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深淵編(1)
ボクは男の子なのに……?
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リュウフウの次は自分たちだろ、とでも言いたげに、子どもたちがギンフウを見上げる。
「なぁ、ギンフウ……。おれの装備はどうだ?」
「ああ。ハヤテは、なにを着てもカッコいいな」
「わたしは?」
「カフウはどこからどう見ても、立派な魔術師にみえる。完璧だ」
「……ボク……は?」
「うん。セイランの格好は、すごく似合っているぞ。リュウフウ渾身の作品だな。……ただ、外に出るときは、前髪は必ず下ろしておくように」
ギンフウの言葉に、セイランは小さく頷くと、前髪をとめていた髪飾りを外す。
長い前髪がふわりと動き、瞬く間に少女の美しい容貌を隠してしまった。
「え――っ。もったいない」
という、リュウフウとコクランの声が重なって聞こえたが、ギンフウは無視する。
前髪の位置を手で整えながら、セイランはギンフウを見上げた。
「とうさん、あのね……コレはね……女の子……のカッコウだよ……?」
「うん。女の子が好むデザインだよな。五十人に聞いたら、四十九人は間違いなく、女の子だと答えるだろう。びっくりするくらい、とても似合っている。惚れ直したぞ」
ギンフウは微妙な数字を真剣な顔で言うと、不満げなセイランをひょいと抱き上げた。
小柄で華奢な少年は羽根のように軽い。
「ボクは男の子なのに……?」
前髪で隠れてしまったが、セイランの黒い瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
納得できない、とブツブツと呟いているセイランに、ギンフウは頬をよせて、耳元で優しく囁く。
「そういえば、セイランとのおはようのキスがまだだったな?」
と言いながら、左右の頬に「チュッ」とわざと大きな音をたててキスをする。
セイランもそれに応えるように、左右の頬におはようのキスを返す。
そして、そのままセイランは父親の首に両腕を回し、甘えるようにべったりとギンフウにくっついた。
「スカートってスースーする」
「ボクは男の子なのに……」
「どうして」
「なんで」
「はずかしい……」
という恨めしげな呟きが、次から次へとセイランの口からあふれでてくる。
こういう展開になることは予測していたのか、ギンフウは慌てることなく、セイランの文句を黙って聞きつづける。
子どもの語彙力が尽き果てるころ、セイランは「とうさんはいじわるだ」と最後の言葉と一緒に、ギンフウ胸の中に顔をうずめ、そのまま動かなくなった。
「……セイランは……本当に、甘えたさんだなぁ……」
いくつもの視線がギンフウへと向けられているが、金髪の美丈夫は気にすることなく、とろけたような笑みを浮かべる。
「なん……」
「ふぅっ……」
「あああっつ!」
ギンフウのめったに見せない極上の微笑みに、コクランは手にしていた銀の煙管を思わず取り落としてしまった。
リョクランはグラスを胸に抱えて嘆息し、顔を真っ赤にしたリュウフウは鼻を抑えて床にしゃがみ込む。
子どもたちはそんな大人たちの奇妙な行動を、冷めた目で眺めていた。
自分の不用意な笑みに狼狽える周囲の様子は把握していたが、ギンフウは気にする風もなく、セイランに甘い眼差しを注ぐ。
手で鼻を抑えながら「ぼ、ボスの貴重な微笑。眼福……これで十日は寝ずに作業ができる」とリュウフウがはぁはぁと喘いでいる。
カウンターにいたリョクランの姿が見えない。おそらく、この状況に耐えきれず、一連のやり取りが終わるまで、カウンターの陰に身を潜めることにしたのだろう。
免疫があり、訓練された部下たちだからこうしてギンフウの微笑にも耐えることができるが、妙齢の一般女性がこれを見たら、間違いなく気を失う者が続出するというレベルだ。
「なぁ、ギンフウ……。おれの装備はどうだ?」
「ああ。ハヤテは、なにを着てもカッコいいな」
「わたしは?」
「カフウはどこからどう見ても、立派な魔術師にみえる。完璧だ」
「……ボク……は?」
「うん。セイランの格好は、すごく似合っているぞ。リュウフウ渾身の作品だな。……ただ、外に出るときは、前髪は必ず下ろしておくように」
ギンフウの言葉に、セイランは小さく頷くと、前髪をとめていた髪飾りを外す。
長い前髪がふわりと動き、瞬く間に少女の美しい容貌を隠してしまった。
「え――っ。もったいない」
という、リュウフウとコクランの声が重なって聞こえたが、ギンフウは無視する。
前髪の位置を手で整えながら、セイランはギンフウを見上げた。
「とうさん、あのね……コレはね……女の子……のカッコウだよ……?」
「うん。女の子が好むデザインだよな。五十人に聞いたら、四十九人は間違いなく、女の子だと答えるだろう。びっくりするくらい、とても似合っている。惚れ直したぞ」
ギンフウは微妙な数字を真剣な顔で言うと、不満げなセイランをひょいと抱き上げた。
小柄で華奢な少年は羽根のように軽い。
「ボクは男の子なのに……?」
前髪で隠れてしまったが、セイランの黒い瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
納得できない、とブツブツと呟いているセイランに、ギンフウは頬をよせて、耳元で優しく囁く。
「そういえば、セイランとのおはようのキスがまだだったな?」
と言いながら、左右の頬に「チュッ」とわざと大きな音をたててキスをする。
セイランもそれに応えるように、左右の頬におはようのキスを返す。
そして、そのままセイランは父親の首に両腕を回し、甘えるようにべったりとギンフウにくっついた。
「スカートってスースーする」
「ボクは男の子なのに……」
「どうして」
「なんで」
「はずかしい……」
という恨めしげな呟きが、次から次へとセイランの口からあふれでてくる。
こういう展開になることは予測していたのか、ギンフウは慌てることなく、セイランの文句を黙って聞きつづける。
子どもの語彙力が尽き果てるころ、セイランは「とうさんはいじわるだ」と最後の言葉と一緒に、ギンフウ胸の中に顔をうずめ、そのまま動かなくなった。
「……セイランは……本当に、甘えたさんだなぁ……」
いくつもの視線がギンフウへと向けられているが、金髪の美丈夫は気にすることなく、とろけたような笑みを浮かべる。
「なん……」
「ふぅっ……」
「あああっつ!」
ギンフウのめったに見せない極上の微笑みに、コクランは手にしていた銀の煙管を思わず取り落としてしまった。
リョクランはグラスを胸に抱えて嘆息し、顔を真っ赤にしたリュウフウは鼻を抑えて床にしゃがみ込む。
子どもたちはそんな大人たちの奇妙な行動を、冷めた目で眺めていた。
自分の不用意な笑みに狼狽える周囲の様子は把握していたが、ギンフウは気にする風もなく、セイランに甘い眼差しを注ぐ。
手で鼻を抑えながら「ぼ、ボスの貴重な微笑。眼福……これで十日は寝ずに作業ができる」とリュウフウがはぁはぁと喘いでいる。
カウンターにいたリョクランの姿が見えない。おそらく、この状況に耐えきれず、一連のやり取りが終わるまで、カウンターの陰に身を潜めることにしたのだろう。
免疫があり、訓練された部下たちだからこうしてギンフウの微笑にも耐えることができるが、妙齢の一般女性がこれを見たら、間違いなく気を失う者が続出するというレベルだ。
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