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深淵編(1)
こんな格好でも
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ギンフウが溺愛しているセイランは、今年で八歳になる。
冒険者登録ができるのは十歳からとされている。
規定では十歳となっているが、それはち方の冒険者ギルドが、収入が必要な家庭に向けて、薬草採取の仕事を斡旋するために設定した年齢だ。
そういう特殊な事例はおいておいて、現実的な観点からすれば、冒険者登録は十二、三歳くらい、生存率をあげるのなら、十五くらいから始めるのがよいとギンフウは考えている。
まあ、ギンフウの目の前にいるちびっ子たちは、ギンフウが手ずから育て、ギンフウの優秀な部下たちが鍛えに鍛えた子どもたちだ。
『通常』という枠におさまらない、いびつな生い立ちをもつ子どもたちだ。
身内贔屓ではなく、真面目に、そこらの大人たちよりも強い。
冒険者として十二分にやっていける技は叩き込んでいる。
であったとしても、セイランは、今年でようやく八歳になるのだ。
ということは、年齢を偽る必要があるのだが、八歳児にしては、セイランはとても小柄な子どもだった。
どこからどう見ても、五歳児と判断されてもおかしくない体格をしていた。
誤魔化すこと自体に無理がある。
医術に詳しい者の見立てでは、セイランは魔力に関する数値が、人並外れて異常に高い。
それはヒトとしてはありえない、歪められた状態だという。例えるのなら、呪いのように枷となって、肉体の成長に影響がでているというのだ。
それゆえにセイランは体内の魔力をうまくコントロールできずに、たびたび熱をだしては寝込んでいる。
もともと食が細い子どもだったが、熱がでたときはほとんど食べ物を口にすることができず、それも影響して、肉体の成長が遅れがちになっていた。
一般的な傾向として、魔力の高い人間や種族は、成長や老化のスピードがゆるやかになる傾向にあった。まれに、老化が止まる者もいる。
ただし、成人して心身ともに落ち着いてからの話だ。
ギンフウも成人した頃から老化が止まり、見た目と実年齢がくいちがっている。
彼の部下たちも全員がそうだった。
長く生きすぎて、年を数えるのが面倒になり、年齢不詳となってしまった者も大勢いる。
だが、彼らはみなセイランぐらいの頃は、普通のヒトと同じように成長していた。
セイランの場合は、魔力があまりにも多すぎて、成長の停滞症状が幼い頃から顕著に現れているのだという。
皮肉なことに、セイランのステータスは、三人の子どもの中で一番優れている。
実際年齢はもちろん、精神年齢もあわせて低く、さらに、あの容姿が加われば、まだ、目の届くところ……庇護下においておきたいというのが、保護者としてのギンフウの本音だった。
今もこうしてセイランを抱きしめながら、ギンフウは密かにセイランの心変わりを期待していた。
背中や頭を優しく撫でながら、どのような言葉を使って、セイランの気持ちをかえようか、あれこれと思案する。
しかし、兄弟同然で育っているハヤテとカフウが訓練もかねて、外の世界で活動をはじめると、ひとり取り残されたセイランの情緒が不安定になり、魔力のバランスがひどく崩れはじめていた。
このままなにも対策を講じなければ、セイランは魔力を制御しきれずに寝込んでしまうだろう。
生命を落とす可能性もある、という。
セイランの調子が悪くなれば、それにひきずられて、他のふたりの子どもも情緒不安定になる。
それは非情にまずい悪循環であった。
子どもたちの保護者として、それだけは回避しなければならない。
それがギンフウの悩みの種となっていた。
ふたりについていきたいと思うのは、子どもとして自然の流れだろう。
その感情は、大事に育ててやりたい。とギンフウは考えている。
まあ、セイランの場合は、ふたりに「ついていきたい」という思いよりも、ふたりから「離れたくない」という恐怖の方が強い気がしたが……。
「こんな格好でも、セイランは冒険者ギルドに行くんだな?」
「うん。行くよ!」
小さいが、はっきりとしたセイランの返事に、ギンフウは軽くため息をつく。
冒険者登録ができるのは十歳からとされている。
規定では十歳となっているが、それはち方の冒険者ギルドが、収入が必要な家庭に向けて、薬草採取の仕事を斡旋するために設定した年齢だ。
そういう特殊な事例はおいておいて、現実的な観点からすれば、冒険者登録は十二、三歳くらい、生存率をあげるのなら、十五くらいから始めるのがよいとギンフウは考えている。
まあ、ギンフウの目の前にいるちびっ子たちは、ギンフウが手ずから育て、ギンフウの優秀な部下たちが鍛えに鍛えた子どもたちだ。
『通常』という枠におさまらない、いびつな生い立ちをもつ子どもたちだ。
身内贔屓ではなく、真面目に、そこらの大人たちよりも強い。
冒険者として十二分にやっていける技は叩き込んでいる。
であったとしても、セイランは、今年でようやく八歳になるのだ。
ということは、年齢を偽る必要があるのだが、八歳児にしては、セイランはとても小柄な子どもだった。
どこからどう見ても、五歳児と判断されてもおかしくない体格をしていた。
誤魔化すこと自体に無理がある。
医術に詳しい者の見立てでは、セイランは魔力に関する数値が、人並外れて異常に高い。
それはヒトとしてはありえない、歪められた状態だという。例えるのなら、呪いのように枷となって、肉体の成長に影響がでているというのだ。
それゆえにセイランは体内の魔力をうまくコントロールできずに、たびたび熱をだしては寝込んでいる。
もともと食が細い子どもだったが、熱がでたときはほとんど食べ物を口にすることができず、それも影響して、肉体の成長が遅れがちになっていた。
一般的な傾向として、魔力の高い人間や種族は、成長や老化のスピードがゆるやかになる傾向にあった。まれに、老化が止まる者もいる。
ただし、成人して心身ともに落ち着いてからの話だ。
ギンフウも成人した頃から老化が止まり、見た目と実年齢がくいちがっている。
彼の部下たちも全員がそうだった。
長く生きすぎて、年を数えるのが面倒になり、年齢不詳となってしまった者も大勢いる。
だが、彼らはみなセイランぐらいの頃は、普通のヒトと同じように成長していた。
セイランの場合は、魔力があまりにも多すぎて、成長の停滞症状が幼い頃から顕著に現れているのだという。
皮肉なことに、セイランのステータスは、三人の子どもの中で一番優れている。
実際年齢はもちろん、精神年齢もあわせて低く、さらに、あの容姿が加われば、まだ、目の届くところ……庇護下においておきたいというのが、保護者としてのギンフウの本音だった。
今もこうしてセイランを抱きしめながら、ギンフウは密かにセイランの心変わりを期待していた。
背中や頭を優しく撫でながら、どのような言葉を使って、セイランの気持ちをかえようか、あれこれと思案する。
しかし、兄弟同然で育っているハヤテとカフウが訓練もかねて、外の世界で活動をはじめると、ひとり取り残されたセイランの情緒が不安定になり、魔力のバランスがひどく崩れはじめていた。
このままなにも対策を講じなければ、セイランは魔力を制御しきれずに寝込んでしまうだろう。
生命を落とす可能性もある、という。
セイランの調子が悪くなれば、それにひきずられて、他のふたりの子どもも情緒不安定になる。
それは非情にまずい悪循環であった。
子どもたちの保護者として、それだけは回避しなければならない。
それがギンフウの悩みの種となっていた。
ふたりについていきたいと思うのは、子どもとして自然の流れだろう。
その感情は、大事に育ててやりたい。とギンフウは考えている。
まあ、セイランの場合は、ふたりに「ついていきたい」という思いよりも、ふたりから「離れたくない」という恐怖の方が強い気がしたが……。
「こんな格好でも、セイランは冒険者ギルドに行くんだな?」
「うん。行くよ!」
小さいが、はっきりとしたセイランの返事に、ギンフウは軽くため息をつく。
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