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ちびっ子は冒険者編(2)
駄目なものは駄目だよ
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「ナニ……、それは、大事なものなんだから、ちゃんとしまっておけよ。往来でみせびらかすものじゃない」
リオーネは年長者として、三人のリーダー格として、魔導具大好きなハーフエルフの少女ナニに警告を発する。
「わかっている。これが、偽造冒険者カード。すごい。本物の仕組みもすごいけど、偽造冒険者カードは、それをはるかに上回る機能。もはや、芸術の域を超えて、神のなせる業。ぜひとも、この魔道回路を解析したい」
フードが邪魔で表情はよくわからないが、それでもナニのことはわかる。
ハーフエルフの少女は、うっとりするくないの恍惚とした表情を浮かべて、手に入った新しい『おもちゃ』に夢中になっているのだ。
「…………解析しなくていいから」
ここはしっかりと、注意しないとだめだ。
でないと、自分が大人たちに怒られる。
「本物と全く変わらぬデザインと機能を備えているように見せかけて、ステータス内容は自由に書き換えられる。ステータスの書き込み権限者も指定できる用意周到さ。さらに、本当のステータスも閲覧可能。さらにその精度は神宝級。それはもはや【鑑定・強】を超えて【鑑定・烈】のレベル。さすがは、冒険者ギルドの『闇の魔導具』偽造冒険者カード。権限者がギルド長のみというのが納得できないが、権限を譲渡してもらえないか交渉してみる価値はある……」
「…………」
いつもは口数が少ないナニが饒舌だ。
そんなナニの姿に、エルトがめちゃくちゃ怯えている。
これは……嫌な予感がする。
リオーネはナニの知的好奇心を不用意に刺激しないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「いや、ギルド長でいいと思うぞ。ナニに権限がわたったら、偽造設定の限界点とか、研究しそうだからな」
「リオにぃが珍しく冴えてる。なぜわかった?」
「あ、当たり前だ! 五年もおまえらの兄貴をやってたら、そこらへんのことは、簡単にわかるようになるだろ!」
ふと、別の心配事がリオーネの脳裏をかすめる。
「……偽造冒険者カードのすごさは、ナニの説明で、よくわかったが、くれぐれも、くれぐれも、その……分解するんじゃないぞ」
「……ダメ?」
「だめだ!」
即答する。
(こいつ、戻ったら冒険者カードを分解しようとしてたな……)
「エルトはどう思う?」
リオーネの言葉は無情にも軽く聞き流され、ナニはエルトに意見を求めた。
「だめだよ、ナニねー。他人のギルドカードはもちろん、偽造カードは、自分のものであっても分解するのはだめだよ。ボクやリオにぃのも分解しちゃだめだよ。他人のギルドカードを盗んで、偽造カードとの違いを検証したりするのは、もっとだめだよ」
「修復できても?」
「修復できても、駄目なものは駄目だよ」
「ちょっと借りて、すぐに返却しても?」
「ナニねー……ちょっとであっても、すぐであっても、それは犯罪だからね。ペナルティがつくよ。盗む相手は騙せても、ギルド長は絶対に騙せないよ。無理だよ?」
「……わかった。とても残念無念」
しぶしぶではあったが、エルトの言葉に納得するナニ。リオーネは胸を撫で下ろした。
さすがエルトだ。と感心したが、次につづくエルトの言葉にぎょっと目をむく。
「やるなら、もっと実力と権力をつけて、有無を言わせぬ地位になってから、好き放題したらいいよ。そういうコトは最後の楽しみにとっておきなさいって、とうさんがいつも言ってるよ?」
「わかった。そうする」
エルトが説得成功とでも言いたげに、リオーネの方を向く。
褒めてほしそうな態度だったが、リオーネはなにも言わなかった。言えなかった。
言ったところで、このふたりには伝わらない。
あの非常識の見本市みたいな『深淵』しか知らないふたりに、世間の常識はまだ理解できないだろう。
****
三人で話し込んでいるうちに、いつの間にか、人通りのない裏路地の奥にたどり着いていた。
座り心地の良さげな木箱が、いくつも絶妙なバランスで積まれている。
子どもたちはそれぞれ、適当な木箱に腰掛け、作戦会議をはじめた。
「ギルドのねーちゃんは、今日はもう遅いから、依頼は明日からにしろって言ってたけど……」
「説明がとても長かった。でも、まだ、昼前。しかし、薬草の生えているポイントまで往復で半日はかかる。今から帝都をでると、到着は日暮れになる。採取はできない。夜は野宿になるから、明日の開門と同時に帝都をでて、閉門までに戻ってくることを、強く勧められた。走ればすぐに着くだろうが、あの場所での薬草採取は非効率的」
ナニが淡々とした口調で、冷静に状況を説明する。
ちなみに、見習い冒険者は、見習い冒険者用の依頼しか受注できない。
冒険者たちの間では『グリーン・クエスト』と呼ばれている。
『グリーン・クエスト』は見習い冒険者専用として設定された、安全なクエストであり、一種のチュートリアルだった。
依頼は冒険者ランク別に分類されており、自分のランクまでの依頼しか受けることができない決まりになっている。
なので、一番下のランクになる見習い冒険者は、見習い冒険者用の依頼しか受注できない。
読み書きの苦手な冒険者でもわかるようにと、依頼書は色付きの紙に書かれ、毎朝、ギルドの掲示板に張り出されている。
例えば、見習い冒険者用の依頼はグリーンの紙に書かれ、上級冒険者用の依頼はレッドの紙になる。
グリーンの紙に書かれているから『グリーン・クエスト』という、安直さだが、それに文句を言うものは誰もいない。
リオーネは年長者として、三人のリーダー格として、魔導具大好きなハーフエルフの少女ナニに警告を発する。
「わかっている。これが、偽造冒険者カード。すごい。本物の仕組みもすごいけど、偽造冒険者カードは、それをはるかに上回る機能。もはや、芸術の域を超えて、神のなせる業。ぜひとも、この魔道回路を解析したい」
フードが邪魔で表情はよくわからないが、それでもナニのことはわかる。
ハーフエルフの少女は、うっとりするくないの恍惚とした表情を浮かべて、手に入った新しい『おもちゃ』に夢中になっているのだ。
「…………解析しなくていいから」
ここはしっかりと、注意しないとだめだ。
でないと、自分が大人たちに怒られる。
「本物と全く変わらぬデザインと機能を備えているように見せかけて、ステータス内容は自由に書き換えられる。ステータスの書き込み権限者も指定できる用意周到さ。さらに、本当のステータスも閲覧可能。さらにその精度は神宝級。それはもはや【鑑定・強】を超えて【鑑定・烈】のレベル。さすがは、冒険者ギルドの『闇の魔導具』偽造冒険者カード。権限者がギルド長のみというのが納得できないが、権限を譲渡してもらえないか交渉してみる価値はある……」
「…………」
いつもは口数が少ないナニが饒舌だ。
そんなナニの姿に、エルトがめちゃくちゃ怯えている。
これは……嫌な予感がする。
リオーネはナニの知的好奇心を不用意に刺激しないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「いや、ギルド長でいいと思うぞ。ナニに権限がわたったら、偽造設定の限界点とか、研究しそうだからな」
「リオにぃが珍しく冴えてる。なぜわかった?」
「あ、当たり前だ! 五年もおまえらの兄貴をやってたら、そこらへんのことは、簡単にわかるようになるだろ!」
ふと、別の心配事がリオーネの脳裏をかすめる。
「……偽造冒険者カードのすごさは、ナニの説明で、よくわかったが、くれぐれも、くれぐれも、その……分解するんじゃないぞ」
「……ダメ?」
「だめだ!」
即答する。
(こいつ、戻ったら冒険者カードを分解しようとしてたな……)
「エルトはどう思う?」
リオーネの言葉は無情にも軽く聞き流され、ナニはエルトに意見を求めた。
「だめだよ、ナニねー。他人のギルドカードはもちろん、偽造カードは、自分のものであっても分解するのはだめだよ。ボクやリオにぃのも分解しちゃだめだよ。他人のギルドカードを盗んで、偽造カードとの違いを検証したりするのは、もっとだめだよ」
「修復できても?」
「修復できても、駄目なものは駄目だよ」
「ちょっと借りて、すぐに返却しても?」
「ナニねー……ちょっとであっても、すぐであっても、それは犯罪だからね。ペナルティがつくよ。盗む相手は騙せても、ギルド長は絶対に騙せないよ。無理だよ?」
「……わかった。とても残念無念」
しぶしぶではあったが、エルトの言葉に納得するナニ。リオーネは胸を撫で下ろした。
さすがエルトだ。と感心したが、次につづくエルトの言葉にぎょっと目をむく。
「やるなら、もっと実力と権力をつけて、有無を言わせぬ地位になってから、好き放題したらいいよ。そういうコトは最後の楽しみにとっておきなさいって、とうさんがいつも言ってるよ?」
「わかった。そうする」
エルトが説得成功とでも言いたげに、リオーネの方を向く。
褒めてほしそうな態度だったが、リオーネはなにも言わなかった。言えなかった。
言ったところで、このふたりには伝わらない。
あの非常識の見本市みたいな『深淵』しか知らないふたりに、世間の常識はまだ理解できないだろう。
****
三人で話し込んでいるうちに、いつの間にか、人通りのない裏路地の奥にたどり着いていた。
座り心地の良さげな木箱が、いくつも絶妙なバランスで積まれている。
子どもたちはそれぞれ、適当な木箱に腰掛け、作戦会議をはじめた。
「ギルドのねーちゃんは、今日はもう遅いから、依頼は明日からにしろって言ってたけど……」
「説明がとても長かった。でも、まだ、昼前。しかし、薬草の生えているポイントまで往復で半日はかかる。今から帝都をでると、到着は日暮れになる。採取はできない。夜は野宿になるから、明日の開門と同時に帝都をでて、閉門までに戻ってくることを、強く勧められた。走ればすぐに着くだろうが、あの場所での薬草採取は非効率的」
ナニが淡々とした口調で、冷静に状況を説明する。
ちなみに、見習い冒険者は、見習い冒険者用の依頼しか受注できない。
冒険者たちの間では『グリーン・クエスト』と呼ばれている。
『グリーン・クエスト』は見習い冒険者専用として設定された、安全なクエストであり、一種のチュートリアルだった。
依頼は冒険者ランク別に分類されており、自分のランクまでの依頼しか受けることができない決まりになっている。
なので、一番下のランクになる見習い冒険者は、見習い冒険者用の依頼しか受注できない。
読み書きの苦手な冒険者でもわかるようにと、依頼書は色付きの紙に書かれ、毎朝、ギルドの掲示板に張り出されている。
例えば、見習い冒険者用の依頼はグリーンの紙に書かれ、上級冒険者用の依頼はレッドの紙になる。
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