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冒険者ギルド編(1)
ギルド長命令だ。だせ!
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ルースは隣に積まれたゴブリンらしき黒焦げの耳に視線を移す。
ゴブリンたちが気の毒に思えてくる焦げ具合だ。
ゴブリンの討伐証明となる耳は左右どちらでもよいが、片耳だけとなっている。
片耳ルールはちびっ子たちに語って聞かせたことがあるから、両耳を持ち込んでかさ増しをしようとは考えないだろう。
これは全部違う個体の耳だ。
ルースはそれを知っているが、査定のルールでは、一個、一個の確認作業が発生する。
そもそも、これだけの大量のゴブリンの耳が一度に持ち込まれるなど想定していない。
この量と、この絶妙な焦げ具合だと、同じ個体の両耳が混じっていないか、魔道具があるとはいえ、確認するだけでも大変な作業になりそうだ。
無理して残業などせずに、数日かけてゆっくりとがんばって欲しいのに……と積み上げられたロースト状態の耳を眺めながらルースは思う。
しかし、査定部門は、自分たちのせいで記録更新ができなかったと言われることを嫌がるだろう。
彼らの仕事に対するプロ意識をなめてはいけない。
口を挟むのは、逆に彼らのプライドを刺激してしまうので、得策ではない。
ルースは口を閉ざしたまま、静かに焼け焦げたゴブリンの耳を観察する。
焦げてはいるが、ゴブリンの耳には間違いない。それにしても、大小さまざまな耳がある。
(大小さまざまって……おいおいおいおいおいおい!)
ルースギルド長の眉間に深い皺が刻まれる。
「ちょっと待て。これだけの数のゴブリンを倒せば、魔物石だって、大量にでてくるだろう。魔物石はどこにあるんだ?」
その言葉に、ナニがそろそろと移動しはじめるのをルースは見逃さない。
「ギル! そこのちびっ子魔法使いを確保!」
「は、はい!」
ギルド長の鋭い命令に、ギルはすぐさま反応する。
逃げようとしたナニの首根っこをつかみ、ずるずるとひきずるようにして、ルースの前につれていく。
「離せ! ロリコン!」
という声とともに、額を杖で力いっぱい殴られたが、ギルはひるまない。
額からだらだらと血が流れているが、ギルは全く動じない。
心に負った傷の深さは別として、ギルのステータスなら、蚊が止まった程度のものだろう。
「ちびっ子、収納魔法の中に魔物石があるんだろ? だせ! ひとつ残らず、魔物石をだすんだ!」
ルースが声を荒げる。
事情をなにも知らない者が見れば、子ども相手に大人げないカツアゲをしているとしか思えない光景だ。
「拒否。ギルドの規定では、討伐した魔物の証拠があれば、魔物石の提出は不要となっている。わたしが全部もらう。他のふたりには了承済み」
「ああんん?」
ナニの答えにルースの表情が険しくなり、室内が凍りついた。今にも吹雪が吹き荒れそうな具合にまで冷え込む。
「魔物石をどうするつもりなんだ?」
ルースの冷え冷えとした声が、しんと静まり返った室内に響き渡った。
「……研究開発と、みんなへのお土産」
ナニの答えに、ルースの頬がひきつる。
みんなへのお土産という言葉に、一瞬……一瞬だけ、ほろりとなりかけたが、ここは『深淵』ではない。『冒険者ギルド』だ。
「ほほぅぅ――ぅ。一体、なにを研究するのかしらないが、ギルド長命令だ。だせ!」
「拒否する!」
「後で返却するから!」
「……本当?」
「約束する。討伐個数を確認したいだけだ。消し炭の耳らしき固形物よりも、魔物石の方が、状況を把握しやすいからな」
「わかった……」
ギルに首根っこをつかまれたまま、ナニが手にしていた杖を動かす。
突然、空間が動き、なにもないところから、ジャラジャラと音をたてながら、濁った緑色の石が、テーブルの上に落ちてくる。
シャラシャラ、チャリン、チャリン、という音に混じって、ときどき、ゴトン、という、重たいものが落ちる音も聞こえた。
「えええええっ!」
「なんだ、この量は!」
「ちょっと、なんか、めちゃおっきい魔物石もあるよ!」
