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深淵編(1)
いささか気になるが
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ギンフウが名にした某孤児院は、数か月前に閉鎖された施設である。
その孤児院は裏社会と繋がっていて、違法な人身売買を行っていた。
ギンフウは他人事のように語っているが、孤児院を閉鎖に追い込み、背後の奴隷商を潰したのは、ギンフウの指示で、彼の配下である『影』が始末したことである。
そして、その奴隷商の先には、某貴族が資金源を得るために一族一丸となって後押ししていたことを突き止め、関係者ひとり残さず、その家そのものを抹殺するまでにいたった。
五年前までは第十三騎士団団長だったギンフウは、現在、闇ギルド『深淵』のギルド長――という地位におさまり、第十三騎士団では許されなかった、さらに闇の深い部分にまで手を伸ばしていたのである。
孤児院を閉鎖した際に、証拠として押収した資料に細工を指示したのだろう。
多くの配下を失い、人員は常に不足していたが、ギンフウの部下であれば、そういったことは容易くできてしまう。
孤児から冒険者ギルドの登録システムを利用して、新たな身分を偽造する。
無難なスタートだな、とリョクランはギンフウと子どもたちのやりとりを眺めながら思った。
ギンフウのセイランに対する溺愛ぶりは異常なほどだが、あとのふたりに対しても、ギンフウはわかりにくい形ではあったが、愛情めいたものを注いで、大事に育てている。
なので、子どもたちは時期をみて、陽の当たる世界に放つとリョクランたちは思っていたのだが、予想は外れてしまった。
皇帝が許してくれなかったのだろう。
ギンフウは子どもたちを次世代の『影』として育てると決めたようだ。
ただ、孤児院出身であるならば……。
「……孤児院出身というわりには、装備がかなり整いすぎているのがいささか気になるが」
と言いながら、ギンフウはこの装備を用意したリュウフウを軽く睨む。
「ボス、それは大丈夫っすよ。どこからどうみても、普通の装備にしか見えません!」
リュウフウは胸をそらし、ドヤ顔で宣言する。
狐耳が得意気にピクピク動いていた。
(いや、駆け出し時期は、普通の装備をそろえるのも難しいのですが……)
そこで『いささか』という単語が使われるのも適切ではないとリョクランは思う。
準備段階からして、通常ではありえないちょっとおかしなこと……が起きているので、この先のことを想像すると、なんだか落ち着かない。
嫌な予感がビンビンする。
いつものように気配を殺してリョクランが様子をうかがっていると、作戦の説明が終わった。
だが、解散とはならずに、ギンフウは子どもたちを前にして、普通に振る舞えとか、目立たないようにしろとか、怪しいやつには簡単についていくなとか、細々と注意を与えつづけている。
最後には、買い食いは控えろだの、道端に落ちているものを拾って食べるなだの、一体、なにを言いたいのかわからない状態になってきている。
子どもたちの表情も、最初は緊張していたのだが、そのうちにだんだんと困惑したものへと変化していた。
(……ギンフウがぐだぐだになっている)
リョクランの額から一滴の汗が流れ落ちた。
眉ひとつ動かさず非情な命令を下すあのギンフウが、わけのわからないことを言いだした……。
他の仲間たちには見せられない、見せたくない混沌とした光景だった。
本人は無表情に徹し、隠しているつもりなのだろうが、心配で心配でたまらないのがバレバレである。
(……で、こっちのヒトも困ったものですねえ……)
と心のなかで呟きながら、リョクランは酒場のマダムを盗み見る。
エルフのマダムはグダグダなギンフウの姿を眺めて楽しそうに微笑んでいる。
子どもたちには激甘になるボスの姿を少しだけ微笑ましいと思いながらも、リョクランは心にひっかかるものを感じていた。
なにか、自分たちは大事な……とても大事なことを見落としているのではないか……。
という不安がチクリと脳裏を刺激する。
