上 下
52 / 222
ちびっ子は冒険者編(1)

ちょっとまって

しおりを挟む
(まずいにゃ。まずいにゃ!)

 顔は余裕をかもしだす微笑みの形を保ちながら、頭のなかはフル稼働で考える。

(久々の登録業務にゃのに……なんてことにゃん!)

 子どもたちを前に心躍るが、子どもたちが冒険者になることは、断固として阻止しなければならない。

(この子たちを、毒牙からまもらにゃいといけないにゃん!)

 と、脳内会議の末、ペルナは苦渋の判断をする。

(間違いにゃく、お帰りをお願いする案件だにゃん!)

 ペルナの顔が悲壮な決意で歪む。とても残念だけど、子どもたちを護るためには仕方がない。
 我欲を断ち切り、子どもたちのために英断を下した自分を褒めてほしい。
 
(とはいえ、どうしたらいいにゃ?)

 ペルナはカウンターの向こう側で行儀よく並んでいる子どもたちを眺める。
 この……冒険者になりたくてたまらない若干一名を含む子たちを、どう説得したらよいのか。
 どのような言葉で、冒険者登録をあきらめさせようか思い悩む。

 同僚が休んでいなければ、数と大人の勢いで押し切ることもできただろうが、受付嬢になってから初めてのケースに、ペルナは困惑してしまう。

「あ、あのっ! 冒険者登録が……したいんですっ」

 ペルナの反応がないのにしびれを切らした赤髪の少年が、ぴょんぴょん飛び跳ねながら存在をアピールしはじめる。

「え。ええっと……」

 助け舟を求めて視線を彷徨わせるが、同僚はいない。
 風邪をひいたり、親戚の結婚式に参加していたり、実家に戻っていたり、階段から落ちたりしている。

 困り果てたペルナの耳に、新しい声が聞こえた。
 
「……ちょっとまって。そのままじゃあ、話しづらいよね。キミたちはこれを使うといいよ」

 爽やかな笑いを含んだ声に、黄色い悲鳴が喉元まででかかるが、口を閉じて飲み込む

(きゅ、救世主! いや、神様のご降臨にゃああああっっ!)

 狂喜乱舞したいのを必死に堪え、ペルナは声の主をキラキラした目で見つめる。

 子どもたちもその声に反応し、後ろを向いていた。
 後ろ姿も文句なしにかわいい。とペルナは子どもたちと救世主を交互に見比べる。

 ペルナの視線の先には、木箱を抱えたフィリアと彼の幼馴染のギルがいた。

 ふたりはゆっくりと受付カウンターの方へ近づいてくる。

 足音はない。
 重戦士ギルはごっつい鎧を着込んでいるのだが、金属がガチャガチャぶつかり合うような、下品な音はたてない。さすが、昇格目前の上級冒険者である。

 流れるようなよどみのない動作でフィリアはひとつ、ギルはふたつ、大きめの木箱をカウンターの前に並べる。
 ふたりの息はぴったりだ。

「これはね、小人族が受付で使う踏み台だよ。こうすると、話しやすいだろ?」

 フィリアはにこやかに、爽やかな笑顔を保ちながら、赤髪の少年を軽々と抱き上げ、木箱の上にのせた。少年の顔がぐっとペルナの方に近くなる。

 フードを被った女の子、黒髪の少女は、ギルの手で箱の上の人となった。

「う――ん。これでも、まだ足りなかったか……」

 フィリアが顎に手をやりながら、ひとりごちる。

 視線の先は、子どものひとりに向いている。

 黒髪の女の子には、木箱の高さが少し足りなかったようだ。ほかのふたりとちがって、カウンターの上に額ががちょこっとでているだけだった。
 背伸びをしている女の子の頬がみるみる赤くなっていく。

 ペルナの方からはカウンターが邪魔をして見ることができないが、懸命につま先立ちして、足をプルプル震わせている光景が見えたような気がした。

 なんだか、ほっこりとする光景である。
 頬が緩み、口元がにやつくのを止めることができない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

捨てられると思ったけど違うみたいで

一色
ファンタジー
騎士の家系で育っているのに持っているのは全く関係のない方向のスキル??廃嫡されてしまうと思いきやなんだか違うようで…

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~

K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。 次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。 生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。 …決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

処理中です...