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ちびっ子は冒険者編(2)
また会えたらわかるかな?
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みんなと歩きながら、エルトはぼんやりと考える。
フィリアとは手をつないで、また膝の上に載せてもらって、ぎゅっとしてもらって、頭をなでてもらったり、おしゃべりをしたり……もっと、もっと色々なことをしてみたい……。してほしい。
とうさんがいつもやってくれる『嬉しいこと』を、フィリアにもやってほしいとエルトは思った。
フィリアのことを考えると、冷たく凍えるような全身が、じんわりと温かくなって、活力がわきでてくるようだった。
その反応にリオーネは嬉しそうに笑った。エルトの頭を思いっきりぐしゃぐしゃにかきまわす。
「今、おれは、エルトが『リーダーにまた会ってみたい』と思っていることが、すごく『嬉しい』んだ」
「嬉しいの?」
「ああ。嬉しい」
真剣な表情で、強く、はっきりとした声で、リオーネがエルトに言い聞かせる。
「……ぼくも、リオーネが嬉しいんなら、嬉しいよ」
ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手櫛で戻しながら、エルトは自分の胸の奥がなんだかポカポカするのを感じていた。
だけど……と、エルトは心のなかで問い返す。
フィリアの膝の上に座らせてもらったときは、胸の奥はぽかぽかしなかった。
だったら、それは『嬉しい』ではないのかもしれない。
胸の奥はとてもドキドキしていた。
あのドキドキはどんなドキドキだっただろうか。と考えてみる。
訓練中に感じるドキドキではない。
課題の結果を聞くときのドキドキでもない。
悪戯が見つかって、隠れていたときのドキドキ。
できなかったことができるようになり、大人たちから「よくがんばったな」と言われて、頭を丁寧に撫でてもらったときのドキドキ。
色々なドキドキがあったが、そのどれとも違うドキドキだった。
なんだろう。
体内の魔力が落ち着きなくざわついている感覚に、エルトは小首をかしげる。
冒険者ギルドをでてから、身体の調子が今までにないくらいとてもいい。いつもはギリギリしか残っていない魔力が、増えた感じがする……。身体も軽い。
「……また会えたらわかるかな?」
淡々と紡がれた言葉ではなく、そこには少しだけ感情が見え隠れしていた。
「……そうだな、わかるといいよな」
今までにはなかったエルトの反応に、リオーネは喜びを感じると同時に、悔しくも思っていた。
胸がチクリと痛む。
その痛みは小さなものだったが、心の深いところにまで、抜けない棘のように突き刺さる。
出会って数分、いや瞬間にエルトの警戒心を解き、いとも簡単に触れ合いを許しただけでなく、また会いたいと言わせた存在に、兄としてはいささか嫉妬してしまう。
今の落ち着いている状態と、五年前の荒れていた状態で比べるのは間違っている。
だとしても、傷ついたエルトの心を開くのに、『深淵』の保護者達がどれだけ骨を折り、血を流し、苦労してきたかを……すぐ側で見ていただけに驚きが大きい。
今までは三人一緒に行動していた。
寝るときも一緒、訓練をうけるときも一緒、怒られるときも、褒められるときも、三人が一緒だった。
だが、その『三人一緒』の関係がゆっくりと、じわじわと崩れてきていた。
三人一緒の訓練に加え、ハヤテとカフウだけを対象にしたものが新たに増えはじめる。
これから先は、剣術が得意なハヤテと魔法を得意とするカフウは、別の『影』に従って、『深淵』の『影』として学ぶことになるだろう。
そのつもりでいるように……と、フウエンが言っていた。
三人がバラバラになる。
それだけでも、リオーネ……ハヤテの心は張り裂けそうだ。
バラバラになるだけでなく、『深淵』の『影』でもなんでもない、全く別の人間たちが、ズカズカと三人の中に入り込んでくる。
めまぐるしく世界が変わっていく。
エルトの目には、それがどのような世界に見えているのだろうか?
大切にしていた雛鳥の巣立ちを見守るような、しんみりとした心境に浸っていたリオーネの目の端に、一心不乱にギルドカードを見ながら歩いているナニの姿が映り込む。
「はぁ……」
リオーネの口からため息が漏れる。
こっちも、こっちで問題がてんこもりだ。
フィリアとは手をつないで、また膝の上に載せてもらって、ぎゅっとしてもらって、頭をなでてもらったり、おしゃべりをしたり……もっと、もっと色々なことをしてみたい……。してほしい。
とうさんがいつもやってくれる『嬉しいこと』を、フィリアにもやってほしいとエルトは思った。
フィリアのことを考えると、冷たく凍えるような全身が、じんわりと温かくなって、活力がわきでてくるようだった。
その反応にリオーネは嬉しそうに笑った。エルトの頭を思いっきりぐしゃぐしゃにかきまわす。
「今、おれは、エルトが『リーダーにまた会ってみたい』と思っていることが、すごく『嬉しい』んだ」
「嬉しいの?」
「ああ。嬉しい」
真剣な表情で、強く、はっきりとした声で、リオーネがエルトに言い聞かせる。
「……ぼくも、リオーネが嬉しいんなら、嬉しいよ」
ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手櫛で戻しながら、エルトは自分の胸の奥がなんだかポカポカするのを感じていた。
だけど……と、エルトは心のなかで問い返す。
フィリアの膝の上に座らせてもらったときは、胸の奥はぽかぽかしなかった。
だったら、それは『嬉しい』ではないのかもしれない。
胸の奥はとてもドキドキしていた。
あのドキドキはどんなドキドキだっただろうか。と考えてみる。
訓練中に感じるドキドキではない。
課題の結果を聞くときのドキドキでもない。
悪戯が見つかって、隠れていたときのドキドキ。
できなかったことができるようになり、大人たちから「よくがんばったな」と言われて、頭を丁寧に撫でてもらったときのドキドキ。
色々なドキドキがあったが、そのどれとも違うドキドキだった。
なんだろう。
体内の魔力が落ち着きなくざわついている感覚に、エルトは小首をかしげる。
冒険者ギルドをでてから、身体の調子が今までにないくらいとてもいい。いつもはギリギリしか残っていない魔力が、増えた感じがする……。身体も軽い。
「……また会えたらわかるかな?」
淡々と紡がれた言葉ではなく、そこには少しだけ感情が見え隠れしていた。
「……そうだな、わかるといいよな」
今までにはなかったエルトの反応に、リオーネは喜びを感じると同時に、悔しくも思っていた。
胸がチクリと痛む。
その痛みは小さなものだったが、心の深いところにまで、抜けない棘のように突き刺さる。
出会って数分、いや瞬間にエルトの警戒心を解き、いとも簡単に触れ合いを許しただけでなく、また会いたいと言わせた存在に、兄としてはいささか嫉妬してしまう。
今の落ち着いている状態と、五年前の荒れていた状態で比べるのは間違っている。
だとしても、傷ついたエルトの心を開くのに、『深淵』の保護者達がどれだけ骨を折り、血を流し、苦労してきたかを……すぐ側で見ていただけに驚きが大きい。
今までは三人一緒に行動していた。
寝るときも一緒、訓練をうけるときも一緒、怒られるときも、褒められるときも、三人が一緒だった。
だが、その『三人一緒』の関係がゆっくりと、じわじわと崩れてきていた。
三人一緒の訓練に加え、ハヤテとカフウだけを対象にしたものが新たに増えはじめる。
これから先は、剣術が得意なハヤテと魔法を得意とするカフウは、別の『影』に従って、『深淵』の『影』として学ぶことになるだろう。
そのつもりでいるように……と、フウエンが言っていた。
三人がバラバラになる。
それだけでも、リオーネ……ハヤテの心は張り裂けそうだ。
バラバラになるだけでなく、『深淵』の『影』でもなんでもない、全く別の人間たちが、ズカズカと三人の中に入り込んでくる。
めまぐるしく世界が変わっていく。
エルトの目には、それがどのような世界に見えているのだろうか?
大切にしていた雛鳥の巣立ちを見守るような、しんみりとした心境に浸っていたリオーネの目の端に、一心不乱にギルドカードを見ながら歩いているナニの姿が映り込む。
「はぁ……」
リオーネの口からため息が漏れる。
こっちも、こっちで問題がてんこもりだ。
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