大人たちが魔物石の量にざわつきはじめる。
その光景を見たギルド長の顔が、さらに険しいものになった。
ゴブリンたちが気の毒に思えてくる焦げ具合だ。
ゴブリンの討伐証明となる耳は左右どちらでもよいが、片耳だけとなっている。
片耳ルールはちびっ子たちに語って聞かせたことがあるから、両耳を持ち込んでかさ増しをしようとは考えないだろう。
これは全部違う個体の耳だ。
ルースはそれを知っているが、査定のルールでは、一個、一個の確認作業が発生する。
そもそも、これだけの大量のゴブリンの耳が一度に持ち込まれるなど想定していない。
この量と、この絶妙な焦げ具合だと、同じ個体の両耳が混じっていないか、魔道具があるとはいえ、確認するだけでも大変な作業になりそうだ。
無理して残業などせずに、数日かけてゆっくりとがんばって欲しいのに……と積み上げられたロースト状態の耳を眺めながらルースは思う。
しかし、査定部門は、自分たちのせいで記録更新ができなかったと言われることを嫌がるだろう。
彼らの仕事に対するプロ意識をなめてはいけない。
口を挟むのは、逆に彼らのプライドを刺激してしまうので、得策ではない。
ルースは口を閉ざしたまま、静かに焼け焦げたゴブリンの耳を観察する。
焦げてはいるが、ゴブリンの耳には間違いない。それにしても、大小さまざまな耳がある。
(大小さまざまって……おいおいおいおいおいおい!)
ルースギルド長の眉間に深い皺が刻まれる。
「ちょっと待て。これだけの数のゴブリンを倒せば、魔物石だって、大量にでてくるだろう。魔物石はどこにあるんだ?」
その言葉に、ナニがそろそろと移動しはじめるのをルースは見逃さない。
「ギル! そこのちびっ子魔法使いを確保!」
「は、はい!」
ギルド長の鋭い命令に、ギルはすぐさま反応する。
逃げようとしたナニの首根っこをつかみ、ずるずるとひきずるようにして、ルースの前につれていく。
「離せ! ロリコン!」
という声とともに、額を杖で力いっぱい殴られたが、ギルはひるまない。
額からだらだらと血が流れているが、ギルは全く動じない。
心に負った傷の深さは別として、ギルのステータスなら、蚊が止まった程度のものだろう。
「ちびっ子、収納魔法の中に魔物石があるんだろ? だせ! ひとつ残らず、魔物石をだすんだ!」
ルースが声を荒げる。
事情をなにも知らない者が見れば、子ども相手に大人げないカツアゲをしているとしか思えない光景だ。
「拒否。ギルドの規定では、討伐した魔物の証拠があれば、魔物石の提出は不要となっている。わたしが全部もらう。他のふたりには了承済み」
「ああんん?」
ナニの答えにルースの表情が険しくなり、室内が凍りついた。今にも吹雪が吹き荒れそうな具合にまで冷え込む。
「魔物石をどうするつもりなんだ?」
ルースの冷え冷えとした声が、しんと静まり返った室内に響き渡った。
「……研究開発と、みんなへのお土産」
ナニの答えに、ルースの頬がひきつる。
みんなへのお土産という言葉に、一瞬……一瞬だけ、ほろりとなりかけたが、ここは『深淵』ではない。『冒険者ギルド』だ。
「ほほぅぅ――ぅ。一体、なにを研究するのかしらないが、ギルド長命令だ。だせ!」
「拒否する!」
「後で返却するから!」
「……本当?」
「約束する。討伐個数を確認したいだけだ。消し炭の耳らしき固形物よりも、魔物石の方が、状況を把握しやすいからな」
「わかった……」
ギルに首根っこをつかまれたまま、ナニが手にしていた杖を動かす。
突然、空間が動き、なにもないところから、ジャラジャラと音をたてながら、濁った緑色の石が、テーブルの上に落ちてくる。
シャラシャラ、チャリン、チャリン、という音に混じって、ときどき、ゴトン、という、重たいものが落ちる音も聞こえた。
「えええええっ!」
「なんだ、この量は!」
「ちょっと、なんか、めちゃおっきい魔物石もあるよ!」
大人たちが魔物石の量にざわつきはじめる。
その光景を見たギルド長の顔が、さらに険しいものになった。
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