「いってきます」といって、元気よく『深淵』の『酒場』を出て行った子どもたちを、バーテンダーのリョクランは一抹の不安を抱えながら見送ったのであった。
その孤児院は裏社会と繋がっていて、違法な人身売買を行っていた。
ギンフウは他人事のように語っているが、孤児院を閉鎖に追い込み、背後の奴隷商を潰したのは、ギンフウの指示で、彼の配下である『影』が始末したことである。
そして、その奴隷商の先には、某貴族が資金源を得るために一族一丸となって後押ししていたことを突き止め、関係者ひとり残さず、その家そのものを抹殺するまでにいたった。
五年前までは第十三騎士団団長だったギンフウは、現在、闇ギルド『深淵』のギルド長――という地位におさまり、第十三騎士団では許されなかった、さらに闇の深い部分にまで手を伸ばしていたのである。
孤児院を閉鎖した際に、証拠として押収した資料に細工を指示したのだろう。
多くの配下を失い、人員は常に不足していたが、ギンフウの部下であれば、そういったことは容易くできてしまう。
孤児から冒険者ギルドの登録システムを利用して、新たな身分を偽造する。
無難なスタートだな、とリョクランはギンフウと子どもたちのやりとりを眺めながら思った。
ギンフウのセイランに対する溺愛ぶりは異常なほどだが、あとのふたりに対しても、ギンフウはわかりにくい形ではあったが、愛情めいたものを注いで、大事に育てている。
なので、子どもたちは時期をみて、陽の当たる世界に放つとリョクランたちは思っていたのだが、予想は外れてしまった。
皇帝が許してくれなかったのだろう。
ギンフウは子どもたちを次世代の『影』として育てると決めたようだ。
ただ、孤児院出身であるならば……。
「……孤児院出身というわりには、装備がかなり整いすぎているのがいささか気になるが」
と言いながら、ギンフウはこの装備を用意したリュウフウを軽く睨む。
「ボス、それは大丈夫っすよ。どこからどうみても、普通の装備にしか見えません!」
リュウフウは胸をそらし、ドヤ顔で宣言する。
狐耳が得意気にピクピク動いていた。
(いや、駆け出し時期は、普通の装備をそろえるのも難しいのですが……)
そこで『いささか』という単語が使われるのも適切ではないとリョクランは思う。
準備段階からして、通常ではありえないちょっとおかしなこと……が起きているので、この先のことを想像すると、なんだか落ち着かない。
嫌な予感がビンビンする。
いつものように気配を殺してリョクランが様子をうかがっていると、作戦の説明が終わった。
だが、解散とはならずに、ギンフウは子どもたちを前にして、普通に振る舞えとか、目立たないようにしろとか、怪しいやつには簡単についていくなとか、細々と注意を与えつづけている。
最後には、買い食いは控えろだの、道端に落ちているものを拾って食べるなだの、一体、なにを言いたいのかわからない状態になってきている。
子どもたちの表情も、最初は緊張していたのだが、そのうちにだんだんと困惑したものへと変化していた。
(……ギンフウがぐだぐだになっている)
リョクランの額から一滴の汗が流れ落ちた。
眉ひとつ動かさず非情な命令を下すあのギンフウが、わけのわからないことを言いだした……。
他の仲間たちには見せられない、見せたくない混沌とした光景だった。
本人は無表情に徹し、隠しているつもりなのだろうが、心配で心配でたまらないのがバレバレである。
(……で、こっちのヒトも困ったものですねえ……)
と心のなかで呟きながら、リョクランは酒場のマダムを盗み見る。
エルフのマダムはグダグダなギンフウの姿を眺めて楽しそうに微笑んでいる。
子どもたちには激甘になるボスの姿を少しだけ微笑ましいと思いながらも、リョクランは心にひっかかるものを感じていた。
なにか、自分たちは大事な……とても大事なことを見落としているのではないか……。
という不安がチクリと脳裏を刺激する。
「いってきます」といって、元気よく『深淵』の『酒場』を出て行った子どもたちを、バーテンダーのリョクランは一抹の不安を抱えながら見送ったのであった。
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