上 下
108 / 222
ちびっ子は冒険者編(3)

もっと丁寧にあつかえ!

しおりを挟む
 床の上でもぞもぞしながら、わいわい叫んでいるリオーネを、フロルが「やれやれ」と面倒くさそうに呟きながら、肩にひょいと担ぎ上げる。

「二人目回収っと……」
「おい、放せ! 荷物じゃないんだ! もっと丁寧にあつかえ!」

 リオーネは顔を真っ赤にさせ、全力でじたばたもがく。
 さらに捕縛する魔力が強まったが、それ以上にリオーネは抵抗する。

「おい。暴れるな。落っことしちまうじゃないか」
「チクショー! 放せよ! 子ども相手にこんなに縛って、恥ずかしくないのかよっ!」
「……黙れガキ」

 フロルが静かな声で、リオーネの耳元に囁く。殺気の籠もった目で一睨みする。

「…………」
「いいか。ボスが誰か理解できない奴は、ただのゴミだ。いや、クソだ。で、ボスの命令が聞けない奴は、お荷物なんだよ。そこんとこ、理解しろ」

 冷え冷えとしたフロルの声に、リオーネの表情が固くなる。と、同時に、少年は抵抗することを諦め、おとなしくなった。

 悔しいのか、リオーネの目にうっすらと涙がにじんでいるが、同じ男として、それは見なかったことにしてやる。

「うん。エライ、エライ」

 フロルの表情がふっと和らぐ。
 理解力の高いやつは嫌いじゃないぜ、とリオーネの背中あたりをポンポンと軽く叩きながら、フロルはギルド長の元へと歩いていった。

「逃がすなよ。油断したら逃げるぞ」
「わかっています」
「は、はいっ!」
「…………」

 鬼と呼ばれるギルド長の言葉に、フロル、ミラーノ、ギルは大きく頷く。

 簑虫状態の意気消沈したリオーネと、ロリコンに捕獲されて不満顔のナニを厳しい目で睨みつけた後、ルースはゆっくりと天井を仰ぎ見た。

「さて、残りのひとりは……」

 上の様子を見たルースの表情が、さらに険しくなる。

 闘技場ほどではなかったが、査定場も天井が高く、部屋もそこそこ広いつくりになっている。ドラゴンや巨人系モンスターの持ち込みを想定した設計だ。

 その広い空間内を、ふたりはめまぐるしいスピードで飛び交っていた。

 今朝、ステータスを閲覧したときから、大体の予測はついていたが、一番、やっかいなのが残ってしまった。

(さて、アレは……フィリアひとりに任せてよいものなのかな……)

 様々な魔法を駆使し、宙を自在に飛び回るふたりを注意深く観察する。

 ゴブリンとはいえ、あれだけの数のゴブリンを倒したのである。

 朝に確認したときよりも、子どもたちのステータスは、確実に上がっているはずだ。
 おそらく、魔法剣士のフィリアを越えた項目もあるだろう。

 もう一度、ステータスの確認をしなければならないという悲劇的な状態に、ルースの機嫌がさらに悪くなる。

 偽造登録用紙を封印するために、数時間前に使用した魔法の数々がルースの脳裏をよぎった。

(面倒なことになったな……)

 ルースの指示に従って、フィリアは本気モードのようだが、いまひとつ真剣味が足りないような気配がする。

 ちびっ子たちの行動や、ギンフウの手抜かりにも腹を立てているが、それ以上に、フィリアの中に『欲』という感情が異様に少ないことにルースは苛立っていた。

 最初に出会った頃はそうでもなかったのだが、どんどん力をつけるにしたがって、フィリアの中から『強くなりたい』という意識が希薄になっているのをルースは感じていた。

 街の聖職者ならそれでもよいだろうが、能力が高いのに、それに見合った意欲がないのが残念でならない。

 今もそうだ。
 逃げ回るエルトを追うばかりで、積極的な動きが見られない。

(優しすぎる……)

 宙を舞っているふたりの様子を注意深く観察しながら、ルースはため息をつく。
 悪いことではないのだが、度が過ぎるとそれは命取りでしかない。

 ふたりのステータスを把握しているルースだからわかることだが、この程度の鬼ごっこで『魔力切れでのお開き』は、期待できない。

 日付がかわるまで続けても、両者の魔力は枯渇することなく、決着はつかないだろう。

 もし、フィリアがエルトの魔力切れを狙って、だらだらと行動しているのなら、魔力が先になくなるのはフィリアの方だ。

 年長者が手出しをして若者の成長を阻害するのは可能な限り控えたいが、それでエルトに逃げられてしまっては、元も子もない。

 外の世界をあまり知らないエルトが逃げたら、なにをしでかすかわからない。
 悪い大人に捕まりでもしたら大変だ。

 手出しは最小限に。ただし、最大限の効果が発揮できる瞬間に。が、ルースの信条である。
 いつでも動ける準備だけはしておく。

 魔法が使えない分、ルースは技術と経験でその差を埋めなければならない。集中力を高めていく中で、ルースの表情が自然と険しくなる。

 しかし、ルースも万能ではない。
 どちらかというと、子どもの心理には疎い方であった。
 彼の表情が険しくなればなるほど、逃げるエルトを追い詰めていることには、気づいていなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...