしたら大変だ。
手出しは最小限に。ただし、最大限の効果が発揮できる瞬間に。が、ルースの信条である。
いつでも動ける準備だけはしておく。
魔法が使えない分、ルースは技術と経験でその差を埋めなければならない。集中力を高めていく中で、ルースの表情が自然と険しくなる。
しかし、ルースも万能ではない。
どちらかというと、子どもの心理には疎い方であった。
彼の表情が険しくなればなるほど、逃げるエルトを追い詰めていることには、気づいていなかった。
「二人目回収っと……」
「おい、放せ! 荷物じゃないんだ! もっと丁寧にあつかえ!」
リオーネは顔を真っ赤にさせ、全力でじたばたもがく。
さらに捕縛する魔力が強まったが、それ以上にリオーネは抵抗する。
「おい。暴れるな。落っことしちまうじゃないか」
「チクショー! 放せよ! 子ども相手にこんなに縛って、恥ずかしくないのかよっ!」
「……黙れガキ」
フロルが静かな声で、リオーネの耳元に囁く。殺気の籠もった目で一睨みする。
「…………」
「いいか。ボスが誰か理解できない奴は、ただのゴミだ。いや、クソだ。で、ボスの命令が聞けない奴は、お荷物なんだよ。そこんとこ、理解しろ」
冷え冷えとしたフロルの声に、リオーネの表情が固くなる。と、同時に、少年は抵抗することを諦め、おとなしくなった。
悔しいのか、リオーネの目にうっすらと涙がにじんでいるが、同じ男として、それは見なかったことにしてやる。
「うん。エライ、エライ」
フロルの表情がふっと和らぐ。
理解力の高いやつは嫌いじゃないぜ、とリオーネの背中あたりをポンポンと軽く叩きながら、フロルはギルド長の元へと歩いていった。
「逃がすなよ。油断したら逃げるぞ」
「わかっています」
「は、はいっ!」
「…………」
鬼と呼ばれるギルド長の言葉に、フロル、ミラーノ、ギルは大きく頷く。
簑虫状態の意気消沈したリオーネと、ロリコンに捕獲されて不満顔のナニを厳しい目で睨みつけた後、ルースはゆっくりと天井を仰ぎ見た。
「さて、残りのひとりは……」
上の様子を見たルースの表情が、さらに険しくなる。
闘技場ほどではなかったが、査定場も天井が高く、部屋もそこそこ広いつくりになっている。ドラゴンや巨人系モンスターの持ち込みを想定した設計だ。
その広い空間内を、ふたりはめまぐるしいスピードで飛び交っていた。
今朝、ステータスを閲覧したときから、大体の予測はついていたが、一番、やっかいなのが残ってしまった。
(さて、アレは……フィリアひとりに任せてよいものなのかな……)
様々な魔法を駆使し、宙を自在に飛び回るふたりを注意深く観察する。
ゴブリンとはいえ、あれだけの数のゴブリンを倒したのである。
朝に確認したときよりも、子どもたちのステータスは、確実に上がっているはずだ。
おそらく、魔法剣士のフィリアを越えた項目もあるだろう。
もう一度、ステータスの確認をしなければならないという悲劇的な状態に、ルースの機嫌がさらに悪くなる。
偽造登録用紙を封印するために、数時間前に使用した魔法の数々がルースの脳裏をよぎった。
(面倒なことになったな……)
ルースの指示に従って、フィリアは本気モードのようだが、いまひとつ真剣味が足りないような気配がする。
ちびっ子たちの行動や、ギンフウの手抜かりにも腹を立てているが、それ以上に、フィリアの中に『欲』という感情が異様に少ないことにルースは苛立っていた。
最初に出会った頃はそうでもなかったのだが、どんどん力をつけるにしたがって、フィリアの中から『強くなりたい』という意識が希薄になっているのをルースは感じていた。
街の聖職者ならそれでもよいだろうが、能力が高いのに、それに見合った意欲がないのが残念でならない。
今もそうだ。
逃げ回るエルトを追うばかりで、積極的な動きが見られない。
(優しすぎる……)
宙を舞っているふたりの様子を注意深く観察しながら、ルースはため息をつく。
悪いことではないのだが、度が過ぎるとそれは命取りでしかない。
ふたりのステータスを把握しているルースだからわかることだが、この程度の鬼ごっこで『魔力切れでのお開き』は、期待できない。
日付がかわるまで続けても、両者の魔力は枯渇することなく、決着はつかないだろう。
もし、フィリアがエルトの魔力切れを狙って、だらだらと行動しているのなら、魔力が先になくなるのはフィリアの方だ。
年長者が手出しをして若者の成長を阻害するのは可能な限り控えたいが、それでエルトに逃げられてしまっては、元も子もない。
外の世界をあまり知らないエルトが逃げたら、なにをしでかすかわからない。
悪い大人に捕まりでもしたら大変だ。
手出しは最小限に。ただし、最大限の効果が発揮できる瞬間に。が、ルースの信条である。
いつでも動ける準備だけはしておく。
魔法が使えない分、ルースは技術と経験でその差を埋めなければならない。集中力を高めていく中で、ルースの表情が自然と険しくなる。
しかし、ルースも万能ではない。
どちらかというと、子どもの心理には疎い方であった。
彼の表情が険しくなればなるほど、逃げるエルトを追い詰めていることには、気づいていなかった。
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