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フィリア編(1)
凶事を知らせる狼煙だ
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ふらつくフィリアを抱きかかえながら、ギルが答えのわからぬ疑問を呟く。
「あれは、魔導で作られた信号弾が炸裂したものだ」
旦那さまがギルの疑問に答えた。嫌悪とも憎悪ともとれる旦那さまの苦々しい声に、少年たちは違和感を感じる。
「旦那さま?」
旦那さまは形のよい眉を顰め、鋭い目線で光の柱を見つめている。なにかに堪えるかのように、唇を強く噛みしめていた。
旦那さまの険しい横顔に、フィリアとギルは不思議そうに顔を見合わせる。
(今日の旦那さまはおかしい……)
フィリアは何度も心に浮かんでは消えていく疑問を無理やり意識の奥底にしまいこみ、目の前の出来事に注目する。
「あれが……信号弾ですか……?」
「どれだけ大きい信号弾なんだ?」
フィリアは首を傾げ、ギルは目をみはる。
にわかには信じがたい。
古代遺跡が暴発した、とでも説明された方が納得できるだろう。
冒険者ギルドでは魔獣の襲来に備えて、冒険者通達用の緊急信号弾が用意されている。実際に使用されたのをふたりは見たことがあるが、信号弾はあのように派手で、大きなものではない。規模が全く違う。
「あの信号弾は、フォルティアナ帝国の騎士団が使う特別なモノだ」
「帝国騎士団が……」
旦那さまの淡々とした説明に、ギルは納得したように小さく頷いた。
帝国の騎士団が使うものなら、あの規模の信号弾がこの世に存在していてもなんら不思議ではない。
あの大きさの光の柱なら、フォルティアナ帝国内のどこで打ち上げても、瞬時に発見することができるだろう。
「あの光の柱は、フォルティアナ帝国の『最も尊き御方』に凶事を知らせる狼煙だ」
「凶事?」
少年たちは再び光の柱へと視線を向ける。
「そうだ。あの色の組み合わせは、わたしも初めてみるが……」
旦那さまはすっと左腕を上げて、光の柱の方を指さす。
白銀。
黒い赤。
黄色と緑の螺旋。
三つの光が重なって柱となっている。
「黄色と緑の螺旋は……撤退」
事実だけを告げる低い男の声が、フィリアとギルの心に響く。
「黒い赤は……全滅」
「え……っ?」
「ぜ、ぜんめつ……?」
少年たちは目を凝らし、光の柱をくいいるように見つめなおす。
大陸で最強を誇る帝国の騎士団が全滅するなど、信じられなかった。
帝都で暮らしていると、騎士団の軍行に遭遇する機会も多い。帝都の警備も騎士団が指揮をとっている。
どの騎士団もとても威厳に満ち、強そうな集団だった。
騎士団に入団するには厳しい試験と審査があり、入団後も常に過酷な訓練と教育が行われているという。
帝国騎士団は、帝国を守護する絶対的な存在として君臨している。それが全滅するなど……。
だが、生真面目な旦那さまが嘘を言っているとは思えなかった。
一刻も早く、なにをおいても、どこにいようとも、確実に帝国の最も尊き御方――皇帝――へと知らせなければならないこと……。
残酷な現実に、フィリアは身体を震わせる。
一体、あの場所でどれだけの生命が失われたというのだろうか。
フィリアの隣では、ギルが死者を弔う祈りの詞をそっと呟いている。
「そして……白銀は……」
そこで一旦、旦那さまは言葉を区切ると、軽く目を伏せた。
「……白銀は……第十三騎士団……」
「十三?」
「帝国の騎士団の数は十二ですよ?」
少年たちの素朴な疑問に、旦那さまは軽く頷き返す。
「そうだな。フォルティアナ帝国の騎士団の数は、十二といわれている。だが、それは表向きの話だ」
「表向き……?」
「そうだ。帝国の建国に最も貢献し、帝国の二千余年の歴史を陰から支えてきたのが、十三番目の騎士団だ」
旦那さまの表情が歪み、声が苦々しいものになる。
