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冒険者ギルド編(1)
ヒットポイントがちょっと減ったな
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一階に降りた途端、ルースのぼんやりとしていた表情が、キリリと引き締まり、前かがみになっていた背筋がぴんと伸びる。
ルースのギルド長としてのプライドは尊重しなければならない。トレスは無言でルースの後を追う。
「それで、具体的には、なにが起こっているんだ?」
別棟につながる廊下を歩きながら、状況把握のためにルースが専属秘書に質問する。
ギルド長の質問はしごくまっとうなものなのだが、返ってきたトレスの答えは実に曖昧であった。
「それが、すごく……興奮しているというか、怒っているというか……」
「……ただ、ギルド長を呼べと言われただけか」
言いにくそうにしているトレスの言葉を、ルースがため息混じりにひきついだ。
「申し訳ございません……」
別に咎めるつもりはなかったのだが、トレスは勝手に誤解して、恐縮してしまっている。
査定責任者は「ギルド長をよこせ」の一点張り。用件を聞いても、秘書では話にならないと、あっさり拒否された、と専属秘書は説明を続ける。
トレスが詳細を確かめようとすればするほど、相手は興奮してしまい、同じ言葉を繰り返すだけで埒が明かない。
それならばと、トレスが現場に向かうと、査定受付場の扉には【施錠】の魔法がかけられており、関係者以外は立ち入り禁止だと、けんもほろろに追い返されてしまったという。
秘書の話を聞きながら、ルースは忙しく思考をめぐらす。
素材解体責任者と査定責任者がセットになって、自分たちのエリアを立入禁止状態にした。
さらに、ギルド長直属秘書に一切事情を説明せずに、ギルド長を直接呼びつける……というようなケースが、実際に存在するのだろうかと首をひねる。
今日は……『赤い鳥』の上級冒険者たちが、超級ランクにあがるための魔物素材の査定がある、とは聞いていた。
(査定になにか問題があった……のか?)
責任者のふたりが素材の評価をめぐってもめているのなら、ギルド長の判断が必要になる……場合もあるかもしれない。
(いやいや、『あいつ』が所属しているパーティーが、そんな『ものいい』がつくような、中途半端な素材を提出するはずがない)
ルースは即座にその推測を否定する。
素材解体責任者と査定責任者は、ドワーフだけあって、『腕』と『目』は非常によいのだが、種族特性というか、職人気質にありがちな、少々、短気で気難しいところがあった。
とにかく彼らの扱いには注意が必要だ。
ハーフエルフとドワーフという、少しだけ、厄介な組み合わせだが、トレスの能力であれば、そこはうまくいなして、調整できるはずであった。
今まで、トレスが種族間の認識の違いで、仕事をしくじったことはない。
素材解体責任者と査定責任者も、頑固ではあるが、決して狭量ではない。トレスをハーフエルフという理由だけで、色眼鏡で見たり、毛嫌いしているようには思えなかった。
なにせ、責任者を任されるのだから、それなりに人望と人徳があって、能力は高い。判断力もある。
判断力があるからこその、この厳戒対応なのだろう。
ギルド長の秘書を、あっさりと門前払いするような重要案件となると、考えるだけで胃が重くなった。
キリキリ痛む胃をさすりながら、ルースは「あ、今、自分のヒットポイントがちょっと減ったな」と、思わず違うことを考えてしまう。
途中、すれ違うギルド職員が、道を譲り、ルースに深々と頭を下げる。
ルースの乱れた服装に不思議そうな顔をする察しのいい職員も数名いたが、軽く無視する。
すれ違う職員たちに鷹揚にうなずきながら、ルースとトレスは、表面上は落ち着いた風を装って目的地へと向かった。
ルースのギルド長としてのプライドは尊重しなければならない。トレスは無言でルースの後を追う。
「それで、具体的には、なにが起こっているんだ?」
別棟につながる廊下を歩きながら、状況把握のためにルースが専属秘書に質問する。
ギルド長の質問はしごくまっとうなものなのだが、返ってきたトレスの答えは実に曖昧であった。
「それが、すごく……興奮しているというか、怒っているというか……」
「……ただ、ギルド長を呼べと言われただけか」
言いにくそうにしているトレスの言葉を、ルースがため息混じりにひきついだ。
「申し訳ございません……」
別に咎めるつもりはなかったのだが、トレスは勝手に誤解して、恐縮してしまっている。
査定責任者は「ギルド長をよこせ」の一点張り。用件を聞いても、秘書では話にならないと、あっさり拒否された、と専属秘書は説明を続ける。
トレスが詳細を確かめようとすればするほど、相手は興奮してしまい、同じ言葉を繰り返すだけで埒が明かない。
それならばと、トレスが現場に向かうと、査定受付場の扉には【施錠】の魔法がかけられており、関係者以外は立ち入り禁止だと、けんもほろろに追い返されてしまったという。
秘書の話を聞きながら、ルースは忙しく思考をめぐらす。
素材解体責任者と査定責任者がセットになって、自分たちのエリアを立入禁止状態にした。
さらに、ギルド長直属秘書に一切事情を説明せずに、ギルド長を直接呼びつける……というようなケースが、実際に存在するのだろうかと首をひねる。
今日は……『赤い鳥』の上級冒険者たちが、超級ランクにあがるための魔物素材の査定がある、とは聞いていた。
(査定になにか問題があった……のか?)
責任者のふたりが素材の評価をめぐってもめているのなら、ギルド長の判断が必要になる……場合もあるかもしれない。
(いやいや、『あいつ』が所属しているパーティーが、そんな『ものいい』がつくような、中途半端な素材を提出するはずがない)
ルースは即座にその推測を否定する。
素材解体責任者と査定責任者は、ドワーフだけあって、『腕』と『目』は非常によいのだが、種族特性というか、職人気質にありがちな、少々、短気で気難しいところがあった。
とにかく彼らの扱いには注意が必要だ。
ハーフエルフとドワーフという、少しだけ、厄介な組み合わせだが、トレスの能力であれば、そこはうまくいなして、調整できるはずであった。
今まで、トレスが種族間の認識の違いで、仕事をしくじったことはない。
素材解体責任者と査定責任者も、頑固ではあるが、決して狭量ではない。トレスをハーフエルフという理由だけで、色眼鏡で見たり、毛嫌いしているようには思えなかった。
なにせ、責任者を任されるのだから、それなりに人望と人徳があって、能力は高い。判断力もある。
判断力があるからこその、この厳戒対応なのだろう。
ギルド長の秘書を、あっさりと門前払いするような重要案件となると、考えるだけで胃が重くなった。
キリキリ痛む胃をさすりながら、ルースは「あ、今、自分のヒットポイントがちょっと減ったな」と、思わず違うことを考えてしまう。
途中、すれ違うギルド職員が、道を譲り、ルースに深々と頭を下げる。
ルースの乱れた服装に不思議そうな顔をする察しのいい職員も数名いたが、軽く無視する。
すれ違う職員たちに鷹揚にうなずきながら、ルースとトレスは、表面上は落ち着いた風を装って目的地へと向かった。
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