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ちびっ子は冒険者編(1)
冒険者ギルドの建物を見ていると
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セイランの適度な相槌が年上のふたりを満足させ、さらに饒舌にさせる。
「冒険者ギルド本棟の防御力は特にすごい。帝都内でいえば、皇帝の居城である皇城、魔術師ギルドの研究所である魔塔の次。つまり、帝都で三本の指に入る、抜群の防御力を誇る建物」
「なんてったって、対ドラゴンを想定して建造された建物だからな」
「う……うん?」
敵意を持ったドラゴンが、帝都内部にまで侵入できるものか、その前に討伐されているんじゃないのかな……とセイランは疑問に思ったが、そこは素直に頷いておいた。
「なにしろ、冒険者ギルドは、有事の際の帝都民たちの避難所にも指定されているくらいだからな。防御力はすごいんだって」
「でも、帝都民たちの『避難先に選びたい場所ランキング』にはランクインされていないのが微妙」
ハヤテとカフウの説明に、セイランはなるほどと頷く。
帝都に危害を加える存在は、なにもドラゴンだけではないだろう。
とりあえず、冒険者ギルドはちょっとやそっとのことでは壊れない、ということはふたりの説明でよくわかった。
「だったら、とうさんが住んでいる場所はどうなの?」
「…………」
ハヤテが困ったような顔で口を閉じると、カフウに救いを求めるような視線を送った。
とうさんが大好きでたまらないセイランにどう答えてよいものなのか、自分よりも思慮深くて頭の良い妹へ、その役目をそっと押しつける。
「……あそこは特別。そもそも建物ですらない。比べること自体、愚かで間違っている。ただ……ヒトが住まう場所で考えるのなら、帝国内では皇城と張り合うことができる一番すごくて、一番ひどい場所」
無邪気なセイランの質問に、カフウは淡々とした態度で答える。
「…………? いちばんすごい場所にとうさんは住んでいるの? じゃあ、とうさんがいちばんすごいんだね」
「…………」
無邪気なセイランの言葉に、今度はふたりともが黙ってしまった。
だが、初めて見る冒険者ギルドの建物に興奮しているセイランは、ふたりの沈んだ表情には気づかない。
「冒険者ギルドの建物を見ていると、胸がとっても……ドキドキしてくるね……」
「そうか。きっと、それは、これから起こることに、セイランは期待しているんじゃないかな? ワクワクしているんだよ」
「ワクワク?」
ハヤテの説明にセイランは首を傾ける。
その拍子に前髪がサラリと揺れて、セイランの少女のように美しく整った顔が見え隠れする。
黒く濡れた瞳は、不思議そうにハヤテを見つめていた。
「これからどんなことが起こるのか、とか、こんなことが起こったらいいのにな、とか、色々考えると、胸がドキドキしてくるんだよ」
「未訪問の場所だから緊張して、心拍数があがっている……ともいう」
「カフウ……身も蓋もないな。もうちょっと、アレだ。わかりやすくセイランに教えてやれよ」
「大丈夫。セイランは理解できている」
兄と姉の視線を受けて、セイランは大きくうなずいた。
「うん。ボク、カフねーの言うコト、ちゃんと理解できたよ?」
「ホントウか? 難しすぎないか?」
「わかっているよ。ボクは初めての場所、初めてのミッションで、プレッシャーを感じているんだよね?」
少女の格好をした少年のしっかりとした返事に、ハヤテは慌てながらも頷く。
「お、おぅ。そうだ。ちゃんと……セイランはわかっているじゃないか」
「セイランはハヤテにぃよりも優秀だから当然」
「それもわかってるって……」
カフウのトゲトゲした言葉は軽く受け流す。
「冒険者ギルド本棟の防御力は特にすごい。帝都内でいえば、皇帝の居城である皇城、魔術師ギルドの研究所である魔塔の次。つまり、帝都で三本の指に入る、抜群の防御力を誇る建物」
「なんてったって、対ドラゴンを想定して建造された建物だからな」
「う……うん?」
敵意を持ったドラゴンが、帝都内部にまで侵入できるものか、その前に討伐されているんじゃないのかな……とセイランは疑問に思ったが、そこは素直に頷いておいた。
「なにしろ、冒険者ギルドは、有事の際の帝都民たちの避難所にも指定されているくらいだからな。防御力はすごいんだって」
「でも、帝都民たちの『避難先に選びたい場所ランキング』にはランクインされていないのが微妙」
ハヤテとカフウの説明に、セイランはなるほどと頷く。
帝都に危害を加える存在は、なにもドラゴンだけではないだろう。
とりあえず、冒険者ギルドはちょっとやそっとのことでは壊れない、ということはふたりの説明でよくわかった。
「だったら、とうさんが住んでいる場所はどうなの?」
「…………」
ハヤテが困ったような顔で口を閉じると、カフウに救いを求めるような視線を送った。
とうさんが大好きでたまらないセイランにどう答えてよいものなのか、自分よりも思慮深くて頭の良い妹へ、その役目をそっと押しつける。
「……あそこは特別。そもそも建物ですらない。比べること自体、愚かで間違っている。ただ……ヒトが住まう場所で考えるのなら、帝国内では皇城と張り合うことができる一番すごくて、一番ひどい場所」
無邪気なセイランの質問に、カフウは淡々とした態度で答える。
「…………? いちばんすごい場所にとうさんは住んでいるの? じゃあ、とうさんがいちばんすごいんだね」
「…………」
無邪気なセイランの言葉に、今度はふたりともが黙ってしまった。
だが、初めて見る冒険者ギルドの建物に興奮しているセイランは、ふたりの沈んだ表情には気づかない。
「冒険者ギルドの建物を見ていると、胸がとっても……ドキドキしてくるね……」
「そうか。きっと、それは、これから起こることに、セイランは期待しているんじゃないかな? ワクワクしているんだよ」
「ワクワク?」
ハヤテの説明にセイランは首を傾ける。
その拍子に前髪がサラリと揺れて、セイランの少女のように美しく整った顔が見え隠れする。
黒く濡れた瞳は、不思議そうにハヤテを見つめていた。
「これからどんなことが起こるのか、とか、こんなことが起こったらいいのにな、とか、色々考えると、胸がドキドキしてくるんだよ」
「未訪問の場所だから緊張して、心拍数があがっている……ともいう」
「カフウ……身も蓋もないな。もうちょっと、アレだ。わかりやすくセイランに教えてやれよ」
「大丈夫。セイランは理解できている」
兄と姉の視線を受けて、セイランは大きくうなずいた。
「うん。ボク、カフねーの言うコト、ちゃんと理解できたよ?」
「ホントウか? 難しすぎないか?」
「わかっているよ。ボクは初めての場所、初めてのミッションで、プレッシャーを感じているんだよね?」
少女の格好をした少年のしっかりとした返事に、ハヤテは慌てながらも頷く。
「お、おぅ。そうだ。ちゃんと……セイランはわかっているじゃないか」
「セイランはハヤテにぃよりも優秀だから当然」
「それもわかってるって……」
カフウのトゲトゲした言葉は軽く受け流す。
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