生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

のりのりの

文字の大きさ
上 下
23 / 222
フィリア編(1)

凶事を知らせる狼煙だ

しおりを挟む
 ふらつくフィリアを抱きかかえながら、ギルが答えのわからぬ疑問を呟く。

「あれは、魔導で作られた信号弾が炸裂したものだ」

 旦那さまがギルの疑問に答えた。嫌悪とも憎悪ともとれる旦那さまの苦々しい声に、少年たちは違和感を感じる。

「旦那さま?」

 旦那さまは形のよい眉を顰め、鋭い目線で光の柱を見つめている。なにかに堪えるかのように、唇を強く噛みしめていた。

 旦那さまの険しい横顔に、フィリアとギルは不思議そうに顔を見合わせる。

(今日の旦那さまはおかしい……)

 フィリアは何度も心に浮かんでは消えていく疑問を無理やり意識の奥底にしまいこみ、目の前の出来事に注目する。

「あれが……信号弾ですか……?」
「どれだけ大きい信号弾なんだ?」

 フィリアは首を傾げ、ギルは目をみはる。
 にわかには信じがたい。
 古代遺跡が暴発した、とでも説明された方が納得できるだろう。

 冒険者ギルドでは魔獣の襲来に備えて、冒険者通達用の緊急信号弾が用意されている。実際に使用されたのをふたりは見たことがあるが、信号弾はあのように派手で、大きなものではない。規模が全く違う。

「あの信号弾は、フォルティアナ帝国の騎士団が使う特別なモノだ」
「帝国騎士団が……」

 旦那さまの淡々とした説明に、ギルは納得したように小さく頷いた。

 帝国の騎士団が使うものなら、あの規模の信号弾がこの世に存在していてもなんら不思議ではない。

 あの大きさの光の柱なら、フォルティアナ帝国内のどこで打ち上げても、瞬時に発見することができるだろう。

「あの光の柱は、フォルティアナ帝国の『最も尊き御方』に凶事を知らせる狼煙だ」
「凶事?」

 少年たちは再び光の柱へと視線を向ける。

「そうだ。あの色の組み合わせは、わたしも初めてみるが……」

 旦那さまはすっと左腕を上げて、光の柱の方を指さす。

 白銀。
 黒い赤。
 黄色と緑の螺旋。

 三つの光が重なって柱となっている。

「黄色と緑の螺旋は……撤退」

 事実だけを告げる低い男の声が、フィリアとギルの心に響く。

「黒い赤は……全滅」

「え……っ?」
「ぜ、ぜんめつ……?」

 少年たちは目を凝らし、光の柱をくいいるように見つめなおす。

 大陸で最強を誇る帝国の騎士団が全滅するなど、信じられなかった。
 帝都で暮らしていると、騎士団の軍行に遭遇する機会も多い。帝都の警備も騎士団が指揮をとっている。

 どの騎士団もとても威厳に満ち、強そうな集団だった。
 騎士団に入団するには厳しい試験と審査があり、入団後も常に過酷な訓練と教育が行われているという。
 帝国騎士団は、帝国を守護する絶対的な存在として君臨している。それが全滅するなど……。

 だが、生真面目な旦那さまが嘘を言っているとは思えなかった。

 一刻も早く、なにをおいても、どこにいようとも、確実に帝国の最も尊き御方――皇帝――へと知らせなければならないこと……。

 残酷な現実に、フィリアは身体を震わせる。
 一体、あの場所でどれだけの生命が失われたというのだろうか。
 フィリアの隣では、ギルが死者を弔う祈りの詞をそっと呟いている。 

「そして……白銀は……」

 そこで一旦、旦那さまは言葉を区切ると、軽く目を伏せた。

「……白銀は……第十三騎士団……」

「十三?」
「帝国の騎士団の数は十二ですよ?」

 少年たちの素朴な疑問に、旦那さまは軽く頷き返す。

「そうだな。フォルティアナ帝国の騎士団の数は、十二といわれている。だが、それは表向きの話だ」
「表向き……?」
「そうだ。帝国の建国に最も貢献し、帝国の二千余年の歴史を陰から支えてきたのが、十三番目の騎士団だ」

 旦那さまの表情が歪み、声が苦々しいものになる。

「第十三騎士団はフォルティアナ帝国最強と云われる第一騎士団と対なす存在。第一騎士団と並ぶ強さと権限が与えられている。しかし、第十三騎士団は決して表舞台に出ることはない。帝国の上層のみが知りうる幻の騎士団だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...