83 / 222
ちびっ子は冒険者編(2)
ちゃんとギルドの説明を聞いてたか?
しおりを挟む
まあ、終始そんな調子で、長々とルール説明が続いたのだ。
あまりにも長い説明で、内容は覚えていない。思い出せない。
冒険者登録の立会人になるのは面倒だから嫌だと『赤い鳥』が言っていたのは、この長々とした説明を一緒に(神妙な顔をして)聞かなければならないからだろう、とリオーネことハヤテは思った。
あんな長い説明をじっと聞き続けないといけないのなら、自分だったら、立会人にはなりたくない。あれは嫌がらせレベルだ。
立会人がいなければ、説明不要と言い切って逃げることもできたらしいが、立会人がいたので、最後まで受付嬢の説明に付き合うこととなったのである。
己の運の悪さ、フィリアのおせっかいにリオーネは苛立ちを募らせる。
「ナニとエルトは、ちゃんとギルドの説明を聞いてたか? おれは聞いてなかったからな!」
堂々と宣言することでもないのだが、念のためにリオーネは宣言する。
「……一応、聞いてたよ……」
明後日の方向を向きながら、エルトが答える。
(あ、これは、意識が別の方にいってたってやつだな)
人肌のぬくもりにほだされて、フィリアの膝の上で、うつらうつらしていたエルトの姿を思い出す。
エルト――セイラン――はギンフウの膝の上でもよく眠っていたが、さっきもほぼそれと同じだった。
無防備な寝姿が可愛いな、とは思ったが、アレでは聞いているはずがない。
「冒険者規則に書かれている内容以上の説明はなかった。真面目に聞くだけ無駄」
ナニは容赦なくばっさりと切り捨てる。
(受付の姉ちゃんが可哀そう……)
自分も全く聞いていなかったことは棚にあげ――あの巨乳に両側から挟まれた状況で聞けるはずもないのだが――ペルナを哀れに思うリオーネであった。
****
ナニとエルトがちゃんとついてきているのを確認しながら、リオーネはできるだけ賑やかな通りをさけて、人通りの少ない路地を選んで進んでいく。
冒険者ギルド内では、ちょっとばかり失敗して目立ってしまった。保護者たちからはできるだけ目立たないように行動しろ、と釘をさされている。
もう、これ以上、無駄に目立ってはいけない……。
「リオにぃは、お姉さんたちに挟まれて、嬉しかった……?」
「――――!」
予想していなかったエルトの質問に、リオーネが狼狽える。
「……いや、あれは、ちょっと……。嬉しいってことじゃない。柔らかくて、いい匂いがして、気持ちよ……いや、いや、息ができなくて……困ったってとこかなぁ。そう。『困った』だ! 嬉しかったのは、エルトの方だろう?」
リオーネの言葉にエルトは沈黙し、しばし考え込む。
「あれが、嬉しいってこと?」
「違うのか?」
「違わないの?」
こてんと首を傾けたときに前髪が揺れ、美しく整った顔が、頭二つ、いや三つ分、背の高いリオーネを見上げる。
濡れた黒い瞳は、どこまでも深くて底が見えず、虚ろで、感情という光がない。
見慣れているはずなのだが、真正面から見られると、どうも落ち着かなくなる。
エルトは、もう少し、前髪の量を増やした方がよいのではないか、と、全く関係ないことをリオーネは考えてしまう。
「エルトは、アノ『赤い鳥』のリーダーと一緒にいて、嫌だったか?」
少しの間があったが、リオーネの質問にエルトは「嫌じゃなかった」とふるふると首を横に振る。
「いつものエルトなら、『わからない』って答えてたと思うぞ」
「…………そうだね」
「エルトは、また、あのリーダーに会ってみたいと思うか?」
「思う」
今度は即答だった。
エルトの頬がほんのりと紅く上気している。
そういえば、エルトの顔色がいつもよりもいい。白磁器のように真っ白だった顔に生気の色がにじんでいる。
あまりにも長い説明で、内容は覚えていない。思い出せない。
冒険者登録の立会人になるのは面倒だから嫌だと『赤い鳥』が言っていたのは、この長々とした説明を一緒に(神妙な顔をして)聞かなければならないからだろう、とリオーネことハヤテは思った。
あんな長い説明をじっと聞き続けないといけないのなら、自分だったら、立会人にはなりたくない。あれは嫌がらせレベルだ。
立会人がいなければ、説明不要と言い切って逃げることもできたらしいが、立会人がいたので、最後まで受付嬢の説明に付き合うこととなったのである。
己の運の悪さ、フィリアのおせっかいにリオーネは苛立ちを募らせる。
「ナニとエルトは、ちゃんとギルドの説明を聞いてたか? おれは聞いてなかったからな!」
堂々と宣言することでもないのだが、念のためにリオーネは宣言する。
「……一応、聞いてたよ……」
明後日の方向を向きながら、エルトが答える。
(あ、これは、意識が別の方にいってたってやつだな)
人肌のぬくもりにほだされて、フィリアの膝の上で、うつらうつらしていたエルトの姿を思い出す。
エルト――セイラン――はギンフウの膝の上でもよく眠っていたが、さっきもほぼそれと同じだった。
無防備な寝姿が可愛いな、とは思ったが、アレでは聞いているはずがない。
「冒険者規則に書かれている内容以上の説明はなかった。真面目に聞くだけ無駄」
ナニは容赦なくばっさりと切り捨てる。
(受付の姉ちゃんが可哀そう……)
自分も全く聞いていなかったことは棚にあげ――あの巨乳に両側から挟まれた状況で聞けるはずもないのだが――ペルナを哀れに思うリオーネであった。
****
ナニとエルトがちゃんとついてきているのを確認しながら、リオーネはできるだけ賑やかな通りをさけて、人通りの少ない路地を選んで進んでいく。
冒険者ギルド内では、ちょっとばかり失敗して目立ってしまった。保護者たちからはできるだけ目立たないように行動しろ、と釘をさされている。
もう、これ以上、無駄に目立ってはいけない……。
「リオにぃは、お姉さんたちに挟まれて、嬉しかった……?」
「――――!」
予想していなかったエルトの質問に、リオーネが狼狽える。