「第十三騎士団はフォルティアナ帝国最強と云われる第一騎士団と対なす存在。第一騎士団と並ぶ強さと権限が与えられている。しかし、第十三騎士団は決して表舞台に出ることはない。帝国の上層のみが知りうる幻の騎士団だ」
「あれは、魔導で作られた信号弾が炸裂したものだ」
旦那さまがギルの疑問に答えた。嫌悪とも憎悪ともとれる旦那さまの苦々しい声に、少年たちは違和感を感じる。
「旦那さま?」
旦那さまは形のよい眉を顰め、鋭い目線で光の柱を見つめている。なにかに堪えるかのように、唇を強く噛みしめていた。
旦那さまの険しい横顔に、フィリアとギルは不思議そうに顔を見合わせる。
(今日の旦那さまはおかしい……)
フィリアは何度も心に浮かんでは消えていく疑問を無理やり意識の奥底にしまいこみ、目の前の出来事に注目する。
「あれが……信号弾ですか……?」
「どれだけ大きい信号弾なんだ?」
フィリアは首を傾げ、ギルは目をみはる。
にわかには信じがたい。
古代遺跡が暴発した、とでも説明された方が納得できるだろう。
冒険者ギルドでは魔獣の襲来に備えて、冒険者通達用の緊急信号弾が用意されている。実際に使用されたのをふたりは見たことがあるが、信号弾はあのように派手で、大きなものではない。規模が全く違う。
「あの信号弾は、フォルティアナ帝国の騎士団が使う特別なモノだ」
「帝国騎士団が……」
旦那さまの淡々とした説明に、ギルは納得したように小さく頷いた。
帝国の騎士団が使うものなら、あの規模の信号弾がこの世に存在していてもなんら不思議ではない。
あの大きさの光の柱なら、フォルティアナ帝国内のどこで打ち上げても、瞬時に発見することができるだろう。
「あの光の柱は、フォルティアナ帝国の『最も尊き御方』に凶事を知らせる狼煙だ」
「凶事?」
少年たちは再び光の柱へと視線を向ける。
「そうだ。あの色の組み合わせは、わたしも初めてみるが……」
旦那さまはすっと左腕を上げて、光の柱の方を指さす。
白銀。
黒い赤。
黄色と緑の螺旋。
三つの光が重なって柱となっている。
「黄色と緑の螺旋は……撤退」
事実だけを告げる低い男の声が、フィリアとギルの心に響く。
「黒い赤は……全滅」
「え……っ?」
「ぜ、ぜんめつ……?」
少年たちは目を凝らし、光の柱をくいいるように見つめなおす。
大陸で最強を誇る帝国の騎士団が全滅するなど、信じられなかった。
帝都で暮らしていると、騎士団の軍行に遭遇する機会も多い。帝都の警備も騎士団が指揮をとっている。
どの騎士団もとても威厳に満ち、強そうな集団だった。
騎士団に入団するには厳しい試験と審査があり、入団後も常に過酷な訓練と教育が行われているという。
帝国騎士団は、帝国を守護する絶対的な存在として君臨している。それが全滅するなど……。
だが、生真面目な旦那さまが嘘を言っているとは思えなかった。
一刻も早く、なにをおいても、どこにいようとも、確実に帝国の最も尊き御方――皇帝――へと知らせなければならないこと……。
残酷な現実に、フィリアは身体を震わせる。
一体、あの場所でどれだけの生命が失われたというのだろうか。
フィリアの隣では、ギルが死者を弔う祈りの詞をそっと呟いている。
「そして……白銀は……」
そこで一旦、旦那さまは言葉を区切ると、軽く目を伏せた。
「……白銀は……第十三騎士団……」
「十三?」
「帝国の騎士団の数は十二ですよ?」
少年たちの素朴な疑問に、旦那さまは軽く頷き返す。
「そうだな。フォルティアナ帝国の騎士団の数は、十二といわれている。だが、それは表向きの話だ」
「表向き……?」
「そうだ。帝国の建国に最も貢献し、帝国の二千余年の歴史を陰から支えてきたのが、十三番目の騎士団だ」
旦那さまの表情が歪み、声が苦々しいものになる。
「第十三騎士団はフォルティアナ帝国最強と云われる第一騎士団と対なす存在。第一騎士団と並ぶ強さと権限が与えられている。しかし、第十三騎士団は決して表舞台に出ることはない。帝国の上層のみが知りうる幻の騎士団だ」
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