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冒険者ギルド編(1)
できれば、分割で……
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ルースは額に手をやり、思わず天をあおいだ。
トレスは……部屋の隅で気配を消し、空気のようにたたずんでいる。
(いやいやいや、色々、おかしすぎる。これは……まずすぎる)
ルースは目の前の子どもたちを見下ろす。
子どもたちはとってもごきげんだ。
フードや前髪で顔を隠していようが、それくらいわかる。
(ギンフウ――っ! なにやってるんだ!)
心のなかで、思いっきり子どもたちの養父の名を叫ぶ。
目眩がした。
(まずいぞ。まずいぞ。これは、やばいことになった……)
コトの重大さに停止しかけた思考を、ルースは無理やり再稼働させる。
無邪気な子どもたちに比べ、大人たちの表情は固い。大人たちはみな、ルースの判断を緊迫した面持ちで待ち構えている。
まずは、冷静に、冷静に……状況把握からはじめよう、という結論に行き着き、ルースはゆっくりと口を開いた。
「……おい、ペルナ、依頼達成報告の手続きはやってしまったのか!」
「にゃうううう!」
部屋の隅の方で、可能な限り小さくなっていたペルナが、ルースの剣幕に驚いたように飛び上がる。
ほとんど猫状態だ。
ペルナはカクカクと、ものすごい勢いで首を縦に動かしている。恐怖のためか、尻尾はくるりとまるまっている。ぷるぷると全身を小刻みに震わせ、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「ギルド長、なにを寝ぼけたこと言ってるんだ。依頼達成報告の申し込みが、受付で受理されたから、このガキ共が、こちらの査定棟にやってきたんだろうが!」
「すみませんにゃ! みゃさか、見習い冒険者が、一度にこんな数の複数討伐を行っているとは、想定していにゃせんでしたにゃ!」
受付嬢のペルナは、依頼二、三回分の量をまとめて持ってきたと思ったのだろう。
常時発生している依頼にはよくある話なので、忙しかったこともあり、ペルナはそのままよく確かめもせずに、査定受付カウンターに通してしまったのだ。
運が良かったのか、悪かったのか、今日の受付には、ペルナひとりしかいなかったので、人が殺到してどうしても処理が甘くなってしまったのだろう。
(受付嬢をひとりにしたのが裏目にでてしまったか……)
すみっコでガタガタ震えている山猫の獣人から視線を外すと、ルースは長い溜息を吐きだした。
「……これ、せめて、トラブルが発生したとかなんとか、それっぽい理由をつけて、明日以降の査定にできないか?」
(できれば、分割で……)
無理なこととはわかっていても、ルースの口から思わず願望がこぼれる。
さすがに、『クエスト失敗』の偽装は、知っている者が多すぎて無理だ。
それに、これだけのことをやってのけたのだ。
子どもたちの目をみていたらよくわかる。純粋無垢な、期待に踊る熱い視線。
この『はじめての冒険』に、どんな評価がされるのか、ドキドキワクワクしているのがダイレクトに伝わってきて、胸が……心が痛む。ついでに胃も痛い。
大人たちの事情を、子どもたちに押しつけて無理やり納得させるのも大変だろう。
大人が相手ならルースも遠慮なく、威圧したり、脅したり、脅迫したり、恐喝したり、あのテこのテで納得させる自信はあった。
だが、子どもの扱いに関しては、ど素人ともいえる。
ルースには年の離れた弟がいたが、あの子はお兄ちゃん子で、兄の言う事ならなんでも聞き、決して逆らわなかった、とても素直でいい子だった。
……もう、前提条件からして参考にならない。
十五の刻=午後五時
十六の刻=午後六時
トレスは……部屋の隅で気配を消し、空気のようにたたずんでいる。
(いやいやいや、色々、おかしすぎる。これは……まずすぎる)
ルースは目の前の子どもたちを見下ろす。
子どもたちはとってもごきげんだ。
フードや前髪で顔を隠していようが、それくらいわかる。
(ギンフウ――っ! なにやってるんだ!)
心のなかで、思いっきり子どもたちの養父の名を叫ぶ。
目眩がした。
(まずいぞ。まずいぞ。これは、やばいことになった……)
コトの重大さに停止しかけた思考を、ルースは無理やり再稼働させる。
無邪気な子どもたちに比べ、大人たちの表情は固い。大人たちはみな、ルースの判断を緊迫した面持ちで待ち構えている。
まずは、冷静に、冷静に……状況把握からはじめよう、という結論に行き着き、ルースはゆっくりと口を開いた。
「……おい、ペルナ、依頼達成報告の手続きはやってしまったのか!」
「にゃうううう!」
部屋の隅の方で、可能な限り小さくなっていたペルナが、ルースの剣幕に驚いたように飛び上がる。
ほとんど猫状態だ。
ペルナはカクカクと、ものすごい勢いで首を縦に動かしている。恐怖のためか、尻尾はくるりとまるまっている。ぷるぷると全身を小刻みに震わせ、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「ギルド長、なにを寝ぼけたこと言ってるんだ。依頼達成報告の申し込みが、受付で受理されたから、このガキ共が、こちらの査定棟にやってきたんだろうが!」
「すみませんにゃ! みゃさか、見習い冒険者が、一度にこんな数の複数討伐を行っているとは、想定していにゃせんでしたにゃ!」
受付嬢のペルナは、依頼二、三回分の量をまとめて持ってきたと思ったのだろう。
常時発生している依頼にはよくある話なので、忙しかったこともあり、ペルナはそのままよく確かめもせずに、査定受付カウンターに通してしまったのだ。
運が良かったのか、悪かったのか、今日の受付には、ペルナひとりしかいなかったので、人が殺到してどうしても処理が甘くなってしまったのだろう。
(受付嬢をひとりにしたのが裏目にでてしまったか……)
すみっコでガタガタ震えている山猫の獣人から視線を外すと、ルースは長い溜息を吐きだした。
「……これ、せめて、トラブルが発生したとかなんとか、それっぽい理由をつけて、明日以降の査定にできないか?」
(できれば、分割で……)
無理なこととはわかっていても、ルースの口から思わず願望がこぼれる。
さすがに、『クエスト失敗』の偽装は、知っている者が多すぎて無理だ。
それに、これだけのことをやってのけたのだ。
子どもたちの目をみていたらよくわかる。純粋無垢な、期待に踊る熱い視線。
この『はじめての冒険』に、どんな評価がされるのか、ドキドキワクワクしているのがダイレクトに伝わってきて、胸が……心が痛む。ついでに胃も痛い。
大人たちの事情を、子どもたちに押しつけて無理やり納得させるのも大変だろう。
大人が相手ならルースも遠慮なく、威圧したり、脅したり、脅迫したり、恐喝したり、あのテこのテで納得させる自信はあった。
だが、子どもの扱いに関しては、ど素人ともいえる。
ルースには年の離れた弟がいたが、あの子はお兄ちゃん子で、兄の言う事ならなんでも聞き、決して逆らわなかった、とても素直でいい子だった。
……もう、前提条件からして参考にならない。
十五の刻=午後五時
十六の刻=午後六時
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