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ちびっ子は冒険者編(2)

ちゃんとギルドの説明を聞いてたか?

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 まあ、終始そんな調子で、長々とルール説明が続いたのだ。
 あまりにも長い説明で、内容は覚えていない。思い出せない。
 
 冒険者登録の立会人になるのは面倒だから嫌だと『赤い鳥』が言っていたのは、この長々とした説明を一緒に(神妙な顔をして)聞かなければならないからだろう、とリオーネことハヤテは思った。

 あんな長い説明をじっと聞き続けないといけないのなら、自分だったら、立会人にはなりたくない。あれは嫌がらせレベルだ。

 立会人がいなければ、説明不要と言い切って逃げることもできたらしいが、立会人がいたので、最後まで受付嬢の説明に付き合うこととなったのである。

 己の運の悪さ、フィリアのおせっかいにリオーネは苛立ちを募らせる。

「ナニとエルトは、ちゃんとギルドの説明を聞いてたか? おれは聞いてなかったからな!」

 堂々と宣言することでもないのだが、念のためにリオーネは宣言する。

「……一応、聞いてたよ……」

 明後日の方向を向きながら、エルトが答える。

(あ、これは、意識が別の方にいってたってやつだな)

 人肌のぬくもりにほだされて、フィリアの膝の上で、うつらうつらしていたエルトの姿を思い出す。
 エルト――セイラン――はギンフウの膝の上でもよく眠っていたが、さっきもほぼそれと同じだった。
 無防備な寝姿が可愛いな、とは思ったが、アレでは聞いているはずがない。

「冒険者規則に書かれている内容以上の説明はなかった。真面目に聞くだけ無駄」

 ナニは容赦なくばっさりと切り捨てる。

(受付の姉ちゃんが可哀そう……)

 自分も全く聞いていなかったことは棚にあげ――あの巨乳に両側から挟まれた状況で聞けるはずもないのだが――ペルナを哀れに思うリオーネであった。

 ****

 ナニとエルトがちゃんとついてきているのを確認しながら、リオーネはできるだけ賑やかな通りをさけて、人通りの少ない路地を選んで進んでいく。

 冒険者ギルド内では、ちょっとばかり失敗して目立ってしまった。保護者たちからはできるだけ目立たないように行動しろ、と釘をさされている。

 もう、これ以上、無駄に目立ってはいけない……。

「リオにぃは、お姉さんたちに挟まれて、嬉しかった……?」
「――――!」

 予想していなかったエルトの質問に、リオーネが狼狽える。

「……いや、あれは、ちょっと……。嬉しいってことじゃない。柔らかくて、いい匂いがして、気持ちよ……いや、いや、息ができなくて……困ったってとこかなぁ。そう。『困った』だ! 嬉しかったのは、エルトの方だろう?」

 リオーネの言葉にエルトは沈黙し、しばし考え込む。

「あれが、嬉しいってこと?」
「違うのか?」
「違わないの?」

 こてんと首を傾けたときに前髪が揺れ、美しく整った顔が、頭二つ、いや三つ分、背の高いリオーネを見上げる。

 濡れた黒い瞳は、どこまでも深くて底が見えず、虚ろで、感情という光がない。
 見慣れているはずなのだが、真正面から見られると、どうも落ち着かなくなる。

 エルトは、もう少し、前髪の量を増やした方がよいのではないか、と、全く関係ないことをリオーネは考えてしまう。

「エルトは、アノ『赤い鳥』のリーダーと一緒にいて、嫌だったか?」

 少しの間があったが、リオーネの質問にエルトは「嫌じゃなかった」とふるふると首を横に振る。

「いつものエルトなら、『わからない』って答えてたと思うぞ」
「…………そうだね」
「エルトは、また、あのリーダーに会ってみたいと思うか?」
「思う」

 今度は即答だった。
 エルトの頬がほんのりと紅く上気している。
 そういえば、エルトの顔色がいつもよりもいい。白磁器のように真っ白だった顔に生気の色がにじんでいる。
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