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ちびっ子は冒険者編(1)
これからみなさんに登録用紙をお配りします★
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ぶうぶう騒ぎ立てる魔術師と回復術師は視界の外に追いやり、ペルナは子どもたちへと視線を落とす。
「では、これから登録作業を開始します。準備をしますので、少々お待ちくださいね」
厳かに告げると、ペルナは奥の事務室へといったん下がった。
子どもたちは大人しい。
同年の孤児院の子どもたちと比べると、妙に落ち着いている。
ペルナが退出し、しばらく待っていると衝立の向こう側から、バタバタと騒々しい音に混じって「あれがない」「これはどこにやった」「ここに置いたはずだ」「久しぶりすぎてわからない」など、なにやら不穏な科白が聞こえてきた。
「……………………」
「トラブルかしら?」
「たしか少々って言ってたわよね?」
「アレは……時間がかかるな」
なんともいたたまれない空気が、受付カウンターに充満する。
「冒険者ギルドって……」
リオーネの表情がくしゃりと歪む。
胡散臭いものを見るような目で、衝立を睨みつける。
冒険者ギルドに対する不信感を隠そうともしない。
残りの子どもたちは顔を隠しているので、表情をうかがうことはできないが、リオーネとかわらない表情を浮かべていることくらい容易に想像できる。
「みんな、心配しないで。だ、大丈夫だよ。たぶんだけど……」
「そ、そうだろうな……。久しぶりの冒険者登録にとまどっているだけだろうよ。と、とりあえず、ここは帝都の冒険者ギルドだ。そうそう間違いはないだろう」
「……………………」
フィリアとパーティーメンバーでは最年長者になるフロルが、フォローにならないフォローをする。
子どもたちからの反応はなかった。
ただ、リオーネの突き刺すような視線がさらに、威力を増しただけだった。
****
そうこうしている間に、ペルナが何事もなかったような顔をして、事務エリアから戻ってきた。
舞台裏のゴタゴタは決して見せない。
そこはさすが、帝都ギルドの受付嬢である。呆れ返るくらい立ち直りが早い。
ペルナは革の手袋をし、細かな魔法陣が刻まれた書類箱を持っていた。革の手袋にも魔法陣が刺繡されている。
(どちらも、魔素遮断の魔道具……)
今まで退屈そうにしていたナニの表情に生気が戻る。フードの下から見える緑の目がキラリと鋭い輝きを放っていた。
「えー。お待たせして申し訳ございません」
尻尾を左右にゆらゆらと振りながら、ペルナが恥ずかしそうに頭を下げる。猫耳がピクピク動く。
「これからみなさんに登録用紙をお配りします」
ペルナの宣言に、いままでだらんとしていた子どもたちの様子が変化する。シャキンと背筋を伸ばし、受付嬢を見上げる。
「登録用紙は、自分以外の人には触らせないでくださいね。他人の魔素を読み込んでしまって、正確な情報が登録できなくなります。エルトちゃんを抱っこしているフィリアさんは……ご自分の魔力が漏れないように注意してください」
「わかっているから安心して。そんなヘマはしないよ」
にっこり笑って応えるフィリア。
と、同時に、子どもたちにペタペタくっついて遊んでいたミラーノとエリーが、静かに離れた。ギルたちがいる場所まで後退する。
ペルナはそれぞれの位置を満足げに確認すると、書類箱を開け、中から水晶のようなもので作られた、ランプのようなものをとりだした。
手慣れた動作でスイッチを入れる。
キュルキュルという音をたてながら、ランプのようなものが、淡い虹色に輝きはじめる。
「ナニ……アレはなんだ?」
「空気中にある魔素を遮断する、簡易結界装置。ちなみに使い捨て」
「…………?」
綺麗……と、うっとりしながら、ナニはリオーネの質問に答える。
(よく知っているな……)
賢そうな子だとは思っていたが、フィリアの想像以上にナニは色々なことを知っているようだ。
リオーネにナニの言葉は理解できなかったようだが、場の雰囲気がそれ以上の私語を封じる。
「では、これから登録作業を開始します。準備をしますので、少々お待ちくださいね」
厳かに告げると、ペルナは奥の事務室へといったん下がった。
子どもたちは大人しい。
同年の孤児院の子どもたちと比べると、妙に落ち着いている。
ペルナが退出し、しばらく待っていると衝立の向こう側から、バタバタと騒々しい音に混じって「あれがない」「これはどこにやった」「ここに置いたはずだ」「久しぶりすぎてわからない」など、なにやら不穏な科白が聞こえてきた。
「……………………」
「トラブルかしら?」
「たしか少々って言ってたわよね?」
「アレは……時間がかかるな」
なんともいたたまれない空気が、受付カウンターに充満する。
「冒険者ギルドって……」
リオーネの表情がくしゃりと歪む。
胡散臭いものを見るような目で、衝立を睨みつける。
冒険者ギルドに対する不信感を隠そうともしない。
残りの子どもたちは顔を隠しているので、表情をうかがうことはできないが、リオーネとかわらない表情を浮かべていることくらい容易に想像できる。
「みんな、心配しないで。だ、大丈夫だよ。たぶんだけど……」
「そ、そうだろうな……。久しぶりの冒険者登録にとまどっているだけだろうよ。と、とりあえず、ここは帝都の冒険者ギルドだ。そうそう間違いはないだろう」
「……………………」
フィリアとパーティーメンバーでは最年長者になるフロルが、フォローにならないフォローをする。
子どもたちからの反応はなかった。
ただ、リオーネの突き刺すような視線がさらに、威力を増しただけだった。
****
そうこうしている間に、ペルナが何事もなかったような顔をして、事務エリアから戻ってきた。
舞台裏のゴタゴタは決して見せない。
そこはさすが、帝都ギルドの受付嬢である。呆れ返るくらい立ち直りが早い。
ペルナは革の手袋をし、細かな魔法陣が刻まれた書類箱を持っていた。革の手袋にも魔法陣が刺繡されている。
(どちらも、魔素遮断の魔道具……)
今まで退屈そうにしていたナニの表情に生気が戻る。フードの下から見える緑の目がキラリと鋭い輝きを放っていた。
「えー。お待たせして申し訳ございません」
尻尾を左右にゆらゆらと振りながら、ペルナが恥ずかしそうに頭を下げる。猫耳がピクピク動く。
「これからみなさんに登録用紙をお配りします」
ペルナの宣言に、いままでだらんとしていた子どもたちの様子が変化する。シャキンと背筋を伸ばし、受付嬢を見上げる。
「登録用紙は、自分以外の人には触らせないでくださいね。他人の魔素を読み込んでしまって、正確な情報が登録できなくなります。エルトちゃんを抱っこしているフィリアさんは……ご自分の魔力が漏れないように注意してください」
「わかっているから安心して。そんなヘマはしないよ」
にっこり笑って応えるフィリア。
と、同時に、子どもたちにペタペタくっついて遊んでいたミラーノとエリーが、静かに離れた。ギルたちがいる場所まで後退する。
ペルナはそれぞれの位置を満足げに確認すると、書類箱を開け、中から水晶のようなもので作られた、ランプのようなものをとりだした。
手慣れた動作でスイッチを入れる。
キュルキュルという音をたてながら、ランプのようなものが、淡い虹色に輝きはじめる。
「ナニ……アレはなんだ?」
「空気中にある魔素を遮断する、簡易結界装置。ちなみに使い捨て」
「…………?」
綺麗……と、うっとりしながら、ナニはリオーネの質問に答える。
(よく知っているな……)
賢そうな子だとは思っていたが、フィリアの想像以上にナニは色々なことを知っているようだ。
リオーネにナニの言葉は理解できなかったようだが、場の雰囲気がそれ以上の私語を封じる。
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