生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

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ちびっ子は冒険者編(2)

百五十本の薬草と九十体のモブゴブリンが必要

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 『グリーン・クエスト』は常時発生タイプの依頼で、難易度は冒険者にとって一番簡単なものとされている。報酬も当然のことながら、微々たるものだ。

 上位冒険者は、下位ランクの依頼を受注することができるが、『グリーン・クエスト』だけは受注禁止となっている。
 
 見習い冒険者は、安全な薬草摘みで帝都の外に出ることに慣れ、報酬で初期装備を揃え、見習い用の魔物戦闘研修をクリアしてから、魔物(モブゴブリン)討伐に挑戦していく、というのが成長の流れだ。

 それと並行して、読み書きができない冒険者は研修をうけて、書き出されている依頼内容を、ちゃんと理解できるようにならなければならない。

「帝都近辺は『アノ事件』があってから、瘴気に汚染されて、土地が荒れ、薬草の質が落ちた。なのに、薬草を摘む者の数は増えている。しかも、今の季節は、植物の成長が望めない。短期間で確実な収穫は、非常に困難。完全に成長した株しか受理されないのも注意が必要」

 薬草採取は専門職でもない限り、戦闘力や技量よりも、根気と継続力に加え、少なからずの運が必要とされる。とても地味なクエストだ。

 ナニの冷静な指摘に、リオーネが大きなため息をついた。自分たちの不得意分野といってもいい。

「時間がかかりそうだなー」
「同意。こういう面倒なことは、さっさと終わらせて、『冒険者図鑑』を入手して、ギルド内書庫を閲覧できるランクにさくっとあがりたい」
「ナニ……。ギルド内書庫を閲覧って、中級冒険者じゃなかったか?」

 流石に、それは無理だろう、とリオーネが言うが、ナニは強く首を横に振る。

「過去、一度に二ランクアップした冒険者がいた。前例はある!」
「ナニねー、それは、特進だよ。魔物の大量襲来に街を守りぬいて死んじゃった冒険者に、贈られたやつだから……死なないとだめだから」

 エルトが注意する。
 が、誰も聞いていない。

「えっと、確か、初級冒険者になるためには、ひとりあたま採取十回分、討伐十回分が必要だったよな。一回の採取が薬草五本、討伐は、モブゴブリンを三体倒したらいいから……」
「三人だと、百五十本の薬草と九十体のモブゴブリンが必要」

 リオーネの言葉をひきつぎ、さらっと暗算して答えるナニ。

「ちなみに、三人で千五十本の薬草と五百四十体のモブゴブリン。そして、探索を十回したら二ランクアップする!」

 ギルド内書庫に興味津々の少女は、さらに言葉を続けた。口調は淡々としているが、なかなかに好戦的な意見だ。

「いや、いや、それは流石に無理だから! 一日で探索を十回は、時間配分的に無理だから! 一日は二十四時間だよ」
「ナニねー、……めっ!」

 慌ててリオーネとエルトが否定する。でないと、ナニはガチでやろうとする。

 しかも、口にするということは、彼女なりのプランができあがっているのだろう。
 巻き込まれる者としては、いい迷惑だ。

 助けを求めるリオーネの視線と、期待に満ちたナニの視線が、エルトに集中する。

「…………」

 しばらくの沈黙の後、エルトがふるふると首を振る。

「……わかったよ。エレッツハイム城からできるだけ離れた場所で、なおかつ、帝都ギルドの管轄内で、薬草の群生地があって、さらに、その近くにゴブリンの大きめな集落がある場所に、今すぐ転移したらいいんだよね……」
「そういうことだ」
「エルトは理解が早い」

 三人は立ち上がると、いそいそと路地の中央に集まる。

 中心はエルト。

 周りに誰もいないことを確かめてから、エルトはひとこと、ふたこと、囁くように呟く。

 エルトの場合、通常なら必要とされている長い詠唱や、魔法発動の媒体となる杖などは必要としない。

 短い呟きだけで、周囲の魔素がざわりと揺れ動き、エルトを中心として、地面に複雑な魔法陣が幾重にも浮かび上がる。

【転移】

 魔法陣の完成と同時に強い光が立ち上がったが、光はなにごともなかったかのように、すぐに消え去った。

 そして、光と共に、路地から子どもたちの姿も消えていた。
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