「……いや、あれは、ちょっと……。嬉しいってことじゃない。柔らかくて、いい匂いがして、気持ちよ……いや、いや、息ができなくて……困ったってとこかなぁ。そう。『困った』だ! 嬉しかったのは、エルトの方だろう?」
リオーネの言葉にエルトは沈黙し、しばし考え込む。
「あれが、嬉しいってこと?」
「違うのか?」
「違わないの?」
こてんと首を傾けたときに前髪が揺れ、美しく整った顔が、頭二つ、いや三つ分、背の高いリオーネを見上げる。
濡れた黒い瞳は、どこまでも深くて底が見えず、虚ろで、感情という光がない。
見慣れているはずなのだが、真正面から見られると、どうも落ち着かなくなる。
エルトは、もう少し、前髪の量を増やした方がよいのではないか、と、全く関係ないことをリオーネは考えてしまう。
「エルトは、アノ『赤い鳥』のリーダーと一緒にいて、嫌だったか?」
少しの間があったが、リオーネの質問にエルトは「嫌じゃなかった」とふるふると首を横に振る。
「いつものエルトなら、『わからない』って答えてたと思うぞ」
「…………そうだね」
「エルトは、また、あのリーダーに会ってみたいと思うか?」
「思う」
今度は即答だった。
エルトの頬がほんのりと紅く上気している。
そういえば、エルトの顔色がいつもよりもいい。白磁器のように真っ白だった顔に生気の色がにじんでいる。
1
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を
自分の世界へと召喚した。
召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと
願いを託す。
しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、
全く向けられていなかった。
何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、
将来性も期待性もバッチリであったが...
この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。
でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか?
だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を
俺に投げてくる始末。
そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と
罵って蔑ろにしてきやがる...。
元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで
最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
出ようとした瞬間...
「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」
...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。
※小説家になろう様でも掲載しています。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
追放シーフの成り上がり
白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。
前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。
これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。
ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。
ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに……
「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。
ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。
新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。
理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。
そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。
ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。
それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。
自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。
そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」?
戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
おっさん鍛冶屋の異世界探検記
モッチー
ファンタジー
削除予定でしたがそのまま修正もせずに残してリターンズという事でまた少し書かせてもらってます。
2部まで見なかった事にしていただいても…
30超えてもファンタジーの世界に憧れるおっさんが、早速新作のオンラインに登録しようとしていたら事故にあってしまった。
そこで気づいたときにはゲーム世界の鍛冶屋さんに…
もともと好きだった物作りに打ち込もうとするおっさんの探検記です
ありきたりの英雄譚より裏方のようなお話を目指してます
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる