53 / 222
ちびっ子は冒険者編(1)
アソコはだめだ!
しおりを挟む
「イテっ!」
と、突然、重戦士が頭を押さえる。
(にゃ、にゃんてこと! にゃんてことするにゃん!)
ペルナは心の中で黄色くない方の悲鳴をあげる。
なんと、フードを被った少女が、ギルの頭を杖で殴ったのである。
ポカっという、なんとも軽そうないい音が聞こえた。
フィリアの顔からすっと笑顔が消えた。
柔らかかった目元が、剣先のように鋭く細くなる。
(ま、ま、まずいにゃん!)
赤髪の少年の顔が固まり、黒髪の女の子の肩がびくりと震えた。
和やかだった空気が一変し、一同の動きが緊張のために静止する。
「な、なにをするんだ?」
咎めるギルの声は、場違いなほど穏やかだった。いきなり子どもを怒鳴りつけることはしない。
硬直していた時間が動き出す。
ペルナは止めていた息をそっと吐きだした。
フィリアの表情も、元に戻っている。
音の軽さからして、それほどダメージはなかったのだろう。
怒るというよりは、少女の突然の行動の意味がわからず、ギルはとまどっているようだった。
「エッチ」
「は…………?」
「ロリコンが胸をさわった」
「ロ、ろ、いや、……む、む、ムネって、こんなガ……いや、子どものペタンコな……ぐえっ」
今度は「バッキっ」という大きな音がして、杖がギルの顎にめりこむ。
(クリティカルヒットだ)
その場にいた全員が同じことを思う。
予想していなかった痛みに、ギルは巨体をくの字に折り曲げ、その場にうずくまってしまった。かすかだが、うめき声が聞こえた。
痛みよりも、別のダメージが彼の心を砕いた瞬間である。
「だめだよ! ナニ! アソコはだめだ!」
「ナニねー、…めっ!」
杖を振り上げ、さらに攻撃を加えようとする魔術師の少女を、両隣の子どもたちが慌てて制する。
(あ、アソコって、どこにゃ――っ!)
笑顔を崩さず、ペルナは心の中でツッコミをいれる。
アソコとは、たぶん、アソコのことだろう……。男性が大事にしているアソコしか思い浮かばない。
フィリアもペルナと同じようなことを想像したのか、なんとも表現しがたい微妙な表情になっている。
重戦士のギルはパーティーの盾役で、上級冒険者である。
さらに詳しくいうならば、昇級試験の真っ最中だ。つまり、超級冒険者の一歩手前のベテラン上級冒険者だ。
重戦士は防御に関するステータスは高く、痛みに対する耐性もある。
むしろ、人よりも痛みに鈍い性質だからこそ盾役をやっていたし、経験を重ねることで、さらに痛みへの耐性を身に着けていた。……はずだった。
子どもだと油断していたとはいえ、痛みに悶絶している姿をみるに、もし、あの『攻撃』が『アソコ』とやらにヒットすることを考えると、女性であるペルナでさえも、色々な観点から、ちょっとした恐怖を感じてしまう。
普通の冒険者なら、ここで確実に乱闘騒ぎに突入する。
しかし、相手がアノ『赤い鳥』のメンバーだったのが幸いした。
「……ゴメン。うちの重戦士が、失礼なことをしてしまったね。レディに配慮がたりなかったよ。許してもらえるかな?」
フィリアはゆっくりとした動作で膝を折り、子どもたちの目の高さに己の視線を合わせた。
神妙な表情で子どもたちに向かい合う。
相手は子どもだけど、ひとりの人として尊重する大人の対応だった。
ギルも赤くなった顎をさすりながら、同じように腰を落として頭を垂れた。
さすがはギルド長の愛弟子たちである。『幼い子どもを相手に乱闘騒ぎ』は彼らの選択肢にはない。
と、突然、重戦士が頭を押さえる。
(にゃ、にゃんてこと! にゃんてことするにゃん!)
ペルナは心の中で黄色くない方の悲鳴をあげる。
なんと、フードを被った少女が、ギルの頭を杖で殴ったのである。
ポカっという、なんとも軽そうないい音が聞こえた。
フィリアの顔からすっと笑顔が消えた。
柔らかかった目元が、剣先のように鋭く細くなる。
(ま、ま、まずいにゃん!)
赤髪の少年の顔が固まり、黒髪の女の子の肩がびくりと震えた。
和やかだった空気が一変し、一同の動きが緊張のために静止する。
「な、なにをするんだ?」
咎めるギルの声は、場違いなほど穏やかだった。いきなり子どもを怒鳴りつけることはしない。
硬直していた時間が動き出す。
ペルナは止めていた息をそっと吐きだした。
フィリアの表情も、元に戻っている。
音の軽さからして、それほどダメージはなかったのだろう。
怒るというよりは、少女の突然の行動の意味がわからず、ギルはとまどっているようだった。
「エッチ」
「は…………?」
「ロリコンが胸をさわった」
「ロ、ろ、いや、……む、む、ムネって、こんなガ……いや、子どものペタンコな……ぐえっ」
今度は「バッキっ」という大きな音がして、杖がギルの顎にめりこむ。
(クリティカルヒットだ)
その場にいた全員が同じことを思う。
予想していなかった痛みに、ギルは巨体をくの字に折り曲げ、その場にうずくまってしまった。かすかだが、うめき声が聞こえた。
痛みよりも、別のダメージが彼の心を砕いた瞬間である。
「だめだよ! ナニ! アソコはだめだ!」
「ナニねー、…めっ!」
杖を振り上げ、さらに攻撃を加えようとする魔術師の少女を、両隣の子どもたちが慌てて制する。
(あ、アソコって、どこにゃ――っ!)
笑顔を崩さず、ペルナは心の中でツッコミをいれる。
アソコとは、たぶん、アソコのことだろう……。男性が大事にしているアソコしか思い浮かばない。
フィリアもペルナと同じようなことを想像したのか、なんとも表現しがたい微妙な表情になっている。
重戦士のギルはパーティーの盾役で、上級冒険者である。
さらに詳しくいうならば、昇級試験の真っ最中だ。つまり、超級冒険者の一歩手前のベテラン上級冒険者だ。
重戦士は防御に関するステータスは高く、痛みに対する耐性もある。
むしろ、人よりも痛みに鈍い性質だからこそ盾役をやっていたし、経験を重ねることで、さらに痛みへの耐性を身に着けていた。……はずだった。
子どもだと油断していたとはいえ、痛みに悶絶している姿をみるに、もし、あの『攻撃』が『アソコ』とやらにヒットすることを考えると、女性であるペルナでさえも、色々な観点から、ちょっとした恐怖を感じてしまう。
普通の冒険者なら、ここで確実に乱闘騒ぎに突入する。
しかし、相手がアノ『赤い鳥』のメンバーだったのが幸いした。
「……ゴメン。うちの重戦士が、失礼なことをしてしまったね。レディに配慮がたりなかったよ。許してもらえるかな?」
フィリアはゆっくりとした動作で膝を折り、子どもたちの目の高さに己の視線を合わせた。
神妙な表情で子どもたちに向かい合う。
相手は子どもだけど、ひとりの人として尊重する大人の対応だった。
ギルも赤くなった顎をさすりながら、同じように腰を落として頭を垂れた。
さすがはギルド長の愛弟子たちである。『幼い子どもを相手に乱闘騒ぎ』は彼らの選択肢にはない。
1
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。


